【三岐鉄道北勢線】見どころ・乗りどころがふんだんに
前ふりが長くなったが、まずは路線距離20.4km、西桑名駅〜阿下喜駅(あげきえき)間、所要1時間の三岐鉄道北勢線の電車から乗ってみよう。
北勢線の車両の幅は2.1m。車両の長さは15mが標準タイプとなっている。ちなみにJR山手線を走るE235系電車のサイズは幅が2.95m、長さは19.5mなので、幅はほぼ3分の2、長さは4分の3といったところだ。
乗ると感じるのは、そのコンパクトさ。先に紹介した車内の写真のように、大人がシートに対面して座ると、通路が隠れてしまうほどだ。
北勢線の起点はJR桑名駅に隣接する西桑名駅となる。列車は朝夕が15〜20分間隔、日中は30分間隔で運転される。そのうち、ほぼ半分が途中の楚原駅(そはらえき)止まりで、残りは終点の阿下喜駅行きとなる。
ほかの路線では経験することができない面白さ
さて762mmという線路幅の北勢線。床下からのモーター音が伝わってくる。かつての電車に多い吊り掛け式特有のけたたましい音だ。さらに乗ると独特な揺れ方をする。横幅がせまく、その割に車高があるせいか、横揺れを感じるのだ。クーラーの室外機も昨今のように天井ではなく、車内の隅に鎮座している。
ただこうした北勢線の音や揺れ、車内の狭さは、ほかの路線では経験することができない面白さでもある。
途中の楚原駅までは、ほぼ住宅地が連なる。楚原駅を過ぎると、次の駅の麻生田駅(おうだえき)までの駅間は3.7kmと離れている。この駅間が北勢線のハイライトでもある。車窓からは広々した田畑が望める。車内からは見えないが、コンクリートブロック製のアーチが特徴の「めがね橋」や、ねじれた構造がユニークな「ねじれ橋」を渡る。楚原駅から麻生田駅へは、傾斜も急で吊り掛け式モーターのうなり音が楽しめるポイントだ。
麻生田駅から終点の阿下喜駅へは員弁川(いなべがわ)沿いを下る。西桑名駅からちょうど1時間。乗りごたえありだ。運賃は全区間乗車で片道470円、1日乗り放題パスは1100円で販売されている。この1日乗り放題パスは、北勢線とほぼ平行して走る三岐線の乗車も可能だ。北勢線と三岐線を乗り歩きたい人向けと言えるだろう。
阿下喜駅には駅に隣接して軽便鉄道博物館もある。開館は第1・3日曜日の10〜16時なので、機会があれば訪れてみたい。
さて北勢線の現状だが、順調に乗客数も推移してきている。2003年に三岐鉄道に移管され、運賃値上げの影響もあり一時期、落ち込んだ。その後に車両を冷房化、高速化、また曲線の改良工事などで徐々に乗客数も持ち直し、最近では近鉄当時の乗客数に匹敵するまで回復してきた。沿線の地元自治体からの支援が必要な状況に変わりはないが、明るい兆しが見え始めているように感じた。