2年に一度、ドイツのフランクフルトで開催される乗用車の祭典「IAA Cars 2017(フランクフルトモーターショー)」が、10日間の一般公開日を終えて9月24日に閉幕した。今回のショーでもっとも目を引いたのは、EVオンパレードともいえる発表が繰り返されたこと。その熱気とともに、ショーを総括してみたいと思う。
加速するEV化の流れ、中国の影響も背景に
振り返れば、VWのディーゼルエンジンの偽装問題が発覚したのは2015年。前回のショー会期中のことだった。これ以降、他社に対してもその疑惑が取り沙汰され、ガソリン/ディーゼル車などに対する“偽装疑惑”が一気に吹き出したのだ。
以降、各国は電動化への方針を打ち出すようになる。地元ドイツでは昨年、連邦議会で2030年までにガソリン車など内燃機関エンジンを禁止する決議案を採択すると、ノルウェーとオランダが2025年から、インドが2030年から同様のプランを法制化。追い討ちをかけるように、ショー開始直前にフランスとイギリスが2040年から内燃エンジン車の販売禁止を表明した。
その背景にあると思われるのは、世界最大の自動車マーケットとなった中国の存在だ。今や世界中の自動車メーカーにとって欠かせない市場だけに、その動向には最も気をつかう。その中国では2018年に中国国内で販売される自動車の8%以上を新エネルギー車(PHVやEV)が義務づけられ、20年にはそれが12%以上に拡大することが決定していた。
その状況に新たに加わったのが今年9月に入って「中国が化石燃料車の生産販売を停止する時期の検討に入った」との報道だ。自動車メーカーにとってこれは電動化の対応を突きつけられたのも同然。そんな事情がフランクフルトモーターショーに反映されたのは間違いない。
ドイツ勢の注目コンセプトカーはほぼEV、VWの本気際立つ!
そんな環境政策に対する厳しさが増す中、フランクフルトモーターショーは9月12日、各社のプレスカンファレンスで幕を開けた。
最もEV色を鮮明にしたのがフォルクスワーゲンだ。自動車の電動化へ向けて「ロードマップE」と命名した電動化戦略を打ち出し、2025年までにEVを50車種、PHVを30車種投入する計画。この実現に向けて2030年までに200億ユーロ(約2兆6500億円)を投資するという。ホントに実現するのかという過激ぶりだが、そんな中、披露されたのはより市販を意識したコンセプトカー「I.D. CROZZ 2」だ。
このクルマは、今春、上海モーターショーで披露されたコンセプトカー「I.D. CROZZ」の改良版で、スタイルはSUVと4ドアクーペを融合したクロスオーバー車となっている。具体的なスペックも公表され、モーターは最大出力306PSを発揮して最高速は180km/h。1回の充電での航続出来る距離は500kmで、急速充電を利用すればバッテリー容量の80%をおよそ30分で充電できるという。同社は2020年より新型EVを3車種発売予定で、I.D. CROZZ 2はそのうちの1台となる予定だ。
多彩なEVを打ち出すメルセデス・ベンツ
独ダイムラーも2022年までにコンパクトカーからフルサイズSUVまで全車種で電動化モデルをラインナップする方針を打ち出した。さらに、欧州と北米で販売するスマート・ブランドのクルマは2020年までにすべてEVに切り替える方針も紹介した。その柱となっているのが2016年に同社が立ち上げたEV専門ブランド「EQ」である。
メルセデス・ベンツでは、ブース内の各所に「EQ」を展開。入口にはそのパワーを使って人が乗れる大型ドローンも登場するなど、まさに“EQ一色”となった。その中で登場した新たな「EQ」ブランドモデルが「コンセプトEQA」だ。市販化は未定ながら、2モーター式でピークパワーは272PSを発揮し、1回の充電で400km走れるという。
注目を浴びたのはAMGから飛び出したスーパーカー「プロジェクトワン」。その姿はまさに公道を走れるF1カー。エンジンは1.6リッター・V6ツインターボのハイブリッドで、これにフロントタイヤに2つ、ターボチャージャーとエンジンに1個ずつの4モーターが加えられ、トータルパワーは1000PSを超えるという。実際に市販も計画され、価格は2億~3億円となり、既にすべて売約済みとの話も出ていた。
分かりやすい形で披露されたのが、スマートの「ビジョンEQフォーツー」だ。現状の2人乗りというスマートの基本コンセプトを踏襲しながら、それを自動運転とカーシェアリングで新たな需要を生み出そうというものだ。パワートレインはもちろんEVで、これはシェアリングという使い方に最も適している。すでに、スマートは欧州で「car2go」というシェアリングサービスで使われており、その延長上でEVを普及させようというわけだ。
BMWのEVはなんと航続距離600km!
