絶滅が危惧される鉄道車両 第6回 国鉄形電車JR西日本編
国鉄がJRとなって30周年を向かえたこの春。ある通信社の記事でJR各社の国鉄形車両の残存率が紹介された。東日本が10%、東海が0.2%に対して、九州が28%、西日本・四国が30%、北海道は32%という結果だったそうだ。
「国鉄形車両の割合が少なければ問題なく、多いと問題なのだろうか……?」
筆者はこの記事に対して、疑問をいだかざるを得なかった。整備をしっかり行い、安全対策を施していれば、古い車両ということが原因での問題は生じにくいと思われる。乗り心地やスピードでは劣るかも知れないが、なにより、国鉄時代に造られた車両は頑丈だ。JR九州のように、古い国鉄形車両を新しい観光列車に改造して、多いに生かしている例もあるのだ。
もちろん鉄道ファンの中には、国鉄形車両への愛着を持つ方も多いのではないだろうか。前述の数字のように国鉄形車両が多く残るとされるJR西日本。それでも、ここ数年、新型車両の積極的な導入で国鉄形車両の活躍の場が急速に狭まってきている。国鉄形電車の“聖地”でもある関西圏。そこで筆者は、気になるダイヤ改正後の運用状況を現地でチェックしてみた。本稿では、鉄道ファンとしては非常に気になる関西圏の国鉄形電車の現状をレポートしよう。
【その1】国鉄形117系近郊形電車
湖西線、草津線の主力車両として走る117系電車
117系は国鉄が1979(昭和54)年から造った直流近郊形電車だ。主に東海道・山陽本線の新快速電車に利用され、JRになった後はJR東海とJR西日本に引き継がれた。JR東海の車両は淘汰されたが、JR西日本では、いまも元気に走り続けている。
なかでも、主力車両として走るのが湖西線・草津線だ。南は京都駅までの乗り入れに限定されているが、多くの列車に117系が利用されている。なお、湖西線・草津線を走る117系は緑単色塗装に塗られている。
関西圏では、他に和歌山地区で朝夕などを中心に117系が走っている。和歌山地区の車両は「和歌山地区地域統一色」と呼ばれる明るいブルーの車体が目印だ。ほかには関西圏を少し離れるが、山陽本線の岡山地区などで車両数こそ少ないが走り続けている。
【その2】国鉄形113系近郊形電車
原形を留める湖西線・草津線の113系電車。他の線区では……
113系は、国鉄が1963(昭和38)年から製造した直流近郊形電車で、3000両近くの車両が造られた。同タイプの115系が勾配区間のある路線で使われたのに対して、113系は主に本州の平坦路線に使用。JR化後は、JR東日本、JR東海、JR西日本、JR四国に引き取られたが、すでにJR東日本とJR東海の車両は全車が廃車された。
現在、残る113系の大半はJR西日本の車両だ。その113系の多くが更新工事を受け、側面の窓などを改造。また、一部は短い編成での運転を可能とするため、中間車に運転席を設けるなど変更されている。
関西圏で113系が最も多く走るのが湖西線・草津線。117系と共に京都駅以北での主力車両として走り続けている。車体の色は緑単色塗装で、湘南色の113系を知る世代としては異質なものに感じるかも知れない。そんな中の一部に、側面の窓などオリジナル車両の形を残した車両も走っている。
ほかの関西圏では、紀勢本線の御坊駅〜紀伊田辺駅間などを113系が走っている。とはいえ、切妻タイプの平坦な正面の形に改造され、オリジナルの形と縁遠い姿になっているのがちょっと寂しい。それ以外では、福知山以北の路線で、関西圏以外には岡山地区で113系の走る姿を見ることができる。
【その3】国鉄形103系通勤形電車
大阪近郊では希少になりつつある103系の走行シーン
103系といえば国鉄を代表する通勤形電車。1963(昭和38)年から1984(昭和59)年にかけて、3500両近くの車両が造られた。長年にわたって走り続けてきたが、現在はJR西日本とJR九州に残るのみとなっている。
そんなJR西日本の103系電車だが、大阪近郊の路線では貴重な存在となりつつある。走るそれぞれの路線の状況を見ておこう。
■大阪環状線・ゆめ咲線(桜島線)
103系の代表的な“職場”だった大阪環状線・ゆめ咲線。新型の323系の導入で、103系の運用は非常に珍しくなった。同路線での103系の消滅は時間の問題といっても良さそうだ(3月29日に運転が確認されている)。
■阪和線
225系の導入で、3月4日のダイヤ改正以降の存在が危ぶまれた阪和線の103系。確実に数は減ってはいるものの、朝晩を中心に走る姿を見かけることができる。とはいえ、予断を許さない状況に変わりない。支線の羽衣線を含め、徐々に削減されていくものとみられる。
