自動車保険を選ぶとき、何を基準にしていますか? 補償内容はもちろん、保険料も重要な要素の1つでしょう。とはいえ、通常の自動車保険は、保険料を下げるのに無事故を続けて等級を上げたり補償内容を変えたりする必要があります。
そこで登場したのがソニー損保の「GOOD DRIVE」。その名の通り、事故リスクの低い安全運転をしていると、保険料がキャッシュバックされるというものです。どのような仕組みで、どのような運転をすると事故リスクが低いと判断されるのか? 開発担当者にインタビューするとともに、実際にドライブして確かめてみました。
ドライバーの運転をスマホで診断して保険料をキャッシュバック
「これまで、保険会社の仕事は事故が起きた際の事後対応が主でしたが、その前の段階、事故を減らすために何かできないかという思いから生まれたのが『GOOD DRIVE』です」と語るのは、ソニー損保 ダイレクトマーケティング部の石井英介部長。そのために考案されたのが、事故リスクの低い運転をしている契約者にインセンティブを提供するということ。「事故が減ることは社会的にも求められていますし、保険会社としても保険金の支払いを減らせるのでメリットがある。インセンティブを提供することで、ユーザーさんも嬉しいという”三方良し”のサービスを目指しました」。
GOOD DRIVEに契約すると、ユーザーのもとに専用のデバイスが届きます。それをクルマのシガーソケットに装着し、スマホに専用アプリをインストール。あとは、運転時にそのスマホを車内に持ち込めば、自動で契約者の運転を計測し、事故リスクを判定してくれる仕組みです。
デバイスはシガーソケットに装着したままで使用し、全てのドライブを記録。契約後、270日が経過するなどの条件が揃うとキャッシュバック手続きが可能となり、計測データに基づく運転スコアに応じてキャッシュバックされる金額が決まります。運転スコアが100〜90点の場合はSランクでキャッシュバック額は30%、89〜80点はAランクで20%、79〜70点はBランクで10%、69〜60点のCランクは5%、それ以下はキャッシュバックはされません。キャッシュバック率は年齢や等級に関係なく、運転スコアのみで決まるため、等級が低く保険料が高くなりがちな人や、すでに20等級でこれ以上割引が増えない人も保険料の節約が可能です。
気になる運転計測の仕組みですが、これは基本的にスマホに内蔵された加速度センサーとジャイロセンサー、それにGPSを使い、クルマの加減速やカーブを曲がる際のGを計測。独自のAIアルゴリズムによって、事故リスクの高い急加速や急ブレーキ、急ハンドルなどを判別します。逆に、ふんわりアクセルによる加速や余裕を持ったブレーキング、急な横G変化のないハンドル操作はプラスに判定される仕組みです。ちなみに、運転中にスマホを操作することもマイナス評価になりますが、クルマが停止した状態での操作や、Bluetoothヘッドセットを用いた通話などは問題ないとのこと。
スマホの内蔵センサーで、どうやってクルマの挙動を判別しているのか気になるところですが、そこに活きているのがソニーとソニーネットワークコミュニケーションズのAI技術。GOOD DRIVEはソニー損保とソニー、ソニーネットワークコミュニケーションズの3社で共同開発されたもので、スマホのセンサーでクルマの挙動を解析し、どんな運転が事故リスクが低いのかを判定するAIアルゴリズム、ならびにデータを管理するクラウドシステムはソニーのR&Dセンターが開発し、スマホへのアルゴリズム実装の一部をデータをソニーネットワークコミュニケーションズが担当しているとのこと。
「ディープラーニング(深層学習)を活用したAIアルゴリズムを開発することで、スマホのセンサーに入ってくる信号をもとに、クルマの挙動を正確に推計することができるようになりました」と語るのは、ソニーR&Dセンター知的アプリケーション技術開発部の古川亮介さん。この技術により、運転中にスマホが固定されていなくてもクルマの挙動を把握できるだけでなく、スマホが床に落ちたり、人が操作したりした際の動きも切り分けることができるようになりました。
また、どのような運転が事故リスクが高く、どのような運転をすれば事故のリスクを下げることができるのかは、ソニー損保の契約者数千人の運転挙動や事故のデータをもとに、ビッグデータ分析技術によって定量化されています。こうしたアルゴリズムやデータの裏付けがあるからこそ、事故リスクの低い運転が判定可能となり、リスクの低い契約者には最大30%という思い切ったキャッシュバックをすることが可能となったのです。
実際にデバイスとアプリで「GOOD DRIVE」を体験
では、実際にどのような感じで計測が行われ、アプリの使い勝手はどうなのか、筆者のクルマにデバイスを装着し、アプリもダウンロードして走行してみました。GOOD DRIVEの契約では270日の間に累計の計測時間が20時間以上であることが条件づけられていますが、だいたい10時間ほど運転を計測すればそのドライバーの事故リスクが判定できるとのことだったので、しばらくデバイスを装着したままでクルマを使用することに。デバイスをシガーソケットに挿しっぱなしにしておき、アプリをインストールしたスマホを持ってさえいれば、計測は自動で行われるので、出発前にアプリを起動したりボタンを押したりといった操作は一切必要ありません。
手始めに仕事での移動で1日計測してみたところ、結果はギリギリSランクの91点。ホッとしつつアプリの画面を見ると、「ハンドル操作を意識してみましょう」というメッセージが表示されていました。計測結果をもとに、スコアを上げるために意識すべき操作をメッセージとして表示してくれるのです。走行後は、アプリの画面で運転を振り返ることが可能で、良かった操作や急な操作をしてしまった場所が地図上にも表示される機能も。運転中は画面には何も表示されませんが、運転後は自分のドライビングを確認し、良かったところや悪かったところの反省ができます。
そうやって自分の運転を振り返り、注意すべき点をアドバイスされると、運転するのが楽しみになってきます。アクセルを大きく踏み込んで急加速するのは抑えようと意識するようになりますし、ゆっくり減速できるように交通の先を読んで備えるようにもなってきました。普段から、安全運転は心がけてきたつもりですが、こうして具体的にスコアやアドバイスが表示されると、もっとスコアを上げてみたいとそれぞれの操作を意識するように。その成果が出て、徐々にスコアが上がっていくと、さらにやる気になって安全運転に取り組むようになりました。
実は、これがGOOD DRIVEのもう1つの効果。キャッシュバックというインセンティブがあることと、運転スコア、アドバイスをスマホ上に提示することで、ドライバーが安全運転を心がけ自然に事故リスクが減っていくのです。実際、販売に先立って行われた実証実験でも、この仕組みによって15.3%の事故リスク低減効果が確認されたとのこと。確かに実際に使ってみると、安全運転への意識がかなり高まることが実感できました。
「最近は自動運転が話題になっていますが、近々実現可能な“自動運転レベル3”で事故抑止の効果が高いのは高速道路です。一方で事故が最も起こりやすい都会の交差点で、自動運転が実用化されるのはまだ先ですから、事故を減らすにはドライバーの安全運転意識を高めてもらうしかない。その一助になれればと考えています」と石井部長は語ります。
古川さんは「近い将来、個人間のカーシェアリングが一般化すると言われていますが、貸す相手がどのような運転をする人か分からないと大切なクルマは貸しにくいですよね。ですが、その人が事故リスクの少ない運転をすることが可視化されていれば、そのハードルは低くなるでしょう。そのようなシーンでも、ドライバーの事故リスクを可視化する技術は役立てると思います」と話してくれました。GOOD DRIVEは自動車保険から交通社会を変革する1つの力になるかもしれません。
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