おもしろ鉄道の世界 〜〜この秋にお目見え!新車情報その1〜〜
2018年は、鉄道車両が大きな転機を迎えつつあった年のようだ。2年後の東京五輪に備え、大手私鉄を中心に新型車両の導入が続いている。加速するかのように10月、新型車両が相次いで発表され、すでにその一部が走り始めている。
今回は東京の大動脈、東京メトロ丸ノ内線の新型車両2000系。一方、大阪近郊をぐるりと巡る大阪モノレール(大阪高速鉄道)の新型車両3000系に注目した。東西どちらの車両も、利用者の使いやすさを考えた機能が満載。さらに一度見たら忘れられない丸みを帯びた個性的な顔立ちが特徴となっている。
◆東京メトロ丸ノ内線2000系◆
【丸ノ内線の秘密】今も増える利用客、日本一の高密度運転を実施
新車が導入される東京メトロ丸ノ内線。東京を代表する地下鉄路線だけに、その概要を良くご存知の方も多いかと思う。ここに“丸ノ内線はやはりすごい!”と思わせる数字がある。概要のおさらいと共に、驚きの数字を見ておこう。
東京メトロ丸ノ内線の路線は池袋駅〜荻窪駅間の本線と、中野坂上駅〜方南町駅間の通称・方南町支線の2本があり、路線は27.4kmの距離となる。何より新宿、赤坂見附、霞が関、銀座、東京、大手町と東京の主要なターミナル駅、繁華街、オフィス街を通るだけに、利用者が多い。
1日の利用者は平均すると135万1千人(日本地下鉄協会平成29年度調べ)。この丸ノ内線の利用者を上回る地下鉄路線は国内に1本のみだ(1位は東京メトロ東西線で145万人)。丸ノ内線は地下鉄の路線の中で国内2位の利用者数を誇る。しかも毎年、2〜4%ずつ利用者が伸びているというのだからすごい。
こうした日々多くの利用者に対応するため、丸ノ内線の列車の間隔はピーク時で1分半〜2分間隔。この間隔の短さは驚異的で、日本一の高密度運転間隔となっている。
とてつもなく多い利用者数、さらに高密度運転が行われる丸ノ内線。使われる電車もそれに応じた車両が必要となる。東京メトロが丸ノ内線用に30年ぶりに、満を持して造り上げた車両が2000系だ。
【2000系の秘密1】鮮やかな赤の車体が東京の活力を引き出す
新車2000系が先日、東京メトロ中野車両基地で報道陣に公開された。その模様をレポートするとともに、特に目を引いたポイントを紹介しよう。
中野車両基地内に停められた2000系6両編成。まず車体カラーが目を引く。グローイング・スカーレットと呼ばれる鮮やかな車体色。従来の丸ノ内線02系の銀色に赤ラインの車体に比べて、数段は刺激的なカラーだ。そこに丸ノ内線の伝統、「サインウェーブ」と呼ぶ編み目模様が織り込まれる。
加えて電車の顔となる前面デザインが印象的だ。東京メトロ初の球面ガラスを生かした正面窓を採用。前照灯なども丸みを活かした形となった。
こうした姿や形で“TOKYO”に活力を与えることができれば、と東京メトロは意欲的だ。確かに朝、こうした鮮やかなカラーの電車に出会えば、元気を分けてもらえそう。一日の活力源になるかも知れない。
さらに混みぎみの電車ならではの圧迫感を減らす工夫など、随所に新しい試みが取り入れられる。そんな車内を見ていこう。
【2000系の秘密2】座席幅を広く冷房能力も向上、そして…
新車2000系では、天井をより高くして圧迫感を減らす工夫とともに、立って乗車する人への配慮がより強く感じられた。
まず空調装置・冷房装置の能力を向上させている。
座席前に立つ人向けの吊り革とともに、スタンションポールと呼ばれる仕切り棒を多く配した。さらに左右の座席前に立つ人と立つ人のちょうど間のような狭い空間に立たざるをえない人向けに、多くの吊り革が設けられ、高さも一部下げて、より使いやすくした。
丸ノ内線では四谷駅〜赤坂見附駅間、新大塚駅〜茗荷谷駅間といった特定の駅間でとくに混みがちになる。朝は少し混み合っていても早く会社や学校へ着きたいという人も多い。車両の奥まで入って、ひと時を我慢している人も多いことだろう。こうしたスペースでは吊り革などつかまるところが無いと、辛く、心細く感じられることがある。新型2000系のように、通路用の吊り革が多いと、非常にありがたいだろうな、と思った。
興味を引いたのは、携帯電話など小電力機器の充電が可能なコンセントを各車両に設けていること。東京メトロとしては始めての試みだ。
特急列車などと比べると、地下鉄の場合には大半が短距離区間を利用する人たち。さらに、このコンセントを利用したい希望者が何人も現れたら……。東京メトロでは利用方法を検討中とのことだったが、当初はトラブルの時のみの利用に限ることになりそうだ。
