おもしろ鉄道の世界~~撮影に必要なLED表示器の基礎知識2~~
通勤形の電車に今や欠かせなくなりつつある「LED表示器」。カラー化され、文字はくっきり、色も鮮やか。電車の行先を表示するだけでなく、花の絵入りの表示器が登場するなど華やかになりつつある。そんなLED表示器ではあるものの、写真を撮ろうという鉄道ファンには、やや厄介な存在にもなっている。
上手く撮れた! と思ったら正面に表示される文字がまったく撮れていない……という経験をお持ちの方も多いだろう。今回は、鉄道会社、鉄道車両で異なるLED表示器の傾向と対策を探ってみた。インスタ映えする鉄道の写真を撮りたいと思っている方にも役立てていただきたい。
【LED表示器の基本】まずシャッター速度に注目することが必要
LED表示器、とくにカラーLED表示器の仕組みは前回の記事でご紹介した。
【関連記事】見慣れた表示がいつのまにか変化していた!? 鉄道車両に欠かせない「カラーLED表示器」の今を追う
前回の記事を要約すると、LED表示器自体は約20年以上前に登場し、3色LED表示器からカラーLED表示器と進化して、文字もより見やすく美しくなっている。LED表示器は1秒の何100分の1という短い時間にヨコの行ごと(タテ列ごとに行う表示器もあり)に「点灯」と「消灯」を順番にくりかえしている。つまり、すべてのLED素子が一斉に点灯しているわけではないのだ。
点灯と消灯をくりかえすLED表示器だが、人の目には残像効果で1枚のきれいな表示に見える。しかし、カメラは人の目に比べてはるかに高性能なため、設定次第で1000分の1以上という“瞬間”を切り取る。そのため、次の写真のように消灯している一部分が見えなくなる現象が起こってしまう。
そこでLED表示器を撮影する場合には、カメラのシャッター速度を、LED表示器が点灯・消灯する速度(すべてのLED素子が点灯して一巡するまでの速度)よりも遅くしてあげれば、表示器を写すことができる。
しかし、どのLED表示器も、同じシャッター速度に撮れば良いのかと言えば、そう簡単にはいかない。一部は撮れるが、一部は撮れない。
LED表示器を製造するメーカーが複数あり(コイト電工、森尾電気、レシップなど)、それぞれ製造するLED表示器の点灯、消灯のスピードは、各社の商品ごと、また製造した年代で異なっているためだ。そのために、同じシャッター速度でも撮れる、撮れないという現象が起きる。
LED表示器がきれいに写るシャッター速度は、大半が160分の1〜400分の1ぐらい。停車している車両はそうしたシャッター速度で撮ればきれいに撮ることができる。しかし、スピードを出して走る車両を遅めのシャッター速度で写すと、今度は車体が次の写真のように流れてしまってきれいに撮ることができない、というジレンマが発生する。
だが、諦めるのはまだ早い。ちょっとしたコツを身に付けることできれいに撮れるようになる。ここからは、シャッター速度を遅くした際の撮影方法に触れておきたい。
ちなみに、速いシャッター速度で撮影できる、逆に遅いシャッター速度でしか撮影できないという差は、LED表示器の優劣ではない。どちらも人の目には判読できる範囲であり、十分に実用的な性能を持っている。あくまで写真を撮る際に違いが生じる、と捉えていただきたい。
【表示器を撮るコツ1】「ズーム流し」という撮影方法を利用する
シャッター速度を100分の1〜400分の1といった遅めに設定しての撮影が必要となるLED表示器。そのままでは、前述のとおり写した車両は写真内で止まらず、流れてしまう。どうしたら、車体を写し止めつつ、きれいにLED表示器が撮影できるのだろう。
そこで注目したいのがレンズだ。鉄道写真を撮影する際に、ほとんどの人は単焦点レンズでなく、ズームレンズを利用しているではないだろうか。このズームレンズの機能を活かしたい。
ズームレンズには焦点距離を変更するためにズームリングが付いている。このズームリングを操作するのだ。
具体的には、近づく車両の動きに合わせてズームリングを回して焦点距離を調整。例えば70mm〜200mmの望遠ズームならば、200mm側からズームリングを回して70mm側に焦点距離を移動させる。こうした撮影方法を「ズーム流し」と呼ぶ。
最近のカメラは優秀なAF追従機能が付いているので、この機能を利用すると良い。鉄道車両の頭部分(できれば連結器部分)にピントを合わせるように調整しておけば、まず外す心配がない。正面が白い車両のみピントが合わなくなる可能性が有るので注意したい。
感覚的には、遠くからから近づいてくる鉄道車両の動きにあわせて、画角を思い切り広げていき、大きくなる車両に画角(フレーミング)を合わせていく。この際に、車両の走りに釣られず、カメラの位置はなるべく移動させずに、車両の後端が切れないように気を配りたい。
筆者の場合は、LED表示器が付く車両を撮る場合は、撮影モードはシャッター速度優先モードを利用。250分の1前後にしておき、車両が遠くに見えたら、シャッター速度を調整、ズーム流しを利用して撮影するようにしている。
