前記事では、この9月に運行を開始したラッピング電車「ベイスターズトレイン ビクトリー号」について紹介した(~2018年9月16日まで運行)。この例に限らず、実はここ数年、全国の鉄道会社がラッピング電車を走らせることが増えている。その理由は何なのか、どんなラッピング電車が走っているのか――。本稿では具体的な例を挙げつつ、ラッピング電車の最新傾向を見ていこう。
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ラッピング電車が増えているのはなぜ?
ラッピングのはじまりは1990年代中ごろからと、意外に古い。2000年に東京を走る都バスに広告ラッピングが施され、その名を「ラッピングバス」と紹介されたことから、ラッピングの名が広まったとされる。
昨今、通勤用の電車は銀色のステンレス車体が多くなりつつある。塗料を使っての塗装が不用になってはいるものの、各車両の差はあまりない。沿線PR、キャンペーンなどでPR媒体として車両を利用したいときに、ラッピングはまさにうってつけだったのである。
さらに近年は、印刷精度もあがり、また貼りやすいラッピングシールが開発されている。
ラッピング費用は、ラッピングシールの大小で大きく異なる。その差は大きいが、車両全部(屋根や床下部分を除く)をラッピングすると1両で百数十万円以上というのが相場のようだ。8両や10両という長い車両を1両ごとラッピング、さらに企業広告ともなれば、広告費も加算されかなり高額になる。
一方で車両編成が短い電車となると、ぐっと身近になる。1〜2両編成の路面電車で広告ラッピングされた電車が多いことから、そのあたりの実情が推測できよう。
続いて全国を走る代表的なラッピング電車を見ていこう。
チームカラーが目を引く「プロ野球応援ラッピング電車」
前回ベイスターズのラッピング電車を紹介したので、まずはその他のプロ野球球団のラッピング電車から見ていこう。
例年、新たなデザインで登場しているのがJR西日本の「カープ応援ラッピング電車」。JR山陽線、呉線、可部線などを走行する。カープのイメージカラーである派手なレッドの車体が目立つ。今年の車両には、側面に選手たちがプレーする姿が躍動している。
西のカープが赤ならば、東の西武ライオンズはチームカラーでもあるレジェンドブルーで対抗する。全体がブルーのシックな装い、車体には球団のロゴが施される。車内のシートにも球団ロゴがプリントされている。
鉄道会社で球団を所有しているといえば、阪神電鉄が代表格でもある。この阪神だが、球団80周年の2015年にタイガースカラーの黄色い車体の「Yellow Magicトレイン」を走らせたものの、その後は大がかりなラッピング電車は走らせていない。今後に期待したい。
子どもたちに人気!「キャラクター入りラッピング電車」
キャラクター入りのラッピング電車も各地を走っている。代表的な車両を見ていこう。
自社のキャラクター「そうにゃん」を生み出し、そのキャラクター入りラッピング電車を走らせるのが相模鉄道。「そうにゃん」は相鉄沿線出身のネコだそうで、仕事は相鉄の広報担当とのこと。2014年に登場、そうにゃんのイラストが車内外に入るラッピング電車「そうにゃんトレイン」が好評で、すでに5代目の「そうにゃんトレイン」が走っている。
熊本県のPRキャラクターといえば「くまモン」。肥薩おれんじ鉄道では、2012年からくまモン入りの「くまモンラッピング列車」を走らせている。当初は1両のみだったが、その後に増えて2号、3号と色違いのラッピング列車が走っている。くまモンの姿は車体だけでなく、車内にはくまモンのぬいぐるみや立体像などが置かれ、かわいらしい姿を楽しむことができる。
キャラクター入りラッピング列車は他社でも多く登場している。代表的な車両としては、JR四国の「アンパンマン列車」、京阪電気鉄道の「きかんしゃトーマス号」、富士急行「トーマスランド号」などが挙げられる。子どもたちに人気があるキャラクターがラッピングされる傾向は、今後も強まるだろう。
沿線の観光要素を強く打ち出した「観光ラッピング電車」
鉄道会社にとって、定番となりつつあるのが、「観光ラッピング電車」。沿線のPRも兼ねて、また既存の車両とはひとあじ異なる車両を走らせ、乗客の注目を集める狙いもあるようだ。
代表的な車両を2車両、挙げておこう。
まずは西日本鉄道(西鉄)の観光ラッピング電車「旅人(たびと)」。沿線の太宰府観光用に生まれた電車だ。2014年当時には8000形が使われていたが、現在は、3000形となり、太宰府の観光活性化に一役買っている。さらに西鉄では「水都(すいと)」という観光ラッピング電車も走らせている。こちらは柳川のイメージアップを図るための観光ラッピング電車。こちらも以前は8000形だったが、現在は3000形を利用した2代目となっている。
両列車とも注目度は高く、ラッピングや車内の改装などの費用をかけてでも、こうした観光ラッピング電車を走らせる効果は大きいようだ。
おもしろいのは南海電気鉄道(以下、南海と略)加太線(かだせん)を走る「めでたいでんしゃ」。
和歌山県の海沿いを走る加太線沿線は海産物が特産品となっていて、路線も「加太さかな線」という愛称をもつ。とはいえ、ローカル線ならではの乗客の減少に悩んでいた。そんな同線用に2016年に登場させたのが「めでたいでんしゃ」。加太に縁の深い鯛をモチーフに生まれた電車だ。走る電車で鯛のボディを再現しており、窓には目、車体にはウロコ模様が入るなど凝った造りとなっている。
こんな車両は見たことない!「ユニークなラッピング電車」
ラッピング電車の長所は、デザインの自由度が際限なく生かせる所。発想がユニークなラッピング電車も各地で走っている。最後に、そうしたちょっとユニークなラッピング電車を見てみよう。
まずは京浜急行の大師線を走る「京急120年の歩み号」から。
4両編成の同列車、それぞれの車体カラーが、太平洋戦争前、戦後そして現代と、時代ごとに変ってきた京浜急行の車体カラーがラッピングされている。1番古い赤茶色の車体には、古い電車を表現すべく、鋼鉄製の車体を組み立てるときに使われたリベットの出っ張りまでがプリントされている。このあたりは、ラッピング電車でなければできない表現だろう。
東急世田谷線のラッピング電車もおもしろい。
「招き猫電車」として名付けられたこの電車。世田谷線が玉電として走り始めてから110周年を迎えることから生まれた。塗装でこのような招き猫のデザインを描くとなると、かなり大変だ。細かい招き猫の模様は、ラッピングシールがあるからこそ表現できたものだろう。残念ながら2018年9月末までの運行の予定。ホームページ上で運行予定が公開されているので、いまのうちに乗ってみてはいかがだろう。
まさに百花繚乱となりつつあるラッピング電車の世界。今後、どのようなラッピング電車が登場するか、ますます楽しみだ。