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2018/5/20 19:00

「踏切」は着実に進化していた!! 意外と知らない「踏切」の豆知識

私たちが日ごろ、何気なく通る踏切。鉄道の安全を守るために必要不可欠な設備だが、実は調べてみると、いろいろな機器が取り付けられ、形もいろいろあることがわかった。そこで、2回にわたり鉄道の安全運行に欠かせない踏切を紹介していこう。

 

こんなにいろいろあったとは!! 踏切の機器一覧

まずは踏切を使う側が、知っておきたい踏切の基礎知識から。

 

次の写真は東京北区にあるJR東北本線の井頭踏切。京浜東北線、東北本線、湘南新宿ラインなどの電車が絶え間なく走る。列車の通過本数は多いが、踏切施設としてはごく一般的な形だ。とはいえ、ご覧のように、細部を見ると、さまざまな機器が取り付けられていることが分かる。

踏切には、鉄道の安全運行を守るため、これだけの設備が必要ということなのだ。まずは踏切には黄色と黒で色分けされた柱が付く。この柱は「踏切警報器柱」という名称で、1番上に黄色と黒に色分けされた×印が付いている。これは「踏切警標」と呼ばれている。そしてその下に「踏切警報灯」が付く。これが大半の踏切にある基本的な設備だ。

 

なかでも利用者が目を向けることが多いのが、赤く点滅する「踏切警報灯」ではないだろうか。形もいろいろ。そんな踏切警報灯に、まず注目した。

 

形いろいろ「踏切警報灯」。省エネタイプも登場

踏切を利用する人やクルマへ注意を促すために、赤く点滅。踏切の機器のなかでも最も目立つ存在なのが、踏切警報灯だ。この踏切警報灯、実はいろいろな形がある。まとめたのが下の写真だ。

長く使われてきて、おなじみな形が片面形だろう。赤い警報灯を取り囲むように黒い円形の鉄板が付く。警報灯の上に傘が付くものも多い。筆者も踏切の警報灯は、いまもこの片面形が一般的なのだろうと、思っていた。だが、実際に巡ってみると、形の違う警報灯がすでに多く普及していることがわかった。

 

それが全方向形、またぼんぼりの形のような全方位形と呼ばれるタイプ。前後の両面が点滅する両面形もある。片面形をのぞき、近年になって使われるようになった形のものだ。これらの新しいタイプの良さは、片面形と比べると、見る角度に関係なしに点滅していることが見える点だろう。

 

片面形の場合、線路と交わる道路が1本の場合は良いが、数本の道路が交差しつつ線路をまたぐ場合にやっかいだ。片面形の場合には、角度が異なる道路ごとに警報灯を装着する必要があり、経費がそれだけかさむ。片面形でなく全方向形で対応すれば、2灯の装着で済む。最近はLEDライトを利用した警報灯も生まれ、省エネの効果も期待できるようになっている。

↑踏切に交わる道路の角度にあわせて片面形の警報灯を付けた例。道路にあわせて4灯の警報灯が付く。これが全方向形であれば、2灯で済むので設置費用も割安となる

 

古くから使われる片面形の警報灯だが、鉄道会社で異なる形のものを使っている例もあった。愛知と、岐阜両県に路線を持つ名古屋鉄道(名鉄)だ。この名鉄の踏切はほとんどが、取り囲む黒い板が四角。全国的にも珍しい形だと思われる。

↑名古屋鉄道(名鉄)の踏切は写真のような黒い板の中に丸い警告灯が納まる形。あくまで筆者が確認した範囲だが、名鉄の踏切のみの特徴かと思われる

「遮断かん」は折れにくいカーボンファイバー製が主流に

通常、私たちが遮断機と呼んでいる、踏切を遮断するシステム。実は遮断機は、踏切を遮るさおを下ろす機械「電気踏切遮断機」と、遮るさお「踏切遮断かん」(「かん」は漢字ならば「桿」)で構成されている。

 

この踏切遮断かんには、以前は竹ざおが利用されることが多かったが、いまはFRP(繊維強化プラスチック)が広く普及するようになっている。カーボンファイバーとも呼ばれる素材で、軽くて強い。

 

