【きだてたく文房具レビュー】ボディもリフィルも好き勝手に選べるボールペン
文具店の店頭でボールペンを買う時、初めて見るペンならひとまず手にとって試し書きをする、ということはあるだろう。で、その時に「あー、ちょっとなー、こうじゃないんだよー」と感じたことはないだろうか?
例えば「惜しいなー。もうちょっと軸が太かったらバッチリなんだよな」とか。逆に「あと少し軸が細い方が手に合うんだけど……」ということもあるだろう。もしくは、軸はバッチリ握りやすいのに書き味がちょっとハマらない、という場合もあるはずだ。
筆記具の好みは人それぞれ。このような、文房具好きなら誰もが一度は感じたことがあるだろう、ボールペンの「ちょっと違う」問題に対してコクヨが出したのは、「じゃあ、軸とリフィル(芯)を好きなように選んで組み合わせたらいいじゃん?」という、ごもっともにして大胆なアンサーである。
コクヨ「エラベルノ」は、まず軸をグリップ径3タイプ(太・標準・細)×2色(スモーク・クリア)からチョイス。次にインク2種(シルキー油性・エアリーゲル)×リフィルのボール径2タイプ(0.5㎜・0.7㎜)×インク色3/4色(油/黒・赤・青、ゲル/黒・赤・青・ブルーブラック)を選んで軸にセットし、最終的に自分好みの1本を購入できる、店頭カスタム式のボールペンだ。
例えば、筆圧が弱めの人なら、グリップは「太」の方がしっかり力をかけられるので持ちやすい(色は自由に)。でインクは、筆圧をかけなくても濃いめの線が書ける「エアリーゲル」の「0.7㎜」に……という感じで組み合わせていく。
店頭には各組み合わせの試筆用ペンが揃えられているので、ここで自分の好みをあれこれ検討すればOKだ。
エラベルノの面白いところは、この軸とリフィルの組み合わせ次第で、まったく違った性格のペンが生まれてしまうところだろう。これまでも、多色ペンなどで自分好みのリフィルを入れてカスタムすることはあったが、ここまで極端な変わりようは感じたことがない。
太さは細グリップの最も細い部分で直径約10.7㎜。対して太グリップの最も太い部分が直径約13.2㎜。この差、たかだか2.5㎜と侮るなかれ。実際に書き比べてみると、ペン先端への力のかかり具合がまったく違うのだ。
同じリフィルを使っていても、太いグリップで力を乗せて書くのと細いグリップでコントロールして書くのでは、書き味が驚くほどに変わってくる。もちろんどちらが良いかは個人の好みだが、その好みの差が自分でハッキリ認識できるぐらいのレベルで別物になるのが面白い。
3種とも共通なのは、一部を削ぎ落としたような“Dグリップ”を採用していること。その削ぎ落とした面に人差し指を乗せることで、すべすべなグリップの割に、しっかりとしたホールド感が得られるようになっている。
手汗をかくため、滑りやすいグリップに日頃は憎しみすら感じている筆者だが、このグリップはかなり好感が持てた。
さらに差が出るのが、リフィルのタイプ。
「エアリーゲル」は、確かに“エアリー”と言えるほどタッチが軽いサラサラのゲルインクだが、それより特徴的なのが、インクの発色の良さ。黒は本当に驚くほどがっつりと黒々しており、書いた字が読みやすい。
ボール径で言うと、0.5㎜は軽さを感じつつもコントロール性が良く、字が下手な人でも丁寧に書きやすい。0.7㎜になると軽さの印象が強くなるが、それ以上にズバッと黒くて太い線が書けるのがとても楽しい。
「シルキー油性」は、完全にぬるぬるに振り切った低粘度油性インク。体感としては、低粘度油性の代表である三菱鉛筆の「ジェットストリーム」よりも、さらにぬるぬるとした印象だ。
0.5㎜だと、この滑りを使ってスパッとシャープな線が気持ち良く書ける感じ。ただ0.7㎜になると、もうなめらかすぎてペン先がどこに行くのか分からないほど。なめらか系が好きな低粘度油性ファンでも評価が分かれそうなレベルである。
筆者の個人的な好みでいうと、丁寧に書きたい時は「細グリップにエアリーゲルの0.5㎜」、議事録や取材メモを取るなど速度優先は「太か標準グリップに0.7のエアリーゲル」というチョイスだろうか。
自分の作業に最適なペンを見つけ出す楽しみを味わうためにも、できれば店頭で納得いくまで試し書きをして、ベストな組み合わせを見つけて欲しい。というか、できれば軸を太さ別で3本と、リフィル全種(油性・ゲルと、0.5㎜・0.7㎜の組み合わせ)でまとめ買いして、自宅でじっくり書き比べて遊ぶのが一番楽しいと思う。
【著者プロフィール】
きだてたく
最新機能系から駄雑貨系おもちゃ文具まで、なんでも使い倒してレビューする文房具ライター。現在は文房具関連会社の企画広報として企業のオリジナルノベルティ提案なども行っており、筆箱の中は試作用のカッターやはさみ、テープのりなどでギチギチ。著書に『日本懐かし文房具大全』(辰巳出版)、『愛しき駄文具』(飛鳥新社)など。