新型車両レポート&レール締結式 〜〜相模鉄道(神奈川県)〜〜
3月28日、JRの路線乗り入れ用の新型車両12000系の公開と、新駅「羽沢横浜国大駅(はざわよこはまこくだいえき)」構内での、レール締結式が行われた。同時に「相鉄・JR直通線」の開業が2019年11月30日と発表された。
この新線開業により、相模鉄道にとって長年の悲願だった自社の車両が初めて都心へ乗り入れを果たすことになる。11月からは東京都内でも12000系ハマの「ネイビーブルー電車」に乗ることができそうだ!
【相模鉄道の歴史】幾多の苦難を乗り越えて走り続けてきた相鉄
新型車両とレール締結式の話をする前に、簡単に相模鉄道の歴史に触れておこう。
会社創立 | 1917(大正6)年12月18日に相模鉄道株式会社が創立(相鉄本線を開業させた神中鉄道も同じ年に創立) |
最初の路線開業 | 1921(大正10)年、相模鉄道線(現・JR相模線)茅ヶ崎駅〜川寒川駅間が開業。相鉄本線は1926(大正15)年、二俣川駅〜厚木駅(現・貨物駅)間が開業 |
相模鉄道が開業に関わった路線は現在のJR相模線だ。一方、相鉄本線となっている路線は、神中鉄道(じんちゅうてつどう)という会社が敷いた路線だった。ちょっとややこしいが、そこには太平洋戦争に突入した当時の諸事情が絡む。
1943(昭和18)年に相模鉄道が神中鉄道を吸収合併した。そのすぐ翌年、相模線が国有化されてしまった。お国のためという美名のために、ほぼ強制的にだった。そして相模線は戦後になっても返されることはなかった。
こうした歴史は本サイトの「おもしろローカル線の旅」で紹介している。
相模川に沿ってのんびり走るJR相模線−−秘められた10の謎に迫る
相模線を失った相模鉄道は戦中・戦後と経営環境が厳しく、一時は東京急行電鉄(東急)に助けを願う時期もあった。
その後、東急の傘下を離れ、徐々に経営の立て直しを図っていった。長年、相鉄本線のみの営業を余儀なくされていたが、1976(昭和42)年4月に二俣川駅〜いずみ野駅間のいずみ野線(現在は二俣川駅〜湘南台駅間)を開業させた。1990(平成2)年4月には大手民鉄と認められている。
大手民鉄と認められたとはいうものの、営業距離数は大手民鉄16社中、一番短い35.9km。さらに首都圏を走る大手民鉄の中では唯一、他社路線との相互乗り入れを行ってこなかった。
会社創立102年をへて、「相鉄・JR直通線」の開業で、晴れて他社路線への乗り入れを果たす。加えて自社電車が都心を走ることになる。相模鉄道にとって悲願の都心乗り入れが実現することになる。
新線の開業により、沿線の二俣川駅から新宿駅までの到達時間は約44分(現状約1時間)に。さらに2022年度に開業予定の「相鉄・東急直通線」を利用すれば、二俣川駅から目黒駅まで38分(現状約54分)と時間が大幅に短縮される予定だ。時間の短縮とともに乗換えが必要なくなる。
相鉄沿線に住む人たちの期待が膨らむのも無理はない。
【新型12000系①】金沢八景生まれの新車はこうして運ばれた
3月28日に公開された車両は昨年暮れ、すでにかしわ台車両センターに運ばれた。寄り道をして申し訳ないが、鉄道好きとしては、この輸送ルートが、なかなか興味深い行程をたどったので触れておきたい。
新型12000系は京浜急行の金沢八景駅近くにある総合車両製作所横浜事業所で生まれた。いわば横浜「金沢八景生まれ」だ。さて金沢八景駅からどのようなルートで運ばれたのだろう。
輸送行程をたどってみよう。
まずは工場を出て京急の金沢八景駅へ。京急逗子線をJR貨物のDE10形式ディーゼル機関車に牽かれて走る。京急の路線は線路幅が異なるので、新逗子駅近くまでは三線軌条と呼ばれる3本レール区間を通って運ばれる。
新逗子駅近くで、連絡線を通りJR横須賀線の大船駅へ向かう。この駅から茅ヶ崎駅方面へ走れれば距離も短くてラクなのだが、機関車の付け替えが同駅ではできない。そこでそのまま大船駅を通過。JR根岸線へ入り、桜木町駅へ。
桜木町駅からJR高島線(貨物線)へ入る。さらに北上。武蔵野貨物線にある新鶴見信号場を目指す。新鶴見信号場で機関車を前から後ろへ機回し。進行方向を変えて、東海道貨物線にある相模貨物駅を目指す。途中、「相鉄・JR直通線」の新駅、羽沢横浜国大駅を横目に見ての輸送だった。
相模貨物駅で再度、機関車を前から後ろへ付け替え、進行方向を変更して茅ヶ崎駅を目指す。茅ヶ崎駅からJR相模線へ入り、厚木駅へ。厚木駅構内に相模鉄道厚木線(貨物線)への連絡線がある。ここからようやく相模鉄道路線内に入り、かしわ台車両センターへ運ばれた。
「相鉄・JR直通線」が開業するまで、11月までこうした新造車両の輸送が頻繁に行われそうだ。興味のある方は沿線で見学してみてはいかがだろう
【新型12000系②】ここがおしゃれ!ハマのネイビーブルー電車
かしわ台車両センターで公開された新型12000系。車体カラーは2016年から徐々に導入されている「YOKOHAMA NAVYBLUE」。輝き感のある紺色塗装が魅力だ。
