子どものころに、液体のりで遊んだことがあるだろう。指先に薄く塗って乾かし剥がして“指紋”を取ったり、消しカスをまぜてネチャネチャと練って練りケシのようなものを作ったり、容器を傾けて中の気泡がゆらーっと動く様子をうっとり眺めたり。
そういった液体のり遊びのひとつに、「気泡割り」というのが存在するのはご存知だろうか? 容器を傾けつつクルクルと回すことで、ゆらーっと動く気泡をうまく分割する遊びだ。いや、知らなくても何の問題もない。なにしろアンケートでも「やったことがある」と答えた人は、全体の3割程度にすぎないのだ。
実際にやってみるとなかなかにテクニカルで難しいのだが、とはいえ行為自体はただ液体のりの容器を弄んでいるだけなので、相当に地味である。そんな「あまり知られていなくて、かつ地味で薄暗い遊び」をするためだけに特化したおもちゃが、このほどクラウドファンディングで発売された。その名も「気泡わり専用アラビックヤマト」!
「気泡わり専用アラビックヤマト」を開発したのは、株式会社ウサギ代表の高橋晋平さん。かつて在籍していたバンダイで「∞(むげん)プチプチ」「∞エダマメ」などの大ヒットおもちゃを手がけた奇才である。高橋さんが小学生時代にクラス内でただ一人、孤独に教室の隅でアラビックヤマトを手にひっそりと遊んでいたのが、「気泡割り」というわけだ。
もちろん、「気泡わり専用アラビックヤマト」は“専用”を謳っているだけあって、ただのアラビックヤマトではない。高橋氏とヤマトの研究開発室が共同で、気泡割り遊びに最適なのりの量を解析し、わざわざ日本の国内工場(通常のアラビックヤマトはタイ工場製)で充填したもの。……あとはラベルが微妙に違うだけで、それ以外はまんまいつものアラビックヤマトなんだけれど。(中蓋さえ外せば、のりとして使用可能)
かくいう筆者も、小学校で図工の時間にこっそり気泡割り(当時はそういう名称があるとも知らなかったが)を遊んでいた経験がある。しかし、思い返してみてもそれが「面白かった!」という記憶につながらない。なんとなく手持ち無沙汰で液体のりの容器をいじっていたら、たまたま気泡が割れたので、それをまたなんとなく繰り返していた、ぐらいの感じ。もちろん、周りに同じ遊びをしていた友人がいたという記憶もない。
そんなものが、果たしてこれがクラウドファンディングで投資者を募って生産するおもちゃとして成立するのか? その辺りをどうしても聞いてみたくて、開発者の高橋さんとヤマト広報の宿谷さんに話をうかがってきた。
さて、まずはそもそものスタートの話である。どこからこの企画が持ち上がって、どう動き出したのか?
高橋「昨年(2018年)の9月ごろでしたか、まずは僕の方からヤマトさんのサイトのメールフォーム経由で、企画書を送らせていただきました」
宿谷「そのメールを受けたのが私なんですが、最初はすぐにイメージできませんでした。気泡割りもやったことなかったですし。ただ、斬新だなとは思いましたし、しかもメールをよく読んだら、あの『∞プチプチ』の高橋さんから。じゃあひとまずお会いしてみよう、と」
折良く、ヤマトは今年で創業120周年のアニバーサリーイヤー。なにか面白いことがしたい、と社内で考えていたタイミングだった。そういうこともあってヤマト社内でも前向きに検討がされ、ゴーサインはかなり早めに出たそうだ。
宿谷「ただ、高橋さんから話を伺っても、これが世の中的に成立するのかが分からなかったので、私もあちこちでリサーチしてみたんです。そうしたら10人に1人ぐらいの割合で気泡割りをしてる方が見つかって。肌感覚的に、ああ、いけそうかな、と感じたんです」
メーカーとしては、1/10というのはかなりのギャンブルだったのではないだろうか?