BMWは、2025年までに25台のEVを発表し、そのうち12台はピュアEVとなると宣言した。それを実現するためのコンセプトカーとして公開したのが「BMW i Vision Dynamics」だ。「i8」の延長線上にあるようなデザインだが、説明によれば「現行のi3とi8の間に位置する“4ドアグランクーペ”をイメージした」ものだという。何せそのパフォーマンスがスゴイ! 0-100km/h加速が4秒、トップスピードが200km/h以上もの実力を備えながら、バッテリーによる航続距離が600kmを越えるのだ。
MINIブランドからは、2019年に市販を予定する「MINI Electric Concept」という新しいEVコンセプトが披露された。モーターなどのベース部分はi3としながら、デザインはハッチバック 3ドアをベースにしたMINIのイメージを基本的に踏襲。MINI伝統のゴーカートフィーリングは強力な電気モーターのトルクで表現し、車体はEVらしさに富んだデザインだ。
日本メーカーではホンダがEVに積極姿勢
いっぽうで日本車はどうだったのか? 実は、“EVの先駆者”として知られる日産や三菱の姿はショー会場にはなかった。出展しなかったのだ。日産はフランクフルトモーターショー開催の直前に第2世代の「リーフ」を発表したばかりだし、ここへ来てEVへと舵を切ったドイツ勢に対して、本来なら両社は先行者としてのアドバンテージを示せたはず。にも関わらず出展しなかったのは欧州がEV市場として育っていないとの判断があったのかもしれない。
そうした中、EVに対する積極姿勢が目立ったのがホンダだ。フランクフルトモーターショーでは「アーバンEVコンセプト」をワールドプレミアし、このモデルをベースにした量産EVを2019年から欧州で発売する予定と発表。ボディサイズはフィットよりも全長で10cm短い都市移動に最適なサイズで、フロントには充電状況やドライブへの助言、挨拶などを多言語で表示できるディスプレイが設置されている。ホンダは、この新型EVを含め、すべての欧州向け新型車にEVを含めた電動化テクノロジーを導入する計画だ。
すでにホンダは、グローバルでの展開よりも先行して2025年をメドに欧州4輪車販売数の3分の2を電動化車両に置き換える方針を打ち出している。今回の発表はホンダにとって欧州市場における電動化戦略を一歩進めるきっかけとなるだろう。
トヨタが目玉展示としたのはSUVのハイブリッドの試作車「C-HRハイパワー」だった。「あれ、EVはないの?」という多くの疑問に対して、トヨタは引き続きハイブリッド車に力を入れていく方針を示した。これを聞いたメディアは「トヨタが電動化に後れを取っている」との報道をこぞって流したが、実は電動化を先駆けたのはハイブリッド車を普及させたトヨタにほかならない。既にそこで培った技術も積み上がっており、電動化へアプローチする手筈は整っている段階にあるとも伝わる。
ただ、充電設備などのインフラもほとんど整っていない状況下で手を挙げても、それは単なる“画に描いた餅”になってしまう。EVのバッテリー劣化の問題も大きな課題だ。今ある技術をきちんと熟成させた上で電動化への道筋を切り拓いていく――そんなトヨタ流の着実路線が今回のショー会場ではハッキリ見えてきた気がするのだ。
トヨタは着実路線を披露したものの、世の流れとして電動化は避けられない。少なくとも今回のフランクフルトモーターショーでは各社が描く電動化に対する考え方がハッキリ見えたのは確かだ。2年後の同ショーでは、今回各社が“公約”として提案したコンセプトカーは世に登場していなければならないだろう。
電動化はどこまで進むのか? 次回のフランクフルトモーターショーまでの2年間から目が離せそうにない。