【きだてたく文房具レビュー】小さなポッチ2つで100年ぶりの革命を起こしたダブルクリップ
黒い板バネとワイヤーで作られた、お馴染みのダブルクリップ。あれ、実はここ数年で売り上げが伸びてきているそうなのだ。いったいどういうことかというと……
「会社がフリーアドレス制を導入」
→「書類保管スペースが減る」
→「書類をデータで共有するようになる」
→「手元で書類を見る用に一時的な出力が増える」
→「ひとまずプリントアウトをまとめておく用にダブルクリップが必要」
……という流れによるものらしい。
ペーパーレスを進めた結果、一時的なプリントアウトが増えるというのも逆説的な話だが、ともかくオフィス通販のジャンルでは、ダブルクリップが確実に売り上げ増となっているとのこと(オフィス通販会社調べ)。
このダブルクリップ、1910年にアメリカのルイス・エドウィン・バルツレー氏が発明したもの。ワイヤーレバーを使ってテコの力で板バネの口を開く構造は、100年以上前の発明段階から変わっていない。実際に出された特許の書類と比べても、見た目は現在の市販品とほぼ一緒だ。
2~100枚を超える紙を簡単に束ねられて、不要になればすぐ外せて元通り。100年以上の長きにわたって進化する必要がなかったぐらいに、優れた製品なのである(材質は多少進化している)。
とはいえ、欠点が存在しなかったわけでもない。自分でダブルクリップを使っているところ思い出してみればすぐ「ははーん、アレだな」と分かると思う。とにかく固いのである。
100枚以上の紙をがっちり束ねる必要上、板バネの弾力はどうしても強くなってしまう。その弾力を細いレバーでグイッと広げるのだから、テコの力を使っているとはいえ、なかなかの腕力が必要になってくるのだ。弾力が強い大サイズともなると、女性やお年寄りにとっては使うのもイヤだなと感じるレベルだろう。
でももう大丈夫。もう安心。このほど、100年ぶりの大改革がダブルクリップに起きたのだ。
プラス「エアかる」は、なんと開くときに必要な力を従来比で最大50%減した、すいすい開けるダブルクリップなのである。
開く力が50%、とか言われると、さも複雑で大がかりな構造で実現したように感じるかもしれない。が、ルックスはこの通り従来のダブルクリップ……つまり100年前とあんまり変わったようには見えないだろう。
変化したのは、レバーがちょっと長くなったのと、板バネの側面にぽっつりと突起が出ているところぐらい。そしてこのほんのちょっとした変化が、かかる力50%減を実現しているのだ。
従来のダブルクリップは、レバーの指で押さえる部分が力点で、開く口のところが作用点。そして板バネのカドの部分がテコの支点になっている。
エアかるは、まずこの支点の場所を作用点側に近づけた。板バネの側面から出ているぽっつりした突起が、それだ。作用点から力点の距離が一緒であれば、支点が作用点に近い方がテコの力は強くなるのである。さらにレバーも長くなったことで、力点自体も支点から遠くなったことになる。これまたテコの力アップである。
板バネの強さは変わらないので、テコで開くのがラクになっただけ。束ねる力は従来と一緒だ。
という理屈は分かったのだが、これが開けてみると本気でびっくりするぐらい軽い。特に従来品と開け比べると、その効果はハッキリと体感できるはずだ。今までのダブルクリップが「グググイッ…!」だとしたら、エアかるは「ふわっ」と開く。
陶器そっくりのプラ製茶碗を陶器だと思い込んだまま持ち上げると、想定外の軽さに力が余って上に持ち上げすぎた、なんて経験はないだろうか。まさにそれがダブルクリップでも起きるのである。正直、一度でもエアかるを体感してしまうと、もう従来の大クリップなんか使いたくないなー、と感じるほどに差を感じてしまった。
ちなみにエアかるの効果は、最大120枚留めの大クリップで開く力が50%減。90枚の中クリップが40%減で、50枚の小クリップが30%減となっている。
さすがに大クリップの「実際比べてみたら軽くなってて驚く度」はすごいが、中クリップでもはっきり軽さは実感できる。より日常的に使いがちな中クリップあたりからエアかるに変えていくと、ダブルクリップが進化した恩恵を強く感じると思うので、おすすめだ。
【著者プロフィール】
きだてたく
最新機能系から駄雑貨系おもちゃ文具まで、なんでも使い倒してレビューする文房具ライター。現在は文房具関連会社の企画広報として企業のオリジナルノベルティ提案なども行っており、筆箱の中は試作用のカッターやはさみ、テープのりなどでギチギチ。著書に『日本懐かし文房具大全』(辰巳出版)、『愛しき駄文具』(飛鳥新社)など。ブング・ジャムのメンバーとして参画した『この10年でいちばん重要な文房具はこれだ決定会議』(スモール出版)が発売されたばかり。