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2018/7/22 17:00

762mm幅が残った謎――三重県を走る2つのローカル線を乗り歩く【三岐鉄道北勢線/四日市あすなろう鉄道】

おもしろローカル線の旅~~三岐鉄道北勢線/四日市あすなろう鉄道(三重県)~~

 

今回のおもしろローカル線の旅は、線路の幅について注目してみたい。

 

日本の鉄道の線路幅は次の2タイプが多い。まずは国際的な標準サイズを元にした1435mmで、新幹線や私鉄の一部路線の線路幅がこのサイズだ。JRや私鉄など在来線には1067mmという線路幅が多い。ほかに1372mmという線路幅も、京王電鉄京王線や都営新宿線で使われている。

 

さて、そこで注目したいのが、今回紹介する、三重県を走る三岐(さんぎ)鉄道北勢(ほくせい)線と四日市あすなろう鉄道という2つの路線。この2つの路線は762mmという、ほかと比べるとかなり細い線路幅となっている。

↑三岐鉄道北勢線の線路。踏切を渡る軽自動車を比較してみても、762mmという線路幅の細さがよくわかる

 

↑コンパクトな車両に比べると集電用のパンタグラフがかなり大きく、ちょっとアンバランスに感じてしまう

 

↑三岐鉄道北勢線の車内。細い線路幅に合わせ車内の横幅もせまい。そのためシートに大人同士が座ると、このような状況になる

 

ちなみに762mmという線路幅はナローゲージとも言い、この線路幅の鉄道は軽便鉄道(けいべんてつどう)と呼ばれる。大正末期から昭和初期、全国さまざまなところに鉄道路線が敷かれていったころに、地方の鉄道や鉱山鉄道、森林鉄道などが採用したサイズだった。1435mmや1067mmといったサイズに比べて、小さいために建設費、車両費、維持費が抑えられるという利点がある。

 

一方で、ほかの鉄道路線と車両が共用できない、また貨車などの乗り入れできない、スピードが出せない、といった短所があり、鉄道が成熟するにしたがって、多くの軽便鉄道が線路幅を広げるなどの変更がなされ、あるいは廃線になるなどして消えていった。

 

現在、762mmという線路幅を採用している旅客線は、三重県内を走る三岐鉄道北勢線と四日市あすなろう鉄道の2路線に加えて、富山県の黒部峡谷鉄道のみとなっている。黒部峡谷鉄道の場合は、山岳地帯、しかも峡谷沿いの険しい場所にダム工事用の鉄道を通すために、あえて軽便鉄道のサイズにした経緯がある。

 

では、三重県の平野部に、なぜ762mmという線路幅の鉄道が残ったのだろうか。

 

【762mm幅が残った謎】広げる機会を逸してしまった両路線

三岐鉄道北勢線と四日市あすなろう鉄道の両路線は、いまでこそ運行している会社が違うものの、生まれてからいままで、似た生い立ちをたどってきた。762mmの線路幅の路線が残った理由には、鉄道の利用者が多かった時代に、線路の幅を広げる機会を逸してしまったからにほかならない。

 

路線が開業したのは、四日市あすなろう鉄道が1912(大正元)年8月(日永駅〜伊勢八王子駅=1976年廃駅に)、三岐鉄道北勢線が1914(大正3)年4月(西桑名駅〜楚原駅間)と、ほぼ同時期だ。

 

開業させたのは三岐鉄道北勢線が北勢鉄道、四日市あすなろう鉄道が三重軌道(後に三重鉄道となる)という会社だった。太平洋戦争時の1944(昭和19)年に両社を含めて三重県内の複数の鉄道会社が三重交通として合併する。

 

その後に三重交通は、三重電気鉄道と名を変え、さらに近畿日本鉄道と合併(1965年)という経過をたどり、それぞれが近鉄北勢線と、近鉄内部線(うつべせん)・八王子線となった。

 

三重電気鉄道と近畿日本鉄道が合併した前年に、三重電気鉄道三重線(いまの近鉄湯の山線)が762mmから1067mmに改軌している。1960年代は鉄道需要が高まりを見せた時代であり、利用者が急増していたそんな時代でもあった。湯の山線は、沿線に温泉地があり、その観光客増加を見込んだため、改軌された。

 

その後の、モータリゼーションの高まりとともに、地方の鉄道路線は、その多くが利用者の減少に苦しんでいく。線路幅を変更するための工事は、新路線を開業させるくらいの資金が必要となる。近鉄湯の山線のように利用者が増加していた時代に改軌を実現した路線がある一方で、近鉄北勢線と、近鉄内部線・八王子線の路線は762mmという線路幅のまま残されてしまった。

 

40年以上にわたり、運行を続けてきた近鉄も、路線の維持が困難な状況に追いこまれていった。

 