高橋「いや、僕としては逆に1/10というのは多すぎかな、と思うぐらいで。実はアンケート(冒頭のグラフ)を採る前に、僕も知人にいろいろ話を聞いていまして、もちろんほとんどの人がやったことなかったんですが、それでもなんとか3人の同志が見つかった。しかもその3人ともが、気泡割りの話ですごく興奮してくれたんですね。で、僕らの他にも気泡割りをしたことのある人がいたとしたら、その人たちはみんな『まさかこんなものが製品化されるなんて!』と興奮してくれるかもしれない……!と思いまして」
高橋さんは、これを“血液型AB型理論”と呼ぶ。レアケースの当事者同士がたまたま巡り会うと、普通よりも興奮度が高まる、というものだ。つまり、こういう企画はニッチであればあるほど話題になりやすい、という。なるほど、確かに筆者も気泡割り経験者としてまんまと引っかかってしまっている。
さて、もうひとつ気になっていたのが、「気泡わり専用」の専用の部分。事前に「液体のりの量を最適化した」とは聞いていたが、これはどういう基準で決められたのだろうか?
高橋「これがなかなか難しくて……。『気泡わり専用アラビックヤマト』は液量35ml(普通のアラビックヤマトは50ml)なんですが、これ以上多いと気泡が割りにくい。しかし、これより少ないと気泡が簡単に割れるためゲーム性が薄くなる。『まったくの初心者でも少しの練習で70%の成功率が得られるぐらいがハマり度合いが強い』という僕の持論をベースに、ヤマトさんと一緒に何度も試して調整しました」
その辺りは、これまで数多くのハマり系おもちゃを手がけてきた高橋さんならではの絶妙なチューニングがあった、というわけだ。
飽きずに何度もトライできて、さらに半分割り(ラベルに印刷された目盛りの中心に気泡の分割線がくると、体積的にちょうど半分となる)や、3分割・4分割といった上級ワザにチャレンジできる、いわば“上達できる余地”があるのが、この35mlという量なのだろう。
高橋「僕のこだわりが強すぎて、最後の方は『これじゃ簡単すぎないか』とか『気泡が3分割できる量はどうだろう』とか、変なメールを何度もヤマトさんに送っちゃって。最終的に『35mlで決定です』というメールの送信ボタンを押すときは、指が震えましたよ」
宿谷「受けるこちら側は『あー、はい、じゃあこの量で決まりました』ぐらいの感じだったんですけども(笑)」
こうして実際にカタチとなった「気泡わり専用アラビックヤマト」だが、果たして本当にユーザーに受け入れられるのだろうか?
宿谷「先日、弊社の四半期の全国会議があったんですが、その後の懇親会にこのサンプルを置いたんです。そうしたら、みんなでかなりワイワイとやってくれまして。だいたいみんな気泡割り未経験なんですが、その中から誰かができるようになると、今度はできた人がまだできない人に『こうやるといいんだよ』とレクチャーしてくれるんです。その様子が面白かったですね」
なるほど、筆者は自分が孤独に遊んでいた経験から「気泡割りは自分との戦い」的な感覚で捉えていた。しかし言われてみれば、こういう達成感のある遊びは、コツを誰かに伝授したい、という欲求も確かにある。大勢で遊ぶコミュニケーションツールにもなり得るのかもしれない。
高橋「そうか……! 僕もクラス内で誰にも言わずに一人で遊んでいたけど、もしも当時の僕にちょっと勇気があったら、孤独な自分を変えられていたかも。『これ、こうやると気泡が割れるんだぜ』『お前すごいな! 俺全然できないけど、やり方教えてくれよ!』みたいな」
……いや、うっかり“いい話”っぽく盛り上がってしまったけど、それはどうかなー、という気もするな。冷静に考えると。
とはいえ、やってみると意外とアツくなる気泡割り。そんな遊び初めて聞いたという人も、ぜひ一度トライしてみて欲しい。クラウドファンディングの期限は2019年8月28日の23時59分まで。実はファンド開始からわずか10日で200%越えの達成済み案件なので、今なら出資すれば確実に入手可能だ。
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Kibidango 「気泡わり専用アラビックヤマト」