【表示器を撮るコツ2】立ち位置の選び方も重要なポイントに
シャッター速度を遅くすれば、シャッターを切る間に、その遅くしたぶんだけ目の前を車両が走り過ぎていく。時速80kmの電車ならば、500分の1のシャッター速度ならば4.4cmだが、100分の1秒のシャッター速度ならば、シャッターを切る間に22cmも目の前を走ってしまう。
だが、立ち位置を選ぶことによって、自分のほうに向かってくる車両を、なるべく同じアングルが続くように加減することが可能だ。ズーム流しもしやすくなる。
下の図のように直線の線路区間では、電車から離れるほど、右側へ走る動きが加わり、スロー気味のシャッター速度での撮影が難しくなる。線路に近づけば良いのだが、近づきすぎは危険。また近づき過ぎると車両の顔ばかりが大きくなり、側面が撮れなくなる。
理想的なのはアウトカーブの撮影地。カーブでは電車がスピードを緩める、また撮影者が正面気味に立っても、線路にさえ近づかなければ危険とならない。
筆者の場合、100分の1といったシャッター速度で撮らなければいけないときには、なるべく駅の近くで電車のスピードが落ち、さらにアウトカーブの撮影地を選んで訪れるようにしている。こうした場所でないと、100分の1というスロー気味のシャッター速度での撮影は、高度な技術を習得してもかなり難しいと思われる。
【表示器の傾向1】一世代前の車両に多い「3色LED表示器」
すでに撮影のコツを身につけている人へは、より実践的な内容として、各地を走る代表的な車両のLED表示器の傾向に加えて、遅めのシャッター速度が必要な新型車両の情報をお届けしよう。ここからは各地を走る代表的な車両に付けられたLED表示器の傾向と、どのぐらいのシャッター速度を選べば良いのかを見ていきたい。
まずは1990年前後から徐々に広まった3色LEDの傾向から。3色LED表示器は赤、緑、橙(だいだい)の3色で文字を表示する。橙は赤と緑を同時点灯して色を造り出している。
●JR東日本E231系 → シャッター速度250分の1前後
3色LED表示器を使う代表的な車両としてはJR東日本のE231系がある。東海道本線や高崎線、東北本線などを走る近郊形車両。さらに山手線、中央総武緩行線、常磐線など、多くの路線を現在も走っている。大半のE231系は、シャッター速度250分の1ぐらいで十分に撮影が可能だ。
3色LED表示器を使っている他鉄道会社の車両も、多くが250分の1前後のシャッター速度で撮影できる。一部の例外車両を見ておこう。
●横浜高速鉄道Y500系 → シャッター速度125分の1以下
横浜高速鉄道のみなとみらい線だけでなく東急東横線や、東京メトロ副都心線に乗り入れるY500系。兄弟車両の東急東横線の5050系がカラーLED表示器を使っているのに対して、Y500系は3色LED表示器を利用している。きれいに写すためには125分の1以下のシャッター速度が必要だった。
●関東鉄道常総線の気動車 → シャッター速度速度80分の1以下
3色LED表示器を使用する車両のなかでも、撮影が難しいと感じたのが一部路線の気動車に使われている表示器だ。
上の写真は関東鉄道のキハ5000形だが、80分の1というかなり遅いシャッター速度でようやく撮影可能だった。関東鉄道以外にも伊勢鉄道のイセⅢ形といった車両も、かなりシャッター速度を落とさないと厳しい。
会津鉄道の気動車のように250分の1で撮影できる車両もある。全国の気動車すべてでないところが、LED表示器の難しいところでもある。
【表示器の傾向2】1000分の1で撮れる「カラーLED表示器」も
2004年から次第に浸透していったカラー表示器。現在、導入される新型車両のほとんどがこのカラーLED表示器が使われている。登場してから10年以上が経つだけに、使われ始めたころに比べて、新しい表示器は美しく高性能になりつつある。
撮影可能なシャッター速度に関しては、千差万別だ。同じ車種でも路線で異なる例も見られている。1000分の1で撮ることが可能な表示器が現れる一方で、100分の1近くでようやくという表示器もある。
ここでは代表的な車両と、まだ登場して間もない新型車両を中心に見ていこう。
●JR東日本E233系 → シャッター速度125分の1〜320分の1
首都圏を走る通勤用の代表格がJR東日本のE233系。京浜東北線をはじめ、埼京線、京葉線、横浜線など、多くの路線を走る。この車両のカラーLED表示器、導入された年代により性能が異なるもよう。上の横浜線のように、偶然にすれ違った電車の表示器で、その差がわかる。
●JR西日本323系(大阪環状線) → シャッター速度400分の1前後
JR東日本とともにカラーLED表示器を利用する車両が多いのがJR西日本。この西日本の車両は、速いシャッター速度での撮影可能な車両が多い。大阪環状線の323系、広島近郊を走る227系、関西全域を走る225系など250分の1から一部は400分の1でも撮影可能だった。
ただしJR西日本の車両のなかでも関西本線の201系や、山陽本線の115系といった例外がある。車両の検査・更新時にあとから取り付けられた3色LED表示器は、100分の1以下での撮影が必要なようだ。