強いとはいえ、踏切内に閉じこめられたクルマが脱出しようとしたときには折れることもある。そのために踏切遮断かんと電気踏切遮断機の間に、遮断かん折損防止器という装置が付けられることが多い。これで、多少の角度までならば、遮断かんが折れないように工夫されている。

↑遮断機は、動作する部分の電気踏切遮断機と、遮断かん折損防止器、遮断かんで構成される。遮断かんには、のれんのような注意喚起用のパーツが付けられた踏切もある

 

↑竹ざおを使った遮断かんも一部の踏切では残っている。また、注意喚起用にリフレクター(反射板)を付ける鉄道会社もある

 

電子音が主体の「警報音発生器」。珍しい音色が聞ける路線も

踏切では踏切警報灯と、音で電車や列車の接近を伝えている。この音を発生させる装置は「警報音発生器」と呼ばれる。

 

いま、全国の多くの踏切の警報音は「電子音式」になっている。カンカンカンカン……という良く耳にするあの音だ。踏切警報器柱の上に取り付けられたスピーカーで、この音が流されている。

 

いまや電子音が大半を占めるなか、レトロな音色が聞ける線区がまだ残っている。例えば千葉県内を走る小湊鐵道。始発・五井駅すぐそばの踏切・五井踏切では「電鈴(でんれい)式」とよばれる警報音を聞くことができる。柱の上に鐘がついていて、この鐘を鳴らすことで警報音が生まれる。「チンチンチンチン……」という郷愁あふれる音色が楽しめる。

 

この鐘を鳴らす方式には、「電鐘(でんしょう)式」とタイプもある。鐘を鳴らす方式はおなじだが、電鐘式のほうが柱の上にのる鐘が大きく、音はやや重め。三重県内を走る三岐鉄道三岐線の踏切などで見ることができる。

↑小湊鐵道の五井踏切。電鈴式というレトロな警報音を聞くことができる。柱の上にのる鐘を鳴らして音を出される仕組みだ

 

↑三岐鉄道の山城8号踏切では電鐘式と呼ばれる警報音が聞ける。柱の上に音を奏でる鐘が付けられている

 

警報音は電子音だが、近づく電車の動きに合わせて音のスピードが変わる踏切がある。それは京成電鉄の踏切。上りか下り、どちらかの一方の電車が通過するときは、通常の電子音での警報のみ。一方の電車が通過、さらに逆側からの電車が近づいたときは、電子音のスピードが早まる。まだ電車は来ますよ、という注意をうながし、また切迫感が伝わるように工夫されている。

↑京成電鉄の踏切では、上下電車が通るときのみ、通常とは違う早さの警報音を聞くことができる

 

踏切に欠かせない標識、そして線路部分の説明

踏切部分の設備ではないものの、踏切になくてはならないのが踏切標識。踏切の50〜120m手前に立つ標識で、この先に「踏切あり」ということを示している。この標識、1986(昭和61)年よりも前と後で、立てられた標識の絵が違うことをご存知だろうか。

 

次の写真が古いものと新しいものの違い。左は1986年以前のもので、右が以降に立てられた標識だ。蒸気機関車の運行が減ったことで、描かれた絵が電車に変更された。電車が走らない地域では、気動車の絵も使われている。

↑左が1986年までの「踏切あり」の標識。いまも残されている路線もある(写真は小湊鐵道)。右は1986年以降に立てられた標識。電車がデザインされている

 

最後に踏切の足元にも目を向けておこう。踏切を通る道路上には特別な仕組みが用意されている。レールの内側に踏切ガードレールというレールが付けられているのだ。レールと踏切ガードレールの間にはすき間がある。このすき間は車輪のフチにある出っぱり部分、フランジを通すためのものだ。踏切ガードレールがあり、その中には踏み板が付けられていて、人やクルマの通行に支障が生まれないように工夫されている。

↑人やクルマが通る踏切の足元の構造物にも名前が付いている。電車の車輪が通り抜けられるように、レールと踏切ガードレールの間には、すき間が設けられている

 

このように、踏切には必要不可欠な機器や設備が多く用意されている。次回は、安全への備え、さらに、走行中の電車への情報の伝わり方、そしてもしものことに出くわしたらどうしたら良いかなど、踏切をめぐる安全に関して目を向けていきたい。