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2018/10/16 17:30

見慣れた表示がいつのまにか変化していた!? 鉄道車両に欠かせない「カラーLED表示器」の今を追う

おもしろ鉄道の世界~~撮影に必要なカラーLED表示器の基礎知識~~

 

通勤形電車に欠かせない行先の表示器。私たちはどこ行きの電車か、急行か普通か、表示器を見ることで瞬時に大切な情報を読み取っている。

 

この行先の表示器。幕(方向幕)を利用していた表示が少しずつLEDを用いた文字となり、その文字も、オレンジ色や黄緑からさまざまなカラーに変っていることをご存知だろうか。実は筆者もあまりよく知らない世界だった。

 

そこで今回は、鉄道用カラー表示器の大手・コイト電工株式会社(神奈川県横浜市)を訪ね、鉄道の表示器のあれこれをうかがった。同社の協力を元に表示器、特に「カラーLED表示器」の今を追ってみよう。

*掲載写真はすべて星川功一(Twinkle)の撮影

 

【表示器の設置場所】正面そして側面、車内と表示器のいろいろ

↑電車の正面に付けられる「正面表示器」。電車、会社により異なるが写真の相模鉄道20000系の場合は、行先表示と、種別表示(急行・普通など)、と列車番号の表示器が付けられる

 

↑上と同じく相模鉄道20000系の側面表示器。最新のカラーLED表示器では、「そうにゃん」のようなキャラクターイラストも、きれいに表示することができる

 

上記の写真2枚が現在、使われる鉄道の代表的なカラーLED表示器だ。こうした表示器は製造しているメーカーや鉄道会社で共通する呼び方がない。そこで本原稿ではコイト電工の呼び方を元に紹介したい。

 

まずは電車の正面から。通勤電車には、人の顔で言えばおでこの部分に表示器がついているが、こちらを「正面表示器」と呼んでいる。車両、会社によって表示の方法がさまざまだが、例にあげた相模鉄道の新車20000系では、行先、急行・普通などの列車の種別、列車番号を、「カラーLED表示器」で掲示している。

 

車体側面にも表示器があり、こちらは「側面表示器」と呼ばれる。列車の種別案内、行先を1枚の「カラーLED表示器」で案内している。

 

ほかに車内にも表示器が設置されるケースが多くなってきた。ドア上にある表示器があり「車内表示器」と呼ぶ。こちらは「LCD」を利用している車両が多い。LCD(液晶ディスプレイ)とは、身近でいえばパソコン用の液晶ディスプレイとほぼ同じで、路線案内や、駅案内などをディスプレイに表示、役立つ情報を乗客に提供している。

 

【表示器の歴史】表示器はいつ方向幕からLED表示器へ変ったのか

↑方向幕を用いた表示器。相模鉄道の新7000系では行先と、急行・普通を方向幕で示している。古い車両では今も使われているが、かなり減ってきているのが現状だ

 

表示器の移り変わりを見てみよう。

 

長い間、行先を示す正面表示器には、「方向幕」が使われてきた。幕に駅名がプリントされ、その幕をぐるぐる回して、該当する駅名を掲示する仕組みだ。

 

この方向幕による表示器がLED化され始めたのはいつごろなのからだろう。

 

●3色LED表示器(1988年〜2004年ごろ)

↑表示器のLED化当初は、3色のLED表示器が使われた。3色のLEDが使われ、赤、緑、橙(だいだい)といった色で文字を表現した。写真は小田急電鉄の3000形

 

コイト電工によるとLED化の始まりは1988年だとされる。3色のLED表示器が開発され、鉄道各社で導入され始めた。歴史は意外に古かったわけだ。

 

3色とは赤、緑、橙(だいだい)で、この3色しか表示できない。橙にしても赤と緑を同時に点灯することにより、この色が造り出されている。

 

●カラーLED表示器(2004年〜)

↑通勤用の鉄道車両にカラーのLED表示器が使われたのは東急東横線の5050系からとされる。列車番号の表示器を除き、行先、急行・各停といった列車の種別案内に「カラーLED表示器」が使われるようになった

 

3色LED表示器を発展させたのがカラーLED表示器。このカラーLED表示器は2004年に登場した。通勤用の鉄道車両に最初に取り付けられたのが東急東横線用の5050系とされ、コイト電工の製品だった。

 

RGB(R=レッド、G=グリーン、B=ブルー)三原色のLED素子を利用。当初は非常に高価だったが、近年は価格を抑える動きが強まり、カラーLEDへの置き換えが進んでいる。

 

こうしたLED表示器が普及した理由としては、まず長持ちすること(大体、8年ぐらいはもつとされている)、表示を変更する時にも字幕を交換することなくデータの書き換えが可能なメンテナンス性、扱いやすさ、価格も徐々に下っていったというのが浸透する要因となったのだろう。

 

鉄道会社のなかには、方向幕を使っていた旧型車両を、定期検査の際にLED表示器に変更する例が多くなり、さらに浸透度が加速していった。

 

【表示器の文字】細い明朝体からしっかり見えるゴシック体へ

表示器に使われる書体も時代とともに変っていった。

 

