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2018/3/25 20:00

設置が進む「ホームドア」最前線――期待の新型と今後の問題

ホームからの転落を防止するために設けられるホームドア。2016年8月に視覚障害のある男性が、東京都内の地下鉄駅のホームから転落して死亡するという痛ましい事件が起きた。このことが契機となり、国土交通省は2020年度までに、1日に10万人以上が利用する駅にホームドアを設置する数値目標を示した。

 

このホームドア、プラットホームの端に設置されていて、停車した電車のトビラと同時に開き、また電車のトビラが閉まればホームドアも一緒に閉まるもの、という程度の認識しか筆者は持ち合わせていなかった。

 

しかし、調べてみるとさまざまな形や、開閉方法が異なるホームドアがあった。設置方法の違いもある。さらに、設置が難しい駅があることもわかった。今回は、そんな奥深いホームドアの世界を見ていくことにしよう。

 

歴史は意外に古い!? 設置費用は数十億円!? ホームドアの豆知識

まずは、ホームドアが生まれてから現在に至るまでの流れについて、簡単に触れておこう。

 

国内のホームドアの歴史は意外に古い。1974(昭和49)年1月1日に東海道新幹線の熱海駅に設置されたのが初めてだった。東海道新幹線の熱海駅はホームの幅が狭い。さらに上り下りの線路のみで、停まらない列車がホームのすぐ目の前を高速で通過していく。通過時の風圧が強く、利用者が巻き込まれる恐れがあった。そのため、日本初の「可動式ホーム柵」が設置されたのだった。

 

その後、1977(昭和52)年に、山陽新幹線の新神戸駅に設置され、これが西日本初のホームドアとなった。1981(昭和56)年には神戸新交通ポートアイランド線の部分開業にあわせてホームドアが導入された。さらに1991(平成3)年の営団地下鉄(現在の東京メトロ)南北線が部分開業し、半密閉式のホームドアが全駅に取り付けられた。

↑地下鉄としては最初のホームドアを導入したのが現・東京メトロ南北線だった。安全に万全を期すため、半密閉式スクリーンタイプというホームドアシステムが導入された

 

現在、多くの駅で見かける通常の開閉式ホームドアは、2000(平成12)年に都営三田線で導入されている。これが新幹線以外で最初に設置されたホームドアでもあった(南北線の方式を除く)。

 

その後、導入が進んでいき、国土交通省の調べでは2006年度末に318駅だった設置駅が、2016年度末には686駅まで増えている。とはいえ、設置費用はかなり高額だ。1駅(上下2線分)あたり数億円から数十億円にも及ぶという。もちろん、設置後の維持費もかかる。国や地方自治体から一部補助金が出されるとはいっても、JR東日本やJR西日本、さらに大手私鉄といった経営に余裕があるところでないと、そう簡単に導入できるものではないというのが現実だろう。

 

ホームドアの開け閉めは誰が行っている?

次にホームドアの通常のスタイルと、開閉方法を見ていこう。

 

通常のホームドアの形だが、ご存知のように2枚の戸が横開きする形が一般的で、ドアが格納される戸袋が左右にある。開いたときの開口部の長さは、電車のドアよりも横幅1mほど大きく開くように造られている。これは電車の停車位置が前後にややずれることがあるためで、そのぶんの余裕を持たせているわけだ。

 

設置位置はプラットホームの端と平行に設置されるのが一般的で、戸袋裏にセンサーが装着されている。もし、センサーが感知したときにはホームドアが再び開くなど、危険を避けるように作動する。

↑最も一般的なホームドア。開け閉めされるドアは金属の戸のみの場合と、写真のようにガラス戸のものがある。海外のホームドアはガラス戸になっている場合が多い

 

ホームドアの開け閉めだが、多くは電車に乗車する車掌が後端部にあるスイッチで操作する。電車の進入と同時に自動的にホームドアが開くもの(閉めるのは車掌が操作)と、開け閉めすべて車掌が操作するホームドアがある。

 

一方で、東京メトロ丸ノ内線や都営三田線などではワンマン運転にも対応。あらかじめ車両に改良を施して、運転士がドアの開閉するボタン操作すれば、連動してホームドアが開閉する路線もある。

 

次に一般的なホームドアの形に改良を加えた“進化タイプ”の例を見てみよう。

 

まずは、東京メトロ丸ノ内線の中野富士見町駅の場合。上り線のホームがややカーブしているため、電車とホームの間にすき間が生まれる。そのため、ホーム内からプレートが出てきてすき間を埋めるように作動している。電車とホームのすき間から物が線路へ落ちないよう配慮しているわけだ。