さらに電車の顔とも言える前面は日本の伝統芸能である能の面・獅子口をもとにデザインされた。獅子口といえば、怖い印象があるが、本来は「智恵の象徴であり守り神、めでたいもの」という意味があるとされる。「新たな輸送体系の実現へ、わたしたちを護る存在」と相模鉄道ではPRする。
筆者は新型12000系がなかなかイケメンだと感じた。
ちょうど報道公開では昨年春から走り始めた20000系が並べて公開されていた。20000系は2018年度グッドデザイン賞を受賞している。こちらもおしゃれな車両である。
新型12000系とどのあたりが違うのだろう。ここからは写真を中心に、まず顔からその違いに迫ってみた。
12000系と20000系とでは車内の造りも異なる。東急の路線への乗り入れように造られた20000系は、走ることができる車両の大きさ(車両限界)がJRの路線に比べてやや小さめだ。
そのためそれを基準に造られている。車内の写真で見比べてみよう。
前面のデザインで変更されたのが前照灯のデザインなどのほか、前面のガラス窓の角度。12000系は20000系に比べて、ガラス窓をより寝かせている。視認性を向上させるための変更だとされる。
次に車内の細部をもう少し見ていこう。
【新型12000系③】各車に設けられたフリースペースとUD席
乗る人への配慮も怠りない。各車に車椅子、ベビーカーを利用する人が乗車しやすいようにフリースペースが設けられた。フリースペースは中間車のすべて横浜駅側、トビラの横と決められた位置にある。対面する座席はUD席、ユニバーサルデザイン対応の席とした。
どっしり座るというよりも、立ちぎみで気軽に座れ、また立ちやすいように座面をやや高くしている。ただし20000系よりも、座面の位置はやや低くした。こうしたユニバーサルデザインの座席は優先席だけでなく、一般席用も設けられた。
相鉄の新型12000系は総合車両製作所の車両ブランド「sustina(サスティナ)」が元になっている。sustinaでは車体構造や、機器システムをできるかぎり共通化させる設計スタイルを採用している。
さらに今回は、JR東日本の路線に乗り入れを考え、JR東日本の車両などと運転システム、前頭部の寸法、トビラ位置など共通化している。
とはいえ車両カラーは「YOKOHAMA NAVYBLUE」。顔も個性的な顔立ちとされた。それこそおしゃれなハマの「ネイビーブルー電車」が都心を走るようになる。早く乗りたいものだ。
【新型12000系④】新線へ乗り入れる車両の予定と増備計画
新線開業後、JRへ乗り入れる車両は12000系のみとなる予定だ。そのため11月30日までに12000系5編成(計50両)が造られる。最終的には12000系は6編成が用意される(1編成が予備編成となる)。
E233系をもとに造られた11000系は、今のところJR路線への乗り入れはないそうだ。
ちなみに相鉄の車両は、現在41編成400両が在籍している。このうち、すでに7編成が「YOKOHAMA NAVYBLUE」カラーで塗られる。この色への塗装変更は既存の車両も徐々に進められる予定で、2022年度には8割。将来は全車が同カラーで塗られることになる。
【どうなる新線?①】見たぞ!相鉄・JR直通線レール締結式
12000系の新車公開後、新駅となる羽沢横浜国大駅で、「相鉄・JR直通線」のレール締結式が行われた。
ちょうど1年前、2018年1月17日に建設途中の羽沢横浜国大駅を見させていただく機会があったが、その時に比べて完成間近といった姿となっていた。
1年前の本サイトでの紹介記事は下記を参照。
神奈川東部方面線/おおさか東線/七隈線—開業が近づく「鉄道新路線」3選+α
2019年11月30日に開業することとなった「相鉄・JR直通線」と、2022年度下期に開業予定の「相鉄・東急直通線」は、ともに国土交通省が推し進める「都市鉄道等利便増進法」に基づく新線建設計画だ。同法律は大都市の交通ネットワークの「速達性向上」を目指している。
この法律に基づき2006年に新路線「相鉄・JR直通線」の申請が行われた。2010年3月25日に起工式が行われ、申請から13年を経て「相鉄・JR直通線」の路線が結ばれる。事業主体は独立行政法人鉄道建設・運輸施設整備支援機構で、同機構が線路や施設の建設・運営を行う。相模鉄道が線路使用料を払う形だ。
さてレール締結式。どのような式なのだろう。レール締結式というのだから、新たにレールが、式典の時に結びつけられるのかなと、筆者は勘違いしていた。
地下にある羽沢横浜国大駅の2番線ホームへ降りると、ホームドアの下のレールはすでに結ばれていた。レール締結式というのは、あくまで式典で、枕木にレールを固定するボルトを関係者が締める行為であることを知った。
それはいわば当然のことで、ロングレールをその場でつなげようと思ったら大変な作業になってしまう。式典のような短時間には行えない。
紅白の幕を前にして式台が設けられて建設関係者が並び式典が進む。
「開会の辞」、「主催者挨拶」と進み、「レール締結式」となる。さらにボルトがしっかり締められたか「点検確認」と進む。そして日本の式典らしく「清めの儀」としてお神酒でレールが清められる。そして「テープカット」、「くす玉割」とつつがなく進む。
その次は「渡り初め(わたりぞめ)」だ。さて、どのような儀式なのだろう?
