文房具
万年筆
2020/11/17 19:15

文房具を知り尽くしたプロが選んだ「LAMY(ラミー)」の傑作ペンカタログ

万年筆ブームに沸く日本で、新作や限定モデルが登場するたびに話題になるなど人気を博しているのが、ドイツの筆記具メーカー「LAMY(ラミー)」。創業は1930年ですが、1966年から“装飾ではなく機能を重視したモダンデザイン様式”であるバウハウスの理念を取り入れ、以降50年以上経った現在まで変わることなく、美しいデザインのペンを数々生み出しています。

 

文房具の専門誌『趣味の文具箱』(枻出版)の編集長を務める清水茂樹さんに、ラミーが創り出した傑作の数々を紹介いただくとともに、美しさを感じるポイントや使い心地、ひいてはこの“デジタル時代における手書きの楽しみ”について、語っていただきました。

 

ラミーの根底にあるのは「バウハウス」の精神

↑バウハウスらしさが凝縮されている「LAMY aion(ラミー アイオン)」。潔いほど簡素なつくり

 

ドイツ・ハイデルベルクで誕生したラミーが、モダンデザイン様式であるバウハウスデザインを取り入れたのは1966年のこと。「LAMY 2000(ラミー 2000)」が登場した、今から50年以上前にさかのぼります。

 

「ラミー 2000は、『西暦2000年になっても古びない』というコンセプトで発表されたデザインの万年筆です。ここからラミーの新しい歴史は始まり、ラミー 2000はその名の通り、2000年を超えて20年経った今でも、変わらず愛され続けています。この美しさが50年以上も前に考えられていたことには、驚きを感じるばかりです。

 

シリーズによってデザイナーが変わったり、外部デザイナーが参加したりするのですが、著名な外部デザイナーであっても完全に委託してしまうのではなく、ラミーと外部デザイナーで共同開発しているそうです。ですから、すべての製品に間違いないラミーの理念を感じられ、筆記具の中でもラミーの人気は群を抜いていて、性別や年齢問わずに愛されています」(『趣味の文具箱』編集長・清水茂樹さん、以下同)

 

ラミーが愛される3つのポイントとは?

自身でもラミーの筆記具を数多く所有している清水さんに、ラミーの魅力を知る上で欠かせないポイントを、3つ挙げていただきました。

 

1. 考え尽くされた機能性

ラミーの製品は、すべてにおいて“装飾せず機能に徹している”そう。単にシンプルにしたりあるべきものをなくしたりするのではなく、取り出す・キャップを開ける・書く・キャップを閉める・しまう、という一連の流れがよりスムーズに行えるよう考え抜かれています。

 

「一番の魅力は、書くまでのアクセスがとても良いということ。まるで指先からインクが流れ出てくるかのように、書きたいと思ったら瞬時に書けるので、ひらめきを文字にするまでの時差がありません。雨の日や電車の中、いつでもさっと取り出して書くことができ、その身体との一体感がとても心地いいのです」

 

2. 4つの要素から突き詰められたデザイン

機能重視のデザインは、材料・色・形・テクスチャーの4つの視点から考え抜かれています。デコラティブなデザインはこれまでにひとつもなく、半世紀を過ぎてもその考えが守られ続けている、そのブランディングにも心を動かされます。

 

「万年筆のなかには、キャップ上部にロゴマークが入っていて、胸ポケットに挿してもそれが見えるようにデザインされているものも多いのですが、ラミーは、そのロゴさえも目立ちません。頑固なまでに機能重視で、あくまでも書くための目的に従って作られています。しかも、それでいてラミーらしい個性を感じられるところが、デザインの優れた点です。装飾をしないということは、言わばスッピンで勝負しているのと同じですよね。それでも、美しさと輝きを強く放っていることに魅力を感じます」

 

3. ラミーらしい個性

機能をより重視してデザインされているラミーのペン。ミサイルを思わせるなめらかなボディラインのものや、見た目にはさほどわからないのにグリップだけ素材が変えられているもの、それぞれのクリップのデザインにも、デザイナーの意志を感じます。

 

「雑誌にペンのシルエットだけを並べて掲載したことがあります。ラミーのシルエットは一番簡素なのですが、見てすぐに、どのモデルであるかわかりました。シンプルな中にもそれだけではない、ラミーならではの美しさと格好の良さがしっかり反映されています。触れてみると、重さや素材の感触など、細部にわたってこだわりを持って作られていることがよくわかりますよ」

 

“手書き”は暮らしを楽しむためのエッセンス

美しい文房具を手にしたい気持ちはあっても、デジタル機器が中心となりつつある現代の暮らしのなかで、どのように“手書き”を取り入れていくかに悩む人は多いのではないでしょうか? 続いて、手書きすることのメリットや楽しさを語っていただきました。

