文具店などによく置いてある、印鑑がずらっと入っている四角柱の販売用の什器。一般的に印鑑タワーと呼ばれているものだが、あれには印鑑が5000本入るようになっている。
実はその5000本=名字5000種類で、日本の人口の約80%はフォローできてしまうという。つまり、日本人の80%は印鑑を買うときに、あの印鑑タワーからひょいと自分の名字を選んで買うことができるのだ。
“何を当たり前のことを”と言うのは、おそらくその80%に含まれてる人だろう。おめでとう。あなた方は名字界における勝ち組だ。日本人の名字が15万種類と言われているなかで、トップ5000傑なのである。で、筆者を含む残り20%(残り14万5000種)は「印鑑は既製品ではなく、受注生産品である」という事実を深く身体に刻み込まれた悲しい人種である。
初めての場所ではだいたい「名前、なんて読むの? どういう字を書くの?」からはじまり、何百、何千回と繰り返したお馴染みの説明をせねばならない。80%側と比べると、我々はこの無駄な時間の積み重ねで結構な時間を損しているのは間違いない。「田中です。以上!」といったように自己紹介が完了すれば、どれほどラクだろうか。
もちろん出先で印鑑が必要になっても、近所の文具店や100均ショップで自分の名字の印鑑を買うことはできない。何かあったときのことを考えると、やはりカバンや筆箱に自分の認印の一本ぐらいは常備しておくべきなのだ。
ただ、普通の印鑑であれば朱肉も合わせて持ち歩かねばならず、浸透印は少し太くてかさばる。印鑑は意外と持ち歩きにくいものなのだ。そういうときに便利なのが、転写シート式の超薄型ハンコ「スマート印鑑S」である。
アンディ
スマート印鑑S 3印影入
162円(※)
※筆者の名字(きだて)は別注となる。
「0.34ミリのシート印鑑」という謳い文句どおり、薄いふせんサイズのシートに印影が3つ並んで入っている。これなら、財布に入れても手帳に挟んでも、持ち歩く邪魔にはならないだろう。
いざ使うときには、3連のシートを切り離して裏紙を剥がしたら書類の印鑑を捺したい部分に印影を当て、指で数秒グリグリと強めに押しつける。
最後に表面の透明シートをゆっくり剥がせば、書類の上にしっかりと印影が転写されている……というもの。昔懐かしの転写シールそのままである。
シンプルな仕組みではあるが、印影部分の転写フィルムはなんと薄さ0.01㎜と超檄薄。この薄さで印薄が紙に密着して一体化するので、捺した後もシールのように浮いた感じはない。むしろ、朱肉が紙ににじむようなことがないので、普通の印鑑よりもクッキリと美しい印影が残せるというメリットもある。
問題は“この転写式の印鑑がきちんと認め印として使えるのか?”というところだろう。スマート印鑑のメーカーであるアンディでは、実際に会社や役所、学校などでモニター調査を行い、押印受理率は97.4%とのこと。正直に言うと、「シヤチハタNG」のように少し厳しめのコードが敷かれている書類には使わない方がベターな気がするが、それでもだいたいの所では受理されているようだ。
あと、気になるのは“自分の名前が買えるのか?”というところ。残念ながらそこは普通の印鑑と同様に、メジャー名字だけが楽々購入可能、という辛い図式である。現状、公式ネットショップでは、1シートずつ購入できるのは人口カバー率50%の266名字のみ。
あとは名字のレアさに応じてロットは変わってくるが、筆者のように人口の98%にも含まれない激レア系だと、「50枚セットでの別注」ということになる。さらに辛いのが、0.01㎜の檄薄転写フィルムに印影を印刷できるのがアメリカにある特殊印刷工場だけということで、発注から手元に届くまで1か月以上かかってしまうのだ。
印鑑を常備したいレア名字族は、常備しやすい印鑑を入手するのにもやはり時間とコストがかかってしまうのである。そのあたりはもうどうしようもなく、数の原理なので諦めるしかない。
そこをガマンして一度別注で作ってしまえば、もう印鑑をいちいち持ち歩く手間からは完全に開放されるので、いちど「エイッ!」と注文してしまうことをオススメする。財布に3回分捺せる印鑑が常備されている、というだけで、我らレア名字族の気分はかなり軽くなるのだ。