作業用のレールカーが、結んだレールの上を無事に走り切る行程が「渡り初め」だった。なるほどと思う。橋などの完成時にクルマや人が「渡り初め」するように、線路はやはり車両が初めて走っての「渡り初め」だったのだ。
このあと「閉会の辞」があり無事に「レール締結式」が終了した。
それぞれの儀式が無事に終わると関係者から拍手が湧き上がる。工事も一段落が付き、ほっと一息いう思いが強いのだろう。残りあと少し、無事に終了することを願いたい。
【どうなる新線?②】路線工事が進む各所の今を見てまわる
11月30日に開業する「相鉄・JR直通線」。写真で相鉄本線の分岐点から新線をたどってみよう。まずは相鉄本線から分岐する西谷駅(にしやえき)から。
「相鉄・JR直通線」の相鉄本線側の起点となるのが西谷駅だ。同駅は従来の本線用の2本のレールに加えて、ホームをはさみ平行して新線用のレールが敷かれている。二俣川駅側には折り返し用の留置線の工事も進められていた。
新線はこの西谷駅の横浜駅側から西谷トンネルへ入る。そしてトンネルはそのまま新駅の羽沢横浜国大駅へ続く。
羽沢横浜国大駅のホームを過ぎるとレールが分岐するポイントがある。まっすぐに進むのが2022年度に開業予定の「相鉄・東急直通線」だ。その左右に分かれるレールが、JR東海道貨物線を結ぶレールで合流ポイントまで敷設される。
まだ電車が走らない路線のため、外から見ることが可能な場所から、新線を追ってみた。工事の申請から13年という歳月をかけての開業。追ってみると、なかなか新規プロジェクトの大変さを窺われた。
【どうなる新線?③】今後の課題そして加算される料金の問題
今回の新車発表とレール締結式では新線の開業日の発表はあったものの、運転計画などの発表は行われなかった。
東海道貨物線は深夜から早朝、そして夜にかなりの多くの貨物列車は走っている。朝にはその合間を利用してJR東日本の湘南ライナーが走る。さらにその先では、湘南新宿ライン、横須賀線、埼京線の多くの列車が過密気味のダイヤで運行されている。
鉄道建設・運輸施設整備支援機構の事業概要では朝ラッシュ時間帯は1時間に4本、その他の時間帯は2〜3本となっている。
既存の路線にどの程度の本数を走らせる余裕があるのか、列車の運行をめぐり開業間近までJR東日本と相模鉄道の折衝が続けられそうだ。
相鉄の本線を利用する人にとっては、便利になることは確かだが、何本走るのか、どこまで乗継ぎなく行くことができるのかが気になるところだ。本数が少なく、あまり先まで行けないとなると、多少は便利になったけれど、やや不満ということになりそうだ。
さらに厳しいことにも触れておかなければいけない。新線を使うと加算運賃が適用される。新線建設等にかかった設備投資費用の一部は利用者の負担で賄われるわけだ。加算運賃は基本運賃+30円となる。
2022年度下期には「相鉄・東急直通線」も開業する。こちらは新横浜駅(仮称)と通り、東急東横線の日吉駅と結ばれる。前述した鉄道建設・運輸施設整備支援機構の事業概要では、この新線では朝のラッシュ時間帯に1時間に10〜14本、その他の時間帯に4〜6本が走るとされている。こちらの連絡路線は列車の本数も多くかなり便利になりそうだ。
いずれにしても両線ができ上がった時点で、新線建設の成果が発揮されることになりそうだ。そこまではちょっと我慢となるのかも知れない。
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