横浜ゴムが主催するメディア向けタイヤ勉強会が北海道・旭川市にある同社の北海道タイヤテストセンター(TTCH)で開催されました。今回のテーマは「スタッドレスタイヤの歴史」「タイヤの経年劣化」「オールシーズンタイヤという新たなトレンド」のほか、最新鋭のスタッドレスタイヤ『アイスガード6 iG60(以下:アイスガード6)』と、2019年10月より本格販売を開始した『ブルーアース4S AW21(以下:ブルーアース4S)』の比較テストという、いわば「スタッドレス vs オールシーズンタイヤ」が実施されました。
スタッドレスタイヤ誕生は1980年代半ば。約35年の歴史がある
最初の講義は「スタッドレスタイヤの歴史」。それによるとスタッドレスタイヤが登場したのは1980年代半ばだということです。その背景にはスパイクタイヤが生み出す粉塵による健康被害が社会問題化し、路面摩耗から来る財政負担増やスパイクタイヤのピンが道路を叩くときの騒音などの課題解決の目的もあったと言います。
そこで、スパイクタイヤの代わりに低温でも硬くならない素材の開発が求められました。その上で、タイヤ溝のエッジ部を増やすことでグリップ能力を高めるなど工夫を重ね、その結果、第1世代のスタッドレスタイヤが誕生。横浜ゴム初のスタッドレスは「ガーデックス」というネーミングでデビューしています。
ところが、このタイヤでは氷雪路が磨かれて生まれる鏡面化(ミラーバーン)でスリップが発生してしまうというマイナス面もありました。そこでこの対策が次なる目標となりました。これが90年代のことでライバルのブリヂストンはこの問題を吸水技術によってクリア。横浜ゴムの第2世代となったのは「ガーデックスK2」です。
実は氷の上でタイヤがなぜ滑るのかといえば、凍った路面にタイヤが乗ると、その部分だけ氷が溶けて路面とタイヤの間に水膜ができ、その上をタイヤが滑るからです。それに対してブリヂストンは、気泡を含んだゴムにこの水を吸い込ませることでグリップ力を確保しました。
横浜ゴムがこの吸水技術を確立できたのは2002年のこと。新たにシリカを採用するなどして低温時でも硬化せずに路面と密着度を高める技術でグリップ力を大幅に高めることに成功しました。ブランド名もガーデックスから「アイスガード」とし、この辺りから吸水のためのサイプ(細かな溝)を立体化してタイヤのブロックの剛性をアップさせ、ステアリングの応答性をより確かなものとします。これが第3世代。
2008年~2010年頃に登場した第4世代になると温暖化による氷雪路減少を背景に、氷雪路面でのグリップ力を確保しつつドライ路面でのウェット性能を意識した製品が登場。2012年~2015年には、氷上性能と転がり抵抗低減を目指すことで、氷上性能と省燃費性能の両立を図った第5世代が登場します。そして、2017年には現行の第6世代アイスガード6が登場し、あらゆる環境変化に対応した上で、氷上性能のさらなる向上を図るスタッドレスタイヤの実現へとつながったのです。
第6世代スタッドレスタイヤ「アイスガード6」の実力を試す
TTCHでは、「アイスガード6」を装着した「トヨタ・プリウス」を使い、屋外の圧雪路と屋内施設の超平滑な凍結面を走行して、それぞれの路面での加減速やスラローム走行を体験。最新スタッドレスタイヤということもあり、ステアリング操作に対する応答性が良好で安心して運転することができました。
中でも興味深かったのが「タイヤの経年劣化」のテストです。アイスガード6を4シーズン経過したのと同程度まで化学的に劣化させたタイヤと、1シーズン目の最新の状態のタイヤを氷上で比較するのです。
車両は「トヨタ・カローラ スポーツ」。氷上で20km/hの速度からフルブレーキした結果、新品は約6.0mで停止した一方、劣化バージョンは少し制動距離が伸びたかな?とも思える程度。このぐらいの差なら多少古くなったとしても実用上、大きくは変わりません。毎年新品に替えるわけにもいかない事情を踏まえれば、この結果は十分満足できるのではないかと思います。
次は満を持して横浜ゴムが2020年1月に本格発売を開始したオールシーズンタイヤ「ブルーアース4S」です。その名の通り、1年を通して使えるタイヤのことで、近年は「スノーフレークマーク」がサイドウォールに打刻されています。一昨年辺りから「冬用タイヤ規制」中でも走行可能となる製品が相次いで発売され、本製品もそのカテゴリーに含まれます。とはいえ、どのぐらいの実力があるのかは使ってみなければ分かりません。さらに言えば、スタッドレスタイヤに比べて実力はどのぐらいなのかも知りたいところでしょう。
「スタッドレスvsオールシーズンタイヤ」その実力差は?
TTCHでは「アイスガード6」との比較テストが行われました。テストは室内氷盤路でのブレーキテストと、圧雪路でのスラロームの2パターン。結論から言えば、この状況下ではスタッドレスであるアイスガード6に軍配は上がります。ただ、それは氷雪路であるシーンに特化して開発されたものだからこそ、もたらされた結果です。決してオールシーズンタイヤが使い物にならないというわけではないことを初めにお断りしておきます。
まずは氷盤路で20km/hからの全制動テスト。速度を20km/hの低速で試すと制動距離は5mほど「ブルーアース4S」の制動距離が長くなりました。このまま速度を上げていけばその差はさらに広がっていきます。ただ、非積雪地域ではこのような連続して路面が凍結するような状況はまず考えられません。
続く圧雪路でのスラローム走行ではパイロンの間を縫うように走行。最初はオールシーズンタイヤのブルーアース4Sから始めました。速度があまり上がらない状況下では意外にもスムーズに通過しましたが、40km/h程度まで速度が上がると外側にふくらみ出し、最後はテールが滑っていきます。この辺りが限界なのかと思いつつ、直線路で少し速度を上げて急制動を試すと十分な制動力を体感することができました。
次にアイスガード6で試乗。スタートした時点で路面をしっかりと掴んでいることを実感。パイロンをスラローム走行し、速度を上げていってもスムーズに抜けていきます。直線路での急制動でもその力強さはかなりの違いを見せました。この安心感はブルーアース4Sをはるかに上回るもので、だからこそ頻繁にスノードライブするならスタッドレスタイヤがオススメとなります。
この結果を踏まえますと、純粋に積雪路での性能を求めるならスタッドレスタイヤが圧倒的にいいですが、春を迎えれば夏タイヤと交換が必要になるし、その置き場所も確保しなければいけません。一方でオールシーズンタイヤは一年中履いていられるので、その交換も置き場所を確保する心配もありません。非積雪地なら翌日には幹線道路の雪は溶けてなくなるわけで、その程度の環境への対応ならオールシーズンタイヤでも十分な実力を備えていると改めて実感した次第です。
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