シェアリングサービスが盛況だ。複数人で共用することにより、「モノ」が使われていない時間をなくせるため、エコロジーかつエコノミックだと考えられているからだ。
そんななか、「誰もがマイカーを所有できるように」するサービスもはじまった。それが「マイカー賃貸カルモ」だ。立ち上げたのはデジタルマーケティングサービスの提供や、「Appliv」などのスマートフォンメディアの運営を手掛けるスタートアップ企業、ナイル。
「マイカー賃貸」とはどういったサービスなのか、なぜシェアリングではなく“マイカー”にこだわったのか、ナイルの代表取締役社長 高橋飛翔氏のインタビューを交えつつ、ご紹介する。
マイカー賃貸カルモとは?
通常、新車が欲しいと考えれば、カーディーラーに出かけていき、相談をする。どのような用途で、乗車人数は何人で、予算はこれくらいで、などといったことを店員に伝えれば、その人にマッチした車種を何種類か提案してくれる。気になるクルマがあれば、試乗して、フィーリングや予算が合えば購入、という流れになるだろう。
マイカー賃貸カルモの場合は、リアル店舗がない。オンラインで完結するため、人と対面することもない。
ユーザーは、マイカー賃貸カルモのサイトにアクセスし、好みのメーカーとボディタイプで選ぶか、月々に支払える料金を設定するかして検索する。そこで表示されたもののなかから吟味して車種を決定し、賃貸を申し込むのだ。
クルマの賃貸料金は、返却時に想定される残価を算定し、それを除いた部分を支払回数(賃貸期間月数)で割ったもの。含まれるのはクルマの本体価格だけでなく、自動車取得税、自動車税、自賠責保険料など。サポート料金も含まれる。
そのため、頭金が必要だったりボーナス払いがあったりなど一時的に出費がかさむ、ということはなく、毎月同じ金額を負担するだけという安心感がある。
しかし、試乗せず、ましてや実際のクルマを見ることなくマイカーを決めてしまっても良いものなのだろうか。ナイルの代表取締役社長 高橋飛翔氏にサービスの詳細や狙いについて聞いてみた。
どの車種も安心して乗れる品質に――クルマもオンラインで選べる時代へ
「自動車がスマートフォン化してきているんですよね」と高橋氏は言う。「スマートフォンの性能は、ネットでちょっと調べればだいたいのことはわかるし、一定のレベルを保っている。それは自動車も同じで、最近のものであればどのクルマも性能がいい。燃費も良くなってきているし、先進安全設備があるので、どれを選んでも安心感がある。つまり、わざわざ実際のクルマを見に行ったり、ましてや試乗したりすることなく購入する人も増えてきているんですよ」と解説。「現に、わたしの父親もネットでクルマを買っていました」と付け足した。
「世の中がそういう流れになっていっているのであれば、店舗で販売するよりコスト構造を有利にできる方法があるのではないか。店舗を持たず、人を介さず、AIを使ってその人に最適な車種を提案する、徹底的なコストダウンをはかった販売方法があるのではないか、と考えてこのサービスを開始しました」(高橋氏)
その結果、正規ディーラーに比べ、5年間にかかる費用が数十万単位で抑えられることもあるという。その理由を高橋氏は、「マーケティングを合理化しているから」と説明する。「そもそも弊社はマーケティングとテクノロジーに強い会社。マーケティングの徹底的な合理化――AIを使ったクルマの提案なども含め、それをしていけば、販売費を下げられるんです」。(高橋氏)
とはいえ「いまはまだ、そこまでできていません。全部人力で、泥臭くやっていますが、ここで得られたさまざまなパターンや情報を自動化するための礎にしていきたいと考えています」と語っていた。
世の中から移動で困っている人をなくしたい
ナイルの掲げる企業の社会的使命は「新しきを生み出し、世に残す」こと。その解説には「インターネット通じて新たな付加価値を生み出し、より良い社会の実現に貢献する事」とある。また、企業理念にも「社会に強い影響力を与える事業、サービスを生み出し続ける事」という文言がある。
それらミッションやビジョンとカルモの関連性について高橋氏は、「世の中から金銭的な理由で交通手段に困っている人をなくし、“移動すること”の敷居が全くない世界をつくっていくことが、社会にインパクトをもたらし、より良い社会の実現へとつながる」と語る。なお、「移動で困っている人」には、地方に住む高齢者だけではなく家族を持ちはじめばかりの若い人たちも含まれると、高橋氏は話す。
「クルマの需要がない、クルマが売れない、という人もいますが、欲しくても“買えない”人が多いというのが現状。日本人の平均年収はどんどん下がってきており、子どもの13.9%は貧困家庭で育っている。親は、マイカーを持ちたくても、年収が低いからローンを組めない。そうなると、自転車や公共交通機関を組み合わせて、心身疲弊させながら移動するしかない。好きなときに好きな場所に移動して、そこで買い物したり観光したりできること、自由で平等な移動の権利を『カルモ』というサービスを通じて達成していきたいんです」(高橋氏)
マイカーの需要があることは、サービスリリースからわずか3か月強で、数百件単位の申し込みがあったことからも明らかだ。
それでは、なぜ「共有」ではなく個人の「所有」にこだわったのだろうか。高橋氏は、「シェアリリングはサービスとしての要素が強い。ユーザーは、使いたいときに使えるように予約をする。対するマイカーでは、好きなときに使える。空いているクルマを探したり、予約をしたり、その場所まで歩いていくという時間のコストなしに使える、というのはユーザーにとって大きなメリットになると感じています。現に、東京にしか住んだことのない方は実感しづらいかもしれませんが、地方ではマイカーがないとものすごく不便ですよ。シェアリングが新しくて便利だから全部シェアリングになる、というほど二元論で語れる話ではないんです」と説明する。
中古車ではなく、新車から事業を開始したことについては「新車には最新の安全技術が搭載されているから」というのが理由だという。「クルマの必要性を特に感じるのはファミリー層。自動ブレーキシステムのようなものが搭載されていれば、安心して自分の家族を乗せられますからね」と説明した。
高橋氏は、カルモを含む、自社のモビリティサービス事業のビジョンについて次のように語った。
「2025年から2040年の間に、自動運転を実装したクルマが、ユーザーの乗っていない時間にタクシーのように働いて稼ぎ、ユーザーは実質無料でクルマを所有できる、という世界が確実にやってくると思っています。わたしたち起業家の使命は、その時期をいかに早めるかということ。誰もが公共交通機関に頼らず、いつでも好きな場所に移動して観光や買い物といった経済活動ができるようになる――すべての人が移動の自由を得られる世の中を、カルモを通じて実現させたいですね」(高橋氏)