 

・アナログ感を楽しめる

ここ数年、デジタル機器の使用時間が伸びていく一方で、フィルムカメラやレコード、ラジカセといったアナログなものにも注目が集まっています。

 

「最近、レコードの売り上げがCDを抜いたという話題がありました。それだけCDが売れていないということでもありますが、レコードを愛している方の多さをあらためて知ったニュースでもありましたよね。我々の世代だとリバイバルになりますが、20-30代にはレコードやフィルムカメラが新しいものとして受け入れられています。手書きはアナログの最たるもの。紙やペンを扱うときの所作を楽しむことが、デジタルな道具に囲まれた日常に彩りを与えるかもしれません」

 

・保存に適している

仕事での議事録やメモはもちろん、プライベートの買い物リストやTODOリストなどをデジタルで管理している方も多いでしょう。それにはそれで便利さがありますが、手書きのよいところは、実は保存に適している点なのです。

 

「データが消えてしまったり、インターネット上のデータにアクセスできなかったりと、便利な一方でデジタルツールでの管理にはデメリットも伴います。手書きのものは、いったん書いてしまえばずっと保存しておける確実さと、アクセスの良さがあります。またラミーのような、取り出してすぐに書けるペンなら、いつでもどこでもさっと書いて見返すことができますから、“手書き=スローライフ”ではなく、日常をスムーズにするツールでもあるのです」

 

・豊かな表現ができる

効率の良さを追究する場面では、デジタル機器を使用することが多くなりますが、それだけでは「誰が書いたのかわからない文字ばかりが並ぶ日常になる」と、清水さんは話します。

 

「文字を書くことは、表現のひとつでもありますよね。その人なりの表情がある手書き文字からは、汲み取れるものが言葉以上にあります。人に伝えるときだけでなく、胸のうちにあることを書き殴ることは、精神的なバランスを取ったりストレスを解消したりすることにもつながります。
個人的には、PCのキーボードで入力している最中にも新しいメールがどんどん届く環境より、メモとペンを持って静かに考えた方が集中できるので、集中したいときこそ手書きを選択しています」

 

ラミーの魅力、そしてラミーなどペンを使って手書きする楽しさをたっぷり語っていただいたところで、次のページでは、清水さんが愛用する数々のラミーコレクションから、おすすめのモデルを紹介していただきます。

 

ラミービギナーにおすすめの万年筆

数多くのシリーズが登場しているラミーの中でも、ビギナーに向いている万年筆について、清水さんのおすすめを教えていただきました。フォルムや色の好みなどから最初の一本を決めてもかまいませんが、気をつけなくてはならないのが、“万年筆は一本一本の書き味が違うこと”。

 

「まったく同じ万年筆でも、ペン先の書き心地はわずかにそれぞれ違います。できれば店頭で試し書きをし、自分の筆圧や持ち方に合った万年筆を選んでください。また、試し書きをしに行くときは、普段使っているノートや、これから書きたいノートを用意していくといいですよ。店頭にあるものと紙質が違うだけでも、インクの乗りやペンの滑りが違うのです」

 

1. ドイツの小学生も使う基本の万年筆


LAMY safari(ラミー サファリ) / LAMY AL-star(ラミー アルスター)
4000円+税 / 5000円+税
※写真はラミー サファリ

 

1980年に登場して以来、最も多くの本数が生産されているというサファリシリーズ。ドイツの小学生が愛用するだけあって、筆圧をかけなくても美しい文字を書きやすく、安価で購入しやすいモデルです。

 

「限定カラーがあるのも、人気の理由のひとつです。写真左のミントグリーンは2019年の限定色で、同時に同じくパステル調のピンクとブルーが発売されました。重厚感がある万年筆とは違い、シャープペンやボールペンのように普段使いができます。デザインや機能がほぼ同じであるアルスターは、子ども向けに開発されたサファリの兄弟モデル。アルミ製でやや重みがあり、わずかに大きくて大人の手に馴染みやすく作られています」

 

2. 長く使ってペン先を育てていく万年筆


LAMY 2000(ラミー 2000)
3万円+税

 

50年以上前に作られたラミー 2000は、とてもシンプル。ボディにある継ぎ目は触ってもまったくわからないシームレスなデザインで、まるで一体型のように見えます。

 

「ペン先は14金製で、スチール製のサファリやアルスターとは書き心地がひと味違います。14金のペン先は、自分の書き癖や書く角度、筆圧に合わせて馴染んでいきますので、使えば使うほど書きやすくなっていきます。14金のペン先は劣化しにくく長く使い続けられるので、サファリやアルスターを使ってみて、万年筆の楽しみ方がわかってきたら2000を使ってみるとよいでしょう」

