意外と理解されていないのが、「計器マニア」と「測定マニア」の違いである。というか、そもそもそんなマニアがいるという認識すらされていない可能性もあるが、あなたが知らないだけで世の中にはそこそこいるのだ。計器マニアと測定マニア……。
計器というのはモノの長さや角度、重さ、温度、電流電圧、色温度や糖度などを測定して数値化する機械のこと。つまり、そういう機械を愛しているのが計器マニア。対して測定マニアというのは、そういう計器を使うことで現れる森羅万象の数値化という行為そのものを愛する人のことを指す。「なんだよ一緒じゃん」と言うなかれ。
【計器マニア】
●計測器が好き ●測定する行為が楽しい
【測定マニア】
●計測して正しい数値を知るのが好き ●不確かなものを許さない
わけてみるとこんな感じで、このふたつのマニアが人種として別モノだということはご理解いただけたと思う。では、なんでいきなりそんなことを言いだしたのかというと、昨年にクラウドファンディングでスタートした長さを測れるペン「InstruMMents」を使わせてもらったのだが、これが計測器マニアの「測定するよろこび」に満ちたアイテムだったからだ。
Montreal InstruMMents
1万7280円
InstruMMentsは、見たところシュッとしたデザインの金属軸ボールペン。正直なところ、後述のメカが軸後端に詰まってリアヘビーなのと、そのわりにペングリップが細くなりすぎているせいで書きづらい。だが、大事なのはそこじゃない。ペンはあくまでも常時携帯するための言い訳というかアリバイでしかない。先にも“長さを測れるペン”と紹介した通り、InstruMMentsで重要なのは、軸後端についている距離計測デバイス部分なのだ。
まず、スマホでInstruMMents専用アプリを起動したら、つづけてペンのお尻にタッチ。すると、Bluetoothでペンとスマホが連携される。あとはペンから照射されるレーザー光をガイドにして軸後端のローラーを転がすだけで、アプリに転がしただけの距離がカウントされる。
地図上でローラーを転がして距離を測る「キルビメーター」というツールがあるが、まんまあれのデジタル版だと思ってもらえればいい。ローラーを転がすだけなので、直線でも曲線でも自由自在。このローラーのコロコロと転がる感じが手のなかでだいぶ気持ちいいし、レーザーをガイドにするので測定物に直接ローラーを当てなくても測れるのも楽しい。なにより、ローラーを転がすとそれに連動してスマホが「ブッブッ」と震えるのが、アナログのメジャーを引き出して測ってる的な感触で面白い。
例えば、目の前にあったブロックメモの横幅をまず計測したとしよう。つぎに画面内の「+」をタップすると、先に計測した長さを保存した状態で数値がゼロに戻るので、今度はマーカーの縦の長さを計測。そしてもう一回、今度は高さを計測する。最後に「セーブ」を押すと、何を測ったのかタイトルと写真をつけて計測データとセットで保存することができるのだ。
これがかなり楽しくて、とにかく手近にあるモノはすべてサイズを測っては写真を撮ってリスト化してしまう。まるで図鑑を作っているような感覚である。また、データをセーブすると自動的にクラウドにhtml化してアップされるので、URLを伝えることで他人に計測した値を渡すことも可能というわけだ。
さらに将来的には、自宅の家具と家具の隙間を測ってデータ化しておくと、その隙間にきちんと納まるサイズの棚をAmazonで自動的に検索してくれたり……、ということもできるようになるらしい。あと、バスタブの外周を測るとサイズピッタリの風呂のフタを見つけてくれるとか(2017年1月の時点では、まだ実装されていない)。測る楽しさがそのまま生活の便利さにつながるので、早くスタートして欲しいシステムである。
このInstruMMentsを作ったのは、カナダでデザイン事務所を経営しているムラデン・バーバリック氏。工業デザイナーである彼は「とにかく身の回りのものすべてを測りたい」という欲求を元に、この計測ペンを作ったという。なるほど、彼もまた計測することそのものを愛する計測器マニアなのだろう。
実際問題として、長さを測る装置としてのInstruMMentsはそんなに優秀ではない。精度が出ないのだ。計測単位として0.1mmまで測れるスペックは備えているものの、ローラーを転がして0.1mmなんて超誤差。長さを測ってペンをスッと持ち上げただけで、ローラーがほんの少し回って1mm程度ならずれてしまう。
少なくとも、定規を当ててびっちり長さを出したいとか、ノギスで0.1mm単位まで正しく測りたいとか、そういう感性の人にとっては、InstruMMentsはわりとイライラさせられる機械だと思う。不確かさを許せない測定マニアには、あまりオススメできない(これらを踏まえると、バーバリック氏は測定マニアではないと思う)。
そもそも、直線を転がしていたつもりなのに少しカーブしていたりすると、出てきた距離なんてまったくアテにならない。どうしても正しい長さを出したいなら、InstruMMentsを定規に当てて真っ直ぐ測るしかないだろう。対して「多少の誤差ぐらいいいよ。なんとなく測れたら楽しいから」という、測るの大好き計測器マニアなら筆箱に1本入れておくのはオススメできる。「目についたものは当たるを幸い測り倒す」ぐらいの勢いでサイズを出してやるの、相当に楽しい。