LED表示器が登場当時には、細目の明朝体の文字が使われることが多かった。現在は、太めのゴシック体が使われることが多い。

↑リニューアル前の相模鉄道9000系。9505編成は正面表示器に3色LED表示器を使用。表示器に使われる書体は明朝体だった

 

↑リニューアル後、YOKOHAMA NAVYBLUE色となった相模鉄道9000系9505編成。表示器は「カラー表示器」に。書体もゴシック体に変更された

 

このあたり、やはり見やすさを重視していった結果なのだろう。確かに明朝体は細目で文字が見づらい。太めで存在感のあるゴシック書体が一般化していったのも理解できるところだ。

 

なお、書体に関しては、鉄道会社それぞれの好みがあり、コイト電工では鉄道会社の希望に沿った文字のデザインを提供している。その結果、最近は見やすいゴシック体が好まれる傾向が顕著になっているとのことだった。

【表示器の仕組み①】上から1行ずつ順番に光り1枚の表示となる

ここでLED表示器の仕組みを見ていこう。写真を撮る上でも大きなヒントとなりそうだ。

 

側面のLED表示器を撮影したのが下の2枚だ。この撮影では、背面モニタをONにしてシャッターを切った。するとモニタのなかで見えるLED表示器の文字が、上から下へ流れている様子が見られた。

↑車体側面の3色LED表示器を撮る。カメラのシャッター速度を60分の1にして撮影すると、きれいな文字になって見えた

 

↑こちらはシャッター速度160分の1で撮影した3色LED表示器。このように列単位で抜けてしまう箇所が生まれてしまう

 

さらにカメラで撮る時にシャッター速度をいろいろ変えて撮ってみた。すると100分の1秒以上では、文字が写らない行ができてしまう。文字が1枚の絵にならずに、すき間が生まれてしまう状態だ。

 

80分の1で、ややすき間が残り、60分の1秒という遅いシャッター速度まで下げて、ようやくきれいな文字が浮かび上がった。

 

どうしてこのような現象が起きるのだろうか。その原因は、LED表示器の仕組みにある。

↑コイト電工で見せてもらった最新のカラーLED表示器。LED表示器とは四角い小さなドット(LED素子)の集合体で構成され、それぞれのドットを光らせて1枚の絵に見せている

 

上の写真はコイト電工で見せていただいた「カラーLED表示器」。間近に見るのが始めてということもあり、多くの発見があった。

 

どのようにカラーLED表示器は文字や絵を表示しているのだろう。その特徴をあげていこう。

1)ドット(LED素子)の組み合わせ
目を凝らして見ると、表示器は、四角いドットがタテヨコに細かく並んでいることが分かる。このドットはLED素子と呼ばれるものだ

2)ドット16個×16個が1ユニットとなる
写真のカラーLED表示器では、ドット(LED素子)が16個×16個を1単位としたユニットで造られている。このサイズでは下の写真のようにユニットをヨコ8個、タテ2列に組み、計16個のユニットで文字を見せている

↑写真のカラーLED表示器は16個×16個のLED素子が組まれたユニットを、さらに8列×2組を組み合わせて1枚の大きな表示器としている(※白ワクと数字は編集部で説明用に入れたもの)

 

3)行単位で点灯、上から下へ順に点灯していく
この表示器の場合は、ヨコ1行が同時に点灯、1行めから点灯を始め、2行め、3行めと下に点灯が広がっていく。ずっと点灯しているわけでなく、上の行から点灯→消灯→点灯を繰り返している。

 

この点灯時間は2000年代に造られたもので、1行が1ms(ミリ秒)。16行あれば、16ms(ミリ秒)かかった。つまり1000分の1秒で1行。1000分の16秒で16行の全部が点灯するわけだ(上写真の「9」ユニット以降は「1」ユニット以降と同じタイミングで点灯・消灯する)。

 

カメラのシャッター速度に置き換えれば、1000分の1秒のシャッター速度ならば、1行のみが光っている時間にあたり、理論上では1行しか撮影できない。16行の表示器ならば単純計算すれば、全点灯状態に近く見せるのには計算上、シャッター速度は62.5分の1秒が必要となる。

 

62.5分の1秒は、カメラのシャッター速度にはないので60分の1秒にすれば完璧にとらえることができる。とはいえ、そこまでになると停まっている電車は撮影できるが、動いている電車となると、かなり撮影が難しい(LED表示器の詳しい撮影方法は次回紹介の予定)。

 

このように1秒よりも短い単位で明滅しているLED表示器だが、人間の目には1枚の表示として見ることができる。それは残像効果のせいだ。

 

高性能なカメラに比べて、人の目というのはアバウト。反面、すべてが見えてしまっては疲れてしまい大変なわけで、このアバウトさがちょうどいいのかもしれない。

↑カラーLED表示器は、上の列から下へ順番に点灯&消灯を繰り替えしている。それを図示してみた。1から16行/17行から32行(2段目の1から16)まで点灯・消灯を続ける。その速さ遅さに関わらず、人の目には1枚の絵として見える

 

【表示器の仕組み②】技術の向上で点灯速度も大幅にアップ!