↑東京メトロ中野富士見町駅の例。上り線ではホームドアが開く際に、ホーム下からプレートが出てきて、電車とホームとの間に生まれる“すき間”を埋めている(矢印部分)

 

より安全に乗り降りしてもらおうという配慮が感じられるのが、相模鉄道横浜駅のホームドアだ。電車が停車位置に近づくと左右のランプが点灯。まずは赤で、乗車可能になったら青いランプが付く。閉まるときは青→赤と色が変わる。車掌が扱うホームドアの開け閉めスイッチも大きく、誤った操作を防ぐための工夫が見られる。

↑乗車可能なときは左右のランプが青く点灯する(矢印部分)。ホームドアの開閉は黄色い小ボタンで開き、緑の大ボタンで閉める。ボタンが大きく操作しやすい造りだ(赤写真内)

 

↑乗車ができないとき、また閉まりかけたときには右左のランプが赤く点灯する(矢印部分)

こんなホームドアもある! 走る車両に合わせて形もいろいろ

ホームドアの基本的な形とは異なる形、または設置方法を用いた駅もある。そんな通常とは異なるのホームドアの例を見ていこう。

 

設置方法が少し異なるのが東急電鉄の宮前平駅の例。写真を見ていただくとわかるように、ホームドアと電車の間に通常より広いスペースがある。

 

↑東急田園都市線の宮前平駅の様子。ホームドアと電車の間に、広いスペースが設けられている。東急の一部電車が6ドア車だったためこの形となった

 

これは以前に走っていた主力車両50000系に対応するための工夫だった。50000系は4ドア車とともに6ドア車を数両連結していた。しかし、50000系以外の電車は4ドアで、そうなると、ドアの位置が異なってしまう。宮前平駅のように電車との間にスペースを作れば、たとえ電車のトビラとホームドアの位置が合っていなくとも、電車への乗降が可能だったわけだ。

↑戸袋の線路側には「ホームの内側にお進みください」の表示が付けられる

 

宮前平駅のホームドアは電車が走りだしたあとに閉まる仕組み。とはいえ一長一短あり、電車のドアが閉まったあとに、ホームドアのなかに取り残されてしまうこともある。そうしたトラブルを防ぐために、現在は係員がホームに常駐している。現在は東急50000系の6ドア車が廃止され、すべて4ドア車と変更された。この大きなスペースは、いまは必要なくなっている。

 

次は、走る電車によってドアの開口部の大きさが異なる東京メトロ東西線の場合だ。

 

東京メトロ東西線の場合、主力車両の05系の一部と15000系は、乗降トビラが1800mmというワイドサイズになっている。一方で東西線には、ドアの幅が1300mmという通常サイズの電車も走っている。500mm差しかないといえばそれまでだが、ホームドアが従来のサイズだと、ワイドドア車の場合に、停車位置がややずれただけでも、乗り降りに支障をきたす可能性が考えられた。

 

そのため東西線の九段下駅に導入されたのは「大開口ホーム柵」と名付けられたホームドア。2重引き戸構造として、開く幅を大きくした。

↑東京メトロ九段下駅に通常の1300mm幅の東西線の電車が停車したときの様子。2重となった中側のドア部分の幅が、一般的なホームドアのドア幅となる

 

↑1800mmというワイドドアの電車が停まったときの様子。開口部が1300mmの通常の電車と500mm差とはいえ、幅が広いことがわかる

 

↑東西線九段下駅のホームドアは、2重で、それぞれ2枚のドアが右左に開く仕組みとした。通常のドア幅を持つ車両が到着したときでも、ドアが全開する仕組みになっている

ドアというよりも「バー」!? 導入に向けてテストが続く新型ホームドアも

走る車両のドアの数、ドアの位置がすべて同じ路線の場合、ホームドアを導入しやすい。困難なのはドアの数、ドアの位置が異なる車両が走る路線だ。こうした駅向けに新型ホームドアの実証実験も行われている。

 

たとえば、JR拝島駅(東京都)の八高線ホームには、3本バーを支柱間にわたして、車両が到着するとバーを上げ下げするホームドアが使われている。「昇降バー式ホーム柵」と名付けられたこのシステム。ドアの位置が、車両ごとに異なっていても対応できるシステムだ。

↑JR拝島駅の八高線、八王子行きホームに設置されたホームドア。「昇降バー式ホーム柵」と名付けられたシステムで、ドアの位置の違いに対応する方式として開発された

 

↑昇降バーが高々とあがる構造。乗客の乗り降りの邪魔にならない造りとなっている

 