車両設備の中で大きなポイントは、省エネルギー性や安全性の向上を図る機器の設置とともに、非常時走行用バッテリーを搭載したところだろう。もしもの停電時でも非常時用のバッテリーを使うことにより、最寄り駅までの走行が可能になる。
2000系は2019年2月から運行開始の予定。2022年度中には53編成318両を導入されることとなる。
丸ノ内線の電車すべてが、鮮やかなレッドカラーになる日も近い。
□取材協力:東京地下鉄株式会社
◆大阪モノレール3000系◆
【大阪モノレールの秘密】日本一長いモノレール路線を走る
大阪市の近郊を半周するように走る大阪モノレール(大阪高速鉄道株式会社)。路線の開業は1990(平成2)年6月1日のこと(南茨木駅〜千里中央駅間)。現在は大阪空港駅〜門真市駅(かどましえき)間を走る大阪モノレール線と、途中、万博記念公園駅から別れ、彩都西駅(さいとにしえき)まで走る国際文化公園都市モノレール線(彩都線)の2路線が走っている。
路線の距離は現在28km。1998年には、当時の営業距離21.2kmがモノレール路線として最長になりギネス世界記録の認定を受けた。その後の2011年に中国重慶市に距離が上回るモノレール路線が誕生したことから、今は世界最長では無い。とはいえ日本最長の距離を持つモノレール路線であることに変わりがない。
大阪モノレールはレールの上に車両がまたがる「跨座式(こざしき)」と呼ばれるモノレールの路線。走る車両は既存の1000系と2000系。さらに10月には17年ぶりとなる新車3000系が登場し、10月21日から営業運転を開始した。営業開始直前に試乗する機会があったので、その様子をお伝えしたい。
【3000系の秘密1】丸みのある先頭部。2色のラインが円を描く
車庫から万博記念公園駅のホームへ入ってきた新型3000系。先頭部の特にガラス窓から上部への丸みが目立つ造りとなっている。さらに大阪モノレールのコーポレートカラー・ウルトラマリンブルーと呼ばれるブルーが鮮やかだ。
車体側面にはブルーと、ピンクの2色のラインが円を描くように連なる。こちらは人と沿線(まち)をつなぐ“わ(輪)”をイメージしたものだとされる。
先に紹介した丸ノ内線2000系と同じように、大阪モノレールの3000系も丸みを活かしたデザインが特徴となっている。
両車両とも車体はアルミ合金製だ。このように、なめらかな丸みを帯びたデザインは、アルミ合金製の車体を溶接して接合・整形といった加工技術が時代とともに進化してきたことも大きい。
加えて、通勤電車は四角顔、角張った機能一辺倒のスタイルから、丸みを帯びた、より「やわらかさ」を前面に打ち出そうとする時代背景も大きいと言えるだろう。
ちなみに大阪モノレール3000系は日本デザイン振興会が主催する2018年度グッドデザイン賞を受けている。
【3000系の秘密2】通勤電車最大級!平均より5cm広い座席幅
外観がかなり印象的な3000系だが、車内は快適性そのものだ。加えて楽しい試みが取り入れられている。
車内で最も注目したいのは座席の広さだ。窓を背にして座るロングシートながら、1人分のサイズは48cmある。JIS規格でロングシートの1人分の座席幅は43cmが必要とされている。最近では、大柄な男性の体型を考え46cmという新型の通勤車両も出現したが、48cmは座ってみるとやはりゆったりめに感じた。
ちなみに東海道新幹線のN700系の普通車3列シートの場合、窓側、通路側の席が44cm、真ん中の席が46cmだ。つまり大阪モノレール3000系は、新幹線の普通車のリクライニングシートの幅より広いということになる。
車内のほかの特徴も写真で見ていこう。
【3000系の秘密3】迫力ある前面展望が楽しめるキッズスペース
座席の広さとともに3000系の特徴となっているのが、運転席のすぐ後ろの先頭スペース。ここから望む前面展望は鉄道好きにとってはたまらない魅力。さらに高架路線を走るモノレールとなれば、迫力あるパノラマ展望が楽しめる。
そんな前面展望を親子で一緒に楽しんでもらえたらと、3000系には運転台のすぐ後ろに「キッズスペース」を設けた。子どもたちが景色をもっと楽しめるように、床を一段、高くしてあるのがポイント。すぐ横の窓も通常より低い位置まで開口されていて、眼下が良く見える仕掛けを施した。
前面展望を楽しむための特製キッズスペースを設けたというのは、鉄道車両として、これまでにほとんど無かった試みだろう。まさに画期的ということができる。
こうした設備でモノレールはもちろん、乗り物の楽しさをどんどん知ってもらって、大きくなっても鉄道の良き理解者、利用者になってもらえれば、鉄道の未来も明るいのではないだろうか。
□取材協力:大阪高速鉄道株式会社