どのLED表示器もシャッター速度をかなり遅くしないと撮れないのだろうか。

 

安心していただきたい。技術が進歩していて点灯スピードは速くなり、2018年現在の技術では1行が約60μs(マイクロ秒)、1画面が約1ms(ミリ秒)で点灯を行う。計算すると1行は100万分の60秒で点灯、1画面が点灯するのに1000分の1秒で済んでしまう。この瞬速タイプはコイト電工のカラーLED表示器の場合だ。

 

そのようなカラーLED表示器の場合、200分の1から400分の1といった速いシャッター速度でも十分に撮影可能。ただ、実際に写真を撮られている方はご承知かもしれないが、100分の1秒以下といった遅いシャッター速度でも厳しい新車のLED表示器も確認されている(このあたりの詳細は次回に解説予定)。

 

また、コイト電工ではヨコ単位で点灯させているが、タテ単位で点灯させている表示器を製造しているメーカーもある。このあたり表示器のメーカーによって差があることを知っておきたい。

【表示器の弱点】天敵である太陽光の光にいかに対応するか

↑太陽光により行先表示器が見えなくなってしまった一例。光の差し込み方により、表示が見えなくなることがLED表示器の弱点になっている

 

上の写真では、太陽光が順光で車両にきれいに当っているのは良いものの、肝心のLED表示器が見えなくなってしまっている。なぜだろう。

 

LED表示器の最大の難敵は太陽光だ。太陽の光の当る角度によって、見えなくなることがある。特に初期のLED表示器の場合は、この傾向が顕著だった。

 

現在は、どのような対策が施されているのだろうか。

↑コイト電工のカラーLED表示器では、ヨコ1列が点灯する単位ということもあり、それぞれドット1列ごと、その間に「ひさし」を設けている

 

上の写真はコイト電工のカラーLED表示器の例である。ヨコ一列が点灯する単位のため、一列ごとに、わずかな出方だが「ひさし」を設けている。これにより、太陽光が当たって表示が見えないということを防いでいる。

 

さらに新幹線の車体側面にあるカラーLED表示器の場合、カバーとなるガラス窓をスモークガラスにしている。

 

細部に配慮が行き届いているわけだ。LED表示器をしっかり見せたいという技術者の熱意を知ることができた。

 

【LED表示器の今①】文字案内だけでなく季節の草花も表示する

LED表示器が瞬時に点灯、消灯していることはわかった。では文字はどのようにインプットされているのだろう。パソコンのように文字単位で、表示されるのだろうか。

 

車内用のLED表示器などで、文字だけを読ませればよい場合には、文字単位・文章単位でデータがインプットされる。

 

一方、車外用のLED表示器の場合は、文字単位でなく、文字も含めた1枚の絵にして、その絵を表示しているのだという。つまり、私たちが見る車外用のLED表示器の文字や案内は、表示器メーカーが“絵”として作ったものが表示されているのだ。

 

カラーLED表示器の技術が向上し、今は草花を表示する例もいくつかの電車で見られるようになっている。

↑江ノ島電鉄ではカラー表示器を使用。2012年から行先以外に、季節の草花の絵が表示を始めた。写真の1500系の場合、夏は朝顔の花の絵が掲示されていた

 

【LED表示器の今②】色覚特性のある人に対応し始めたLED表示器

技術の進歩が著しいカラーLED表示器。最新機器では、一部の色が見えない、見にくいといった色覚特性のある人に対応したカラーユニバーサルデザイン化も進められている。

 

例えば、横浜市営地下鉄の新型3000V形では、色覚バリアフリーに配慮した車内外の表示器で対応。車外のカラー表示器では、文字の視認性を高めるため、背景と文字の間に輪郭線のある袋文字を使用。特に車内の17.5インチのLCD表示器では、色覚特性のある人にも判読が容易な色を使い、文字はユニバーサルデザインで表示している。

 

さらにグローバル化に合わせ、駅名は4か国語、5言語に対応している。

↑横浜市営地下鉄の新車3000V形。正面のカラー表示器と、車内のLCD表示器では色弱者にやさしい表示方法を採用、高い評価を得ている

 

このように最新のカラーLED表示器、さらにLCD表示器ではバリアフリーということへの配慮も進められていることがわかった。

 

高度になりつつあるカラーLED表示器の世界。次回は、鉄道会社や車両によって異なるLED表示器の現状と、写真撮影を楽しむ方向けに、どのように対応していけばよいのかを解説していきたい。

 

<取材協力:コイト電工株式会社>
コイト電工はカラーLED表示器以外に、鉄道関連事業としては、例えばLED室内灯、新幹線等の回転リクライニングシート、また運転台のモニタ装置やマスコンなどの機器を製造する。また道路施設関連の製品も多く、交通信号機、道路照明設備、道路情報板などの製造も行う。KIホールディングス株式会社の持株会社で、親会社は自動車用照明部品メーカーの株式会社小糸製作所。