バーをロープにしたホームドアも西日本で見ることができる。JR高槻駅(大阪府)で設置されたのは「昇降ロープ式ホーム柵(支柱伸縮型)」と呼ばれる装置。JR西日本はドアの数や位置が異なる車両が多々、走っている。そのため、この形のホームドアが試されているのだ。

↑JR高槻駅の場合、10mにわたる5本のロープが支柱間にわたされている。電車が到着するとこのロープが上に上がって乗降できる仕組み

 

鉄道会社間で異なる導入スピード――「2019年度に全駅設置」を掲げるところも

ホームドアの導入は鉄道各社によってかなり差がある。全国の地下鉄や新都市交通、そしてモノレールの路線では、当初からホームドアの導入が盛んで、導入率も高い。

 

JRでは新幹線の駅の導入率は高いものの、在来線はこれから本格的に、といった状況。大手私鉄では東高西低の印象が強い。また会社間での導入スピードも異なる。

 

そんななか、2019年度に早くも全駅にホームドア設置を目指しているのが東急電鉄だ。宮前平駅の例を前述したが、東急ではさまざまなスタイルを試してきた。そしていま、活発に各駅のホームドア設置を進めている。

 

東急のホームドアには2タイプがある。東横線、田園都市線などには通常のホームドアを導入する。一方で、池上線、東急多摩川線では「センサー付固定式ホーム柵」という形の“柵”を設置している。

 

これは後者の2路線の場合、電車が3両編成と短め、かつ駅間が短く、電車のスピードがほかの路線よりも遅いため有効だと考えられた対応策。ドアは無いものの、電車が発車しようとしたときに柵の内側に人が立つとセンサーが感知して、乗務員に知らせる。

↑東急池上線の駅に設置された「センサー付固定式ホーム柵」。柵と柵の間に乗降トビラがくるように停車する。線路側にはセンサーが設けられている

 

高額な設置費用を、もう少し手軽なものにできないかという試みもJR東日本で始められている。JR横浜線の町田駅の下りホームに付けられたのが「スマートホームドア」という名のホームドア。開口部および戸袋部分が、通常のものにくらべて軽量、簡素化され、本体機器費用、および設置工事費用などの低減を図っている。

↑JR横浜線の町田駅で試験が続けられる「スマートホームドア」。JR東日本の関連会社の手により開発されたホームドアで、軽量、簡素化が図られている

 

↑開口部は広々している。直線的なホームだけでなく、カーブしたホームにも対応できる仕組みとなっている

 

今後は、通常のものよりも簡素化されたスタイルのホームドアも普及していくのかもしれない。

 

あとは2ドア、3ドアなどドア数、およびドアの位置が異なる車両が走る路線。小田急電鉄や京浜急行電鉄などにより、すでに実証実験が行われている。両社では2020年度〜2022年度には主要駅には導入を予定している。果たしてどのようなスタイルのホームドアが導入されるのか興味深い。

 

ホームドア設置による抑止効果と今後の問題

最後に、ホームドア設置によってどの程度、事故が減るのかを見てみよう。

 

ちょっと古い数字だが国土交通省が2005(平成17)年にまとめた鉄道事故の統計によると、プラットホームでの死亡者数が196人。そのうち、「酔客」が10人(5.1%)、足を滑らせてなど「その他」での理由が24人(12.1%)。残りがすべて「自殺」164人(82.8%)という割合だった。プラットホームの死亡事故の原因は圧倒的に「自殺」が多かったわけだ。

 

この数字が、どのぐらいホームドアの設置駅で減っているのだろう。まだ設置駅の事故率を浮き彫りにした公式の統計は、残念ながら出されていない。とはいえ、ホームドア設置駅では誤ってホーム下に転落する事故は、ほぼ皆無となるだろう。時たま起こる、ホームドアを乗り越えて……というような事件がニュースになるものの、設置は確実に自殺をしようとする人たちへの抑止効果を生んでいると思われる。

 

とはいえ、ホームドア設置後の問題も出てきている。たとえば、つくばエクスプレスの例。2016年にホームドアがからむトラブルが22件も起こっている。ホームドアにはセンサーが付いているが、死角になる部分があるためだ。電車のドアに物が挟まったときに、ホームドアが逆に死角になって見えないことがある。ワンマン運転の電車の場合、こうした状況を運転士がすべて確認して電車を運行しなければならない。

 

これは、ホームドアもまだ完璧とは言えない技術であることを物語る話だ。今後、ホームドアの設置率向上を生かしていくため、さらなるハード面とソフト面の技術力のアップ、加えて利用者側もトラブルに出会わないために、ホームドアの仕組みをある程度、理解しておいたほうがいいのかもしれない。