■関西本線(大和路線)・奈良線・おおさか東線
103系の運用が危ぶまれる線区が多いなかで現状、比較的に安泰だと思われるのが関西本線・奈良線・おおさか東線といった路線だ。ここにはウグイス色の103系が走行中。とはいっても、関西本線の主力は201系となりつつあり、103系の運用が減って珍しい存在となっている。
■和田岬線(山陽本線支線)
関西圏の路線の中で面白い存在なのが、和田岬線だ。和田岬線とは通称で、兵庫駅と和田岬駅を結ぶ山陽本線の支線の2.7kmの区間を指す。この路線を電車が走るのは朝夕のみで、スカイブルーの103系電車が走る。JR西日本の103系といえば、かなり手を加えられた更新車が多いが、和田岬線を走る103系は、この電車が誕生したころの面影を色濃く残している。
神戸市内をゆっくり走る姿は、まるで昭和の時代にタイムスリップしたかのよう。この和田岬線の103系の運行は、ここしばらく変更されることなく続けられそうだ。ただし、103系が1編成しかないため、検査の時などには207系が代わりに運転されるので注意したい。
関西圏では徐々に減りつつある103系。他には播但線の姫路駅〜寺前駅間、加古川線の加古川駅〜西脇市駅間などを走っている。これらの線区では、しばらくの間は103系の運行が続くと思われる。
【その4】国鉄形201系通勤形電車
注目される大阪環状線・ゆめ咲線の201系の今後
201系といえば首都圏では中央線や中央・総武緩行線、関西圏では京阪神緩行線や大阪環状線の主力車両として活躍してきた。1979(昭和54)年に試作車が造られ、1000両以上の車両が造られた。2011年に首都圏での運用が終了し、残りは関西圏の車両のみとなっている。
そのうち、主力車両として活躍してきたのが大阪環状線。2016年末に導入された323系の運用が拡大し、3月中旬に沿線で確認したところ、日中に大阪環状線を走る201系の割合は6本に1本という割合に減っている。
一方のゆめ咲線では、ラッピング塗装の201系が走っているものの、純粋なオレンジ色の201系に乗ろう、撮ろうとすると、徐々に難しくなりつつあるというのが現状のようだ(吹田総合車両所森ノ宮支所には、まだ201系の姿が多く見受けられる)。
ほかの線区では、関西本線(大和路線)、おおさか東線でウグイス色の201系が走る。こちらは6両×16編成が残っているが、同線区には103系も数多く残っていることから、103系の後輩にあたる201系は、まだまだ主力として走り続けそうだ。
【その5】国鉄形105系通勤形電車
和歌山線で健在! 地方のローカル線用に造られた105系電車
105系通勤形電車は国鉄の晩年にあたる1981年から新造、および103系を改造して計126両が造られた。地方の電化路線向け電車で、当時に多く残っていた旧型国電の置き換え用という役割もあった。JRとなってJR東日本とJR西日本に引き継がれたが、すでにJR東日本の105系は消滅している。残るのは西日本のみとなった。
関西圏で105系が走るのは和歌山線、桜井線、紀勢本線の一部といった路線。これらの路線を走る105系は2両編成で「和歌山地区地域統一色」と呼ばれるブルーの車体が特徴だ。
この105系、正面の形は2パターンがある。新造された車両と、103系の改造車で異なる。前側車両105系8号車(上写真)は、103系からの改造車。正面は103系の形に近いが、貫通扉とホロが付いている。
なお、105系は関西圏以外では広島地区、山口県内、福塩線などを走っている。105系に代わる車両がないだけに、今後もしばらくは安泰といえるだろう。
【その6】国鉄形123系近郊形電車
5両のみが残り山口県内の小野田線などを1両で走る
関西圏ではないものの、JR西日本には他にも希少な国鉄形電車が残っているので、ここで取り上げておきたい。それは国鉄形123系近郊形電車だ。かつて手荷物・郵便輸送のために専用の荷物電車が用意され使われていた。鉄道による手荷物・郵便輸送の廃止により、余剰となった荷物電車が国鉄により改造され123系電車となった。
123系はその後、JR東日本、JR東海、JR西日本に引き継がれたが、現在はJR西日本のみに5両が残っている。当初は阪和線の支線・羽衣線も走っていたが、いまは山口県内を走る小野田線や宇部線での運用のみ(同路線では123系以外に105系も運行している)。瀬戸内地区地域統一色と呼ばれる濃い黄色に塗られおり、希少な車両となっているだけに、走っているうちにぜひ乗っておきたい車両でもある。