●東急電鉄田園都市線2020系 → シャッター速度400分の1
東京急行電鉄の新型車両2020系や6020系はシャッター速度400分の1で撮影が可能。これだけ速いシャッター速度だとかなり撮りやすい。
このように比較的、速めのシャッター速度で撮影できる各社の新型車両として、相模鉄道の20000系や、京王電鉄京王線用の5000系が挙げられる。
●大阪モノレール3000系 → シャッター速度1000分の1
10月から走り始めた大阪モノレール(大阪高速鉄道)の新型3000系。試乗する機会があり、駅に停車したときに、シャッター速度をいろいろ変えて表示器を撮影してみた。
すると400分の1はもちろん、1000分の1でも鮮明に表示器を写すことができた。このシャッター速度の速さは画期的なこと。ここまでなるとシャッター速度を気にせずに安心して撮影が楽しめそうだ。
【表示器の傾向3】撮影難度が高い新型車両をピックアップした
100分の1前後のシャッター速度でないと、カラーLED表示器がきれいに写らない新型車両もある。100分の1ともなると、撮影場所を選び、かなり気配りして撮影しないと、厳しいシャッター速度だ。代表的な車両を見ていこう。
●西武鉄道40000系(Sトレイン用) → シャッター速度125分の1以下
シートの向きが変更でき、座席指定制の有料列車「Sトレイン」として使われる西武鉄道40000系。表示器をきれいに撮ろうとすると100分の1(125分の1でも撮影が可能)が理想となかなか厳しい。
●東武鉄道70000形(日比谷線乗り入れ用) → シャッター速度100分の1以下
赤い色使いが鮮やかな東武鉄道の新型70000形。東京メトロ日比谷線乗り入れ用に導入された車両だ。表示器はシャッター速度100分の1で文字がきれいに写せた。日比谷線では東京メトロの13000系も導入されているが、こちらも遅めのシャッター速度が必要となる。
●都営地下鉄5500形(浅草線用)→ シャッター速度100分の1以下
都営浅草線用に20年ぶりの導入された5500形。カラーLED表示器は100分の1以下でないときれいに撮れない。ほか都営地下鉄では新宿線用の10_300形の最新車両も125分の1以下のシャッター速度が必要だった。
このように、同じ鉄道会社で同メーカーの同タイプの表示器が使われることが多いために起こりがちな現象。上手く対応するためにも、この傾向は知っておいたほうがよさそうだ。
●阪神電気鉄道5500系(リノベーション車両)→ シャッター速度125分の1以下
関西を走る大手私鉄では、これまで方向幕を利用した車両が多かったが、徐々にカラーLED表示器を利用した車両が増えている。
各社の車両の多くが200分1〜250分の1のシャッター速度でカバーできるが、非常に厳しく感じられたのが、阪神電気鉄道の5700系と5500系リノベーション車両。5500系は、リノベーション前に方向幕が利用されていたが、リノベーションにあたり、カラーLED表示器が利用されている。5700系とともに125分の1以下で撮ることが必要だった。
関西の大手私鉄では、ほかに近畿日本鉄道の9820系(3色LED表示器の利用)が125分の1以下と、やや遅めのシャッター速度が必要だった。
またOsaka Metoro御堂筋線を走る30000系も125分の1以下という遅めのシャッター速度が必要に。ちなみに同線を走る北大阪急行の9000形は250分の1というシャッター速度でもLED表示器の撮影が可能だった。
●JR四国 特急形車両8600系・2600系 → シャッター速度125分の1以下
一部の特急列車の特急名(愛称)をカラーLED表示器で表示する車両の例が出始めている。JR北海道やJR西日本の特急形車両は、250分の1ぐらいのシャッター速度で撮影できた。
難しいと感じたのはJR四国の8600系や2600系。最高運転時速が130kmと速く、カーブも車体傾斜装置で高速で通り抜ける。走行中は125分の1以下というシャッター速度では、とても撮影できないと感じられた。駅で撮影しても、条件によってはにじみが見られた。
JR四国では121系をリニューアルした7200系通勤用電車が3色LED表示器を利用している。こちらは100分の1以下といったシャッター速度が必須だった。
●西日本鉄道9000形 → シャッター速度125分の1以下
西日本鉄道(西鉄)ではこれまで方向幕を使った車両が主体だった。新型として登場した9000形で初めてカラーLED表示器が使われている。この表示器が125分の1以下のシャッター速度の設定が必要。きれいに撮影したい場合は100分の1以下が望ましい。
はじめはなかなか難しく感じられるLED表示器を撮るコツ。慣れるまで大変かもしれないが、だんだんと自然に身体が動くようになってくる。きれいに撮れると、楽しさも増してくるだろう。
さらにシャッター速度を落として撮ると、迫力ある写真を撮影することもできるようになる。鉄道写真の新たな世界を見いだせる可能性もある。ぜひチャレンジしていただきたい。