【きだてたく文房具レビュー】便利を加速する実用派の発明文具
文房具業界には、たまに発明おじさん(もちろん、発明おばさんも)が現れることがある。
「我が町のエジソン」と、地方のニュース番組で半笑い気味に紹介されるような人の話ではない。もうちょっとガチで、文房具マニアが見た瞬間に「えっ……ちょっと……これスゴくない!?」とザワつくような製品を、個人で考えて形にしちゃうレベルの、発明おじさんだ。
ここ数年を振り返ってみても、片手でセロハンテープが貼れるテープディスペンサー「ハリマウス」を作った坂本さん、肘を支点にして動く人間の筆記姿勢に注目した扇形の「伊葉ノート」を作った宮坂さん……といった感じで、発明おじタレントは豊富である。
そんな中で、今まさに文房具マニアをザワつかせ中なのが、大阪の発明おじさん、横田さんだ。この横田さんが考え、プラスチック成形メーカーのエイジ化成が製品化した「横田文具」シリーズがかなり面白いので、今回はそれらを紹介したい。
ひょっこり便利な付箋ケース
付箋を1枚だけ取り出そうとした時、ついうっかり2枚3枚とまとめて剥がしてしまって持て余した、という経験はないだろうか。別にたいした損害があるわけではないのだが、軽くイラッとするアレだ。
「簡単にめくれる付箋ケース」は、そんな小さな不便さをカワイイ動きで解消する製品である。
ソリッドなケースの端に丸いローラーがちょこんと乗っており、付箋が1枚だけ欲しいなという時は、このローラーを指先でちょいと回す。
すると、そのローラーにつられて、付箋が1枚だけひょっこりと浮き上がるので、それを剥がして使う。この動きがなんとも愛嬌があって、つい何度もひょこひょこと繰り返してしまうぐらいにカワイイのだ。
付箋が1枚だけ確実に取り出せる……というこの機能は、付箋の使いやすさが劇的に上がる! というほどの話ではない。でも、使うとちょっとだけ、でも確実に便利になるのは間違いない。
あと、このケースの底板に磁石が仕込まれており、並べると自動的にパチッとスタックしてくれるのも、ささやかな便利さだ。
もうひとつ、付箋全体を持ち上げてローラーに密着させるための構造に、バネなどではなく、スポンジの反発力を使うという発想には「おお、なるほど!」と膝を打たされた。全体に均等に圧がかかって、故障しにくく、かつ安価。非常にうまくできているのだ。
スタンドにはさむだけで紙がシャキッ
我が家では、料理を作る時にレシピサイトをプリントアウトして、それを見ながら調理することが多い。タブレットに表示してもいいのだが、オートパワーオフがかかった時に画面を再表示するのが面倒(調理中だと手も濡れてたりするし)だし、油跳ねがかかるのも怖いしで、なんだかんだで紙の方がラクだったりするのだ。
ただ、紙は紙で、場所を取らないように掲示しておくのが難しい。これまでは小さな書見台のようなものを使っていたのだが、横田文具の「クタっとならないペーパースタンド」は、そういう用途にベストなんじゃないかと思う。
このペーパースタンド、一見すると単なる大きい置き型ピンチでしかない。ポストカードなど小さくて硬い紙ならこれで立つだろうが、A4のコピー用紙などコシのない紙ではクタッと倒れてしまうのではないか?
さにあらず。試しにプリントアウトしたレシピを挟んで置いてみると、なんとシャキッとA4の紙が自立するのである。
タネを明かせばシンプルで、ピンチの挟み口の部分がわずかに手前に向かって曲がっており、これが紙の下辺を少しだけ湾曲させるのだ。たったこれだけの“曲げ”によって、多少揺れようが動かそうがきれいに立ったままで、紙面がよく見えるのである。うーん、よくできてる。
もちろんレシピ立て以外にも、書類1枚だけを見ながらPCに打ち込みしたいとか、そういった用途にも便利そう。シンプルだけど幅広く使えそうだ。
タブつきテープ量産ディスペンサー
あとで剥がす前提セロハンテープを貼るとき、テープの端を折り曲げてタブにしておくことがある。
すぐに解くことが決まっている梱包や模型の仮組み、一時的な掲示物を貼っておく時なんかには、タブで剥がし口を作っておくとラクなのだが、逆にいちいち手でテープの端を何枚も折り込むのが面倒だったりもする。
そういう場合にいいのが「タブも作れるテープカッター」だ。
こちらも前出の2点と同様に非常にシンプルで、タブを作りたい時は可動式のカッター部を指でポンと押し込むだけ。あとは、タブをつまんだままテープを引き出して切ればOKだ。
もう1枚欲しいなと思ったら、またカッターをポンと押し込む。いくらでも剥がしやすいタブ付きテープが出来上がる。
実はこれまでにも、タブ付きテープが作れるテープディスペンサーというのは存在した。店舗レジなどで買い物を詰めた袋を閉じるのに、タブ付きテープが作れるディスペンサーが使われているのを見たことがある人もいるだろう。
それらも仕組みは横田文具のものとだいたい同じなのだが、テープを切るとカッター部がバネで自動的にパチンと折り込むように動くものばかり。どうしても構造が複雑になるし、やや高価なものになってしまう(結果、業務用でしか使いようがなかった)。
筆者も、この製品を展示会で始めて見た際には「ああ、手でカッター押し込めばそれで済むんだ!」と思わず声が出たぐらいである。
「タブも作れるテープカッター」は、あくまでも「タブ“も”作れる」とあるように、タブ作りはあくまでも手動で使うサブ機能。カッター部を指で押し込まずに切れば、普通のテープディスペンサーとして使えるのだ。
そもそもご家庭レベルであれば、タブ付きテープよりも普通のテープを貼る機会の方が多いだろう。わざわざ専用感の高い自動機を買わなくても、手動でいざというときだけタブが作れるディスペンサーで充分なのだ。
横田文具シリーズ全般を通して感じられるのは「ちょっとした工夫で、ちょっとした不便をスッキリと解消してくれる」ということ。複雑な機構を使うことなく、あくまでもローコストで、QOLをちょっとだけ(しかし確実に)上げてくれる横田さんの発明コンセプトは、とても優しいものに感じられる。
横田文具が文房具の歴史を大きく変えることはたぶんないだろう。でも、個人的には横田さんのさらなる優しい発明を期待している。
【著者プロフィール】
きだてたく
最新機能系から駄雑貨系おもちゃ文具まで、なんでも使い倒してレビューする文房具ライター。現在は文房具関連会社の企画広報として企業のオリジナルノベルティ提案なども行っており、筆箱の中は試作用のカッターやはさみ、テープのりなどでギチギチ。著書に『日本懐かし文房具大全』(辰巳出版)、『愛しき駄文具』(飛鳥新社)など。近著にブング・ジャムのメンバーとして参画した『この10年でいちばん重要な文房具はこれだ決定会議』(スモール出版)がある。