2003(平成15)年4月に、近鉄北勢線が三岐鉄道に運営を譲渡、さらに2015(平成27)年4月に近鉄内部線と八王子線が四日市あすなろう鉄道へ運営が移管された。ちなみに四日市あすなろう鉄道は、近鉄と四日市市がそれぞれ出資して運営する公有民営方式の会社として生まれた。

【三岐鉄道北勢線】見どころ・乗りどころがふんだんに

前ふりが長くなったが、まずは路線距離20.4km、西桑名駅〜阿下喜駅(あげきえき)間、所要1時間の三岐鉄道北勢線の電車から乗ってみよう。

↑三岐鉄道北勢線の電車は一部を除き、車体はイエロー。車体の幅は2.1mで、JR在来線の車両幅、約3m弱に比べるとスリムで、コンパクトに感じる

 

北勢線の車両の幅は2.1m。車両の長さは15mが標準タイプとなっている。ちなみにJR山手線を走るE235系電車のサイズは幅が2.95m、長さは19.5mなので、幅はほぼ3分の2、長さは4分の3といったところだ。

 

乗ると感じるのは、そのコンパクトさ。先に紹介した車内の写真のように、大人がシートに対面して座ると、通路が隠れてしまうほどだ。

 

北勢線の起点はJR桑名駅に隣接する西桑名駅となる。列車は朝夕が15〜20分間隔、日中は30分間隔で運転される。そのうち、ほぼ半分が途中の楚原駅(そはらえき)止まりで、残りは終点の阿下喜駅行きとなる。

↑JR桑名駅に隣接する北勢線の西桑名駅。ホームは1本で、阿下喜行きか楚原行き電車(朝夕発車の一部電車は東員・大泉行きもあり)が15〜30分おきに出発している

 

↑北勢線の電車は正面が平たいスタイルの電車がほとんどだが、写真の200系は湘南タイプという形をしている。同編成のみ三重交通当時の深緑色とクリーム色に色分けされる

 

ほかの路線では経験することができない面白さ

さて762mmという線路幅の北勢線。床下からのモーター音が伝わってくる。かつての電車に多い吊り掛け式特有のけたたましい音だ。さらに乗ると独特な揺れ方をする。横幅がせまく、その割に車高があるせいか、横揺れを感じるのだ。クーラーの室外機も昨今のように天井ではなく、車内の隅に鎮座している。

 

ただこうした北勢線の音や揺れ、車内の狭さは、ほかの路線では経験することができない面白さでもある。

 

途中の楚原駅までは、ほぼ住宅地が連なる。楚原駅を過ぎると、次の駅の麻生田駅(おうだえき)までの駅間は3.7kmと離れている。この駅間が北勢線のハイライトでもある。車窓からは広々した田畑が望める。車内からは見えないが、コンクリートブロック製のアーチが特徴の「めがね橋」や、ねじれた構造がユニークな「ねじれ橋」を渡る。楚原駅から麻生田駅へは、傾斜も急で吊り掛け式モーターのうなり音が楽しめるポイントだ。

↑橋脚のアーチ部分が美しい「めがね橋」を北勢線140形が渡る。楚原駅からは1.2km、徒歩で15分ほどの距離で行くことができる

 

麻生田駅から終点の阿下喜駅へは員弁川(いなべがわ)沿いを下る。西桑名駅からちょうど1時間。乗りごたえありだ。運賃は全区間乗車で片道470円、1日乗り放題パスは1100円で販売されている。この1日乗り放題パスは、北勢線とほぼ平行して走る三岐線の乗車も可能だ。北勢線と三岐線を乗り歩きたい人向けと言えるだろう。

 

阿下喜駅には駅に隣接して軽便鉄道博物館もある。開館は第1・3日曜日の10〜16時なので、機会があれば訪れてみたい。

↑阿下喜駅に隣接する軽便鉄道博物館には、モニ226形という車両が保存されている。1931(昭和6)年に北勢線を開業させた北勢鉄道が導入した電車で荷物を積むスペースがある

 

さて北勢線の現状だが、順調に乗客数も推移してきている。2003年に三岐鉄道に移管され、運賃値上げの影響もあり一時期、落ち込んだ。その後に車両を冷房化、高速化、また曲線の改良工事などで徐々に乗客数も持ち直し、最近では近鉄当時の乗客数に匹敵するまで回復してきた。沿線の地元自治体からの支援が必要な状況に変わりはないが、明るい兆しが見え始めているように感じた。

【四日市あすなろう鉄道】車両リニューアルでイメージUP!