↑こちらはラミー 2000のペンシル。ほかにローラーボールペン、ボールペン、4色ボールペンなども展開

 

万年筆のほかにも傑作がいろいろ

最後に、万年筆以外のラミー製品についてご紹介いただきました。デザインのコンセプトは変わりませんが、使う人のことを考えた機能が随所に見られます。

 

1. クリップのデザインが秀逸


LAMY dialog 2(ラミー ダイアログ2)ローラーボール
2万8000円+税

 

このキャップレスの水性ボールペンは、キャップをしなくてもインク漏れやペン先による汚れがないように開発されたデザイン。

↑「ボディをひねるとペン先が出てくる仕組みですが、ペン先が出るとクリップがボディの中に収まるようにできています。つまり、ペン先が出ているときは胸ポケットに挿すことができません。このとき、ボディ中央にある2つの突起が揃うので、視覚的にも指先でも“書ける状態になっている”と確認することができます」

 

↑「筆記を終えてペン先をしまうと、クリップが現れます。ペン先で洋服を汚してしまわないよう、持つ人のことを考えて作られていることに感動する一本です。とにかくフォルムが美しい」

 

2. どんな持ち方をしても書きやすい


LAMY scribble(ラミー スクリブル)ボールペン・ペンシル
各6000円+税

 

持ってみると、そのマットな素材がきゅっと指に馴染むのが実感できる、丸みのあるボディ。それぞれクリップが着脱でき、どのような握り方をしても持ちやすく感じられます。

 

「“スクリブル”とは、走り書きや落書きを意味する言葉で、その名の通り、とにかくペン先を滑らせやすい感覚があります。ペンシルはノック式とドロップ式があるのですが、ドロップ式のボディにはグリップのような凹みがあり、指先を置きやすいデザインになっています」

↑こちらは清水さんが“毎日酷使している”という3.15mm芯を使うペンシル。硬度4Bの芯は紙面を滑るように書くことができ、メモやラフスケッチなどにも便利なのだとか。ただし、全身ブラックのこのモデルは残念ながらすでに廃盤となっています

 

3. ノックすると一瞬でペン先が出て全身が伸びる


LAMY pico(ラミー ピコ)ボールペン
各7000円+税

 

限定カラーが出るたびに買いたくなってしまうサイズ感のピコシリーズ。

 

「ミニペンのジャンルだと思われてしまいがちなのですが、手の大きい男性も十分に使えます。閉じているときは93mmしかないのですが、伸縮性がありワンノックすると124mmになります。ポケットに入れておいて、ちょっとメモしたいときや思いついたときにシュポッと出せ、即書きにとても向いているペンです」

 

4. 極細の携帯用ペン


LAMYラミー スピリット(ボールペン・シャープペン)
※販売終了

 

こちらは、すでに生産が終了したペンシル(他にボールペンもあり)。金属製のユニークな極細の形をしています。

 

「直径は6mmに満たないくらいの細さですが、実際に書くときはその細さを感じさせない製品です。手帳に沿わせて携帯するのに便利で、ペンケースに入れても場所を取りません。1枚の鉄板を巧妙に丸めて作っているため、全身フルメタルな容姿をしています。この重量感が、細軸らしからぬよい書き心地を生んでいるのです。廃盤となったラミーのペンの中で、もっとも復活してほしいモデルです」

 

ラミーや文房具のことをもっと知るための“教科書”


『ラミー パーフェクトブック』1600円+税(枻出版)

 


『趣味の文具箱』1600円+税(枻出版)

清水さんが編集長を務める月刊誌『趣味の文具箱』。2020年10月号は万年筆のインクを特集しています。万年筆を買ったらインクにもこだわりたい! という人には必見の情報を凝縮。
また、ムック『ラミー パーフェクトブック』では、歴代のラミー製品について詳しく解説されているだけでなく、工場の様子や本国・ドイツの小学生が使っている筆記具など、現地で取材したレポートも掲載されています。

 

お気に入りの文房具は、日々のモチベーションを高めてくれる大事なツール。デジタル時代のいまこそ、“指先から生まれるひらめき”は筆記具で残していきたいものですね。縁遠い存在だと思っていた万年筆も、ラミーなら普段着のように暮らしに取り入れられそうです。

 

【プロフィール】

「趣味の文具箱」編集長 / 清水茂樹

枻出版社で、文房具に関するムックや書籍を担当。2004年に「趣味の文具箱」創刊し、世界中の文具メーカーの取材を精力的に続け、最新の文具情報を発信。筆記具や文房具の魅力と、手で書くことの楽しさを伝えている。2009年からISOT「日本文具大賞」審査委員を務める。

趣味文CLUB http://shumibun.jp/