男子のスポーツというイメージが強いラグビー。しかし、女子のラグビーも、2014年に7人制ラグビーのリーグ戦「ウィメンズセブンズ」が創設されるなど、徐々に普及が進んでいます。そしてこの春、その流れをさらに加速させるべく、早稲田大学ラグビー蹴球部が女子部を創設しました。
六大学でも初となるラグビー女子部の発足。男子ラグビーの強豪である同校は、なぜその決断に至ったのか。女子部創設にあわせて開催された、説明会を取材しました。
伝統校ならではの、女子部創設の意義
早稲田大学ラグビー蹴球部に女子部が誕生したきっかけは、学生からの声でした。小学生からラグビーを続けてきた4人の学生が発起人となり、ラグビー蹴球部OBの柳澤 眞さんに相談。彼女らの熱意を感じ取った柳澤さんは、早稲田大学の女子学生も、学問とラグビーの文武両道に挑戦できる男子同様の環境を作りたいと考え、女子部創設を恩藏直人部長らに進言しました。
「早稲田大学と交流のある海外の大学、たとえばイギリスのケンブリッジ大学やオックスフォード大学にも女子ラグビー部があります。国内で伝統のある早稲田のラグビー蹴球部の現状を考えたとき、女子部を作る意義があると考えました。早稲田には影響力があります。最終的には、日本のラグビー界にとって、女子もラグビーをするのが当たり前という土壌を作りたいと思っています」(柳澤さん)
150人の大所帯である男子部と比べ、女子部の人数はトレーナーなどを含めても10人強。規模の差は歴然です。それでも、女子部は男子部の傘下に入らず、並列の関係で運営されていくことになりました。その運営形態を模索するなかで、柳澤さんには「葛藤」があったそうです。
「早稲田大学ラグビー蹴球部は、誰にでも入れる組織ではありません。入部後も伝統のジャージを着れるのはたった15人で、それを着ることなく卒業していく人が大半です。人数の少ない女子部が、その男子とどのように融合していくか、いまも葛藤しています。直線的な解はないと思っていますが、男子が大切にしてきたカルチャーを女子も継承して、お互いがリスペクトをしていく必要があります。私としては、女子部を作ったことで、いい方向にいったと思えるようにしたいです」(柳澤さん)
かくして2024年4月、ラグビー蹴球部女子部は旗揚げされました。現在は男子と同じ、東伏見や上井草などの拠点で練習を行っています。
勝つことだけを目標にしない。文武両道を掲げる
ラグビー蹴球部女子部のヘッドコーチを務めるのが、早稲田大学OBで、7人制ラグビー日本代表としてリオデジャネイロオリンピックにも出場した、横尾千里さんです。横尾さんは現在、全日本空輸で社員として働いており、2足の草鞋を履く形でのヘッドコーチ就任となります。横尾さんは女子部の大きな目標として、2026年度の太陽生命ウィメンズセブンズシリーズ優勝を掲げています。
「女子部の選手には、小学生からラグビーをやってきた経験者もいれば、初めてボールを触るという人もいます。2024年度は太陽生命ウィメンズセブンスシリーズ入替戦の優勝を目標にしていますが、厳しい戦いになると思っています。それが、選手たちを見た率直な感想です。でも、優勝できない、優勝を掲げない理由もないと考えています。練習をしていても、未経験の選手から、それとは考えられないプレーが出てくるなど、彼女らは私が考えた以上のものを発揮してくれています」(横尾さん)
ラグビー蹴球部女子部は「高いレベルでの文武両道の実現」をもうひとつの目標に掲げています。横尾さんが働きながらのヘッドコーチ就任となった理由も「ラグビーだけではない人物として、ラグビーに関わっていきたい」という考えを持っていたからだそうです。ダイレクターの柳澤さんも「クラブチームは勝利至上主義になりますが、大学の部活でやることには、別の意義もあると思っています」と述べており、単なるラグビーチームにはとどまらない、ポテンシャルが感じられます。
選手たちの話からも、文武両道に関する発言が多く聞かれました。主将を務める千北佳英さんが「この部から社会に出て、女性として活躍できる人材を輩出したい」と語ったほか、立ち上げの4人のメンバーのひとりである寺山芽生さんも「人間形成に力を入れ、自分が引退したあとに、ラグビーだけの大学生活ではなかったと思えるようにしたい」と抱負を語っています。
現在、9人の選手が所属しているラグビー蹴球部女子部。しかし、つい先日の4月1日時点では、選手は立ち上げメンバーの4人だけでした。約3週間のうちに、5人もスカウトしたことになります。千北さんによると「ラグビーの授業をとっていた人を勧誘したり、友達にも声をかけました。また、部のSNSにダイレクトメッセージで問い合わせをくれて、入部した選手もいます」ということで、彼女らの行動力が短期間での規模拡大につながっています。
明るい未来を予感させるエネルギッシュな記者会見
女子部の中心メンバーは多くが3年生で、引退まであまり多くの時間は残されていません。彼女らもそれを意識していて、選手の一人である國谷 蘭さんは「私たちの代で終わるのではなく、高校生が入りたいと思うような部活にしたい」と語っています。しかし、記者会見で夢を語る彼女たちを見ていて、その心配は杞憂に終わるような予感がしました。
今後、彼女たちの挑戦をウォッチしていきたい。そう思わせるだけの熱量がこもった記者会見でした。