四日市あすなろう鉄道は全線が四日市市内を走る鉄道だ。

 

路線はあすなろう四日市駅〜内部駅間を走る内部線5.7kmと、日永駅〜西日野駅間の八王子線1.3kmと、2本の路線がある。西日野へ行く路線に八王子線という名が付く理由は、かつて同路線が伊勢八王子駅まで走っていたため。集中豪雨により西日野駅〜伊勢八王子駅間が1974(昭和49)年に不通となり、復旧されることなく、西日野駅が終着駅となった。

 

電車は起点のあすなろう四日市駅から内部駅行きと、西日野駅行きが出ている。それぞれ30分間隔、朝のみ20分間隔で走る。路線の距離が短いため、あすなろう四日市駅〜内部駅間で18〜20分ほど。あすなろう四日市駅〜西日野駅間にいたっては8分で着いてしまう。

 

四日市あすなろう鉄道になって、大きく変わったのが車両だ。近鉄時代の昭和50年代に造られた車両を徹底的にリニューアル。車内は、窓側に1人がけのクロスシートが並ぶ形に変更された。通路も広々していて、通勤通学も快適となった。同車両は、技術面で優れた車両に贈られる2016年のローレル賞(鉄道友の会が選出)にも輝いている。たとえ762mmと線路の幅は細くとも、居住性に優れた車両ができるということを示したわけだ。

↑四日市あすなろう鉄道となり、旧型車をリニューアル、新260系とした。同車両は車内環境の向上などが評価され、2016年に鉄道友の会ローレル賞を受賞している

 

↑リニューアルされた新260系は、ブルーの車両に続いて薄いグリーンの車両も登場。3両編成に加えて2両編成も用意され、輸送量に応じた運用が行われている

 

↑新260系の明るい車内。1人掛けクロスシートで、座り心地も良い。通路は広く造られていて、立っている乗客がいても圧迫感を感じることなく過ごすことができる

 

↑車内には吊り革(車内端にはあり)の代わりに座席にハート型の手すりが付けられている。車内が小さめなこともあり、吊り革よりこの手すりのほうが圧迫感なく感じる

 

まるで模型の世界のような可愛らしい駅や車両基地

近鉄四日市駅の高架下に同路線の起点、あすなろう四日市駅がある。ホームは1面、2本の線路から内部駅行き、西日野駅行きが出発する。
料金はあすなろう四日市駅から日永駅・南日永駅までが200円、それより先は260円となる。この200円と260円という料金以外はない。1dayフリーきっぷは550円。全線乗車する時や、また途中下車する場合には、フリーきっぷの方がおトクになる。

↑四日市あすなろう鉄道の車両の形をした1dayフリーきっぷ550円。あすなろう四日市駅の窓口で購入できる

 

↑内部行きと西日野行きが並ぶあすなろう四日市駅。朝は3両編成の新260系がフル回転で走っている

 

車両は現在、新260系が大半を占めている。新会社に移行したあとに、リニューアルされた車両だけに、きれいで快適。乗っても762mm幅ならではの狭さが感じられなかった。乗り心地も一般的な電車と差がない。

 

路線は内部線、八王子線ともに四日市の住宅街を走る。面白いのは内部線と八王子線が分岐する日永駅。駅の手前、四日市駅側で路線が分岐、八王子線用のホームはカーブの途中に設けられている。急カーブに車両が停車するため、ドアとホームの間に、やや隙間ができる。

 

ちなみにこの急カーブ、半径100mというもの。新260系などの車両の先頭部が、前にいくにしたがい、ややしぼむ形をしているが、この半径100mという急カーブで、車体がホームにこすらないようにするための工夫だ。

↑日永駅で内部線と八王子線の線路が分岐している。手前が内部行き電車。向かいが八王子線の電車。同駅で必ず内部線と八王子線の電車がすれ違うダイヤとなっている

 

ちなみに内部線は国道1号とほぼ平行して線路が敷かれている。途中、追分駅前を通る道は旧東海道そのものだ。古い町並みも一部に残っているので、時間に余裕があれば歩いてみてはいかがだろう。

 

八王子線の終点、西日野駅は日永駅から1つ目、行き止まりホームで駅舎もコンパクトだ。

 

内部線の終点は路線名のまま内部駅。この駅も味わいがある。駅の建物を出ると、すぐ右手に引込線があり、検修庫に電車が入っている場合は、駅のすぐ横まで先頭車が顔をのぞかせている。762mmという線路幅ならではの小さめの車両が顔をのぞかせるシーンは、普通サイズの車両のような威圧感もなく、見ていて何ともほほ笑ましい。それこそ鉄道模型のジオラマの世界が再現されているような、不思議な印象が感じられた。

↑内部駅を出たすぐの横にある検修庫。鉄道模型のジオラマの世界のような趣がただよう。普通サイズの電車ではとても味わえないサイズ感の違いが楽しめる

 

帰りは偶然だが、古くから走るパステル車両に乗り合わせた。3両編成のうち中間車両はロングシートで、乗るとナローゲージ特有の狭さが感じられた。昭和生まれの1編成(265・122・163号車)は何と2018年9月で引退する予定とされている。昔ながらの内部線・八王子線の雰囲気が味わえるのもあと少しとなった。

↑新260系が増えているなか、パステルカラーの旧車両の面影を残した車両も1編成3両のみ残っている。2018年9月には引退となる予定。乗るならいまのうちだ