乗り物
2021/6/2 18:00

ジワジワ増殖中の「駐車場シェア」。そのメリット・デメリット

最近よく耳にする駐車場シェアサービスとは、コインパーキングなどの一般的な「時間貸し駐車場」に対し、月極駐車場や、民家隣接のガレージを、一般車が一時的に利用できるサービスです。まだ、一般的な浸透度はこれからですが、これは画期的なビジネスモデル。今後、本格的に浸透すればドライバーの選択肢が広がるだけでなく、特に都心部で上がる一方だったコインパーキングの高騰を止めるカンフル剤になる可能性も秘めています。

 

しかしながら、その利用術や実体、業界規模などはあまり知られていません。そこで今回は、『特P』という駐車場シェアサービスを行うアースカーの営業本部長・渡辺修平さんに、「駐車場シェアの実体と使い方」「メリット・デメリット」について、詳しく話を聞いていきます。

 

駐車場シェア事業への参入メーカーは大きく分けて3つある

――現在、駐車場シェア事業に参入しているメーカーはどれくらいの数があるのでしょうか。

渡辺修平さん(以下、渡辺):大手・中小を含めると、10~15社があります。大手で言うと、コインパーキング事業を行っているタイムズ、三井のリパークが有名ですね。あとは、ソフトバンク、ドコモといった通信事業者も参入しています。

 

その他に、我々のようにカーシェア事業者が、モビリティとの連動性を図って参入しているケースや、それまでは駐車場やモビリティ事業を行っていなかった事業者などがいるので、現在、駐車場シェアサービスを行うメーカーを大別させると「コインパーキング系」「通信事業者系」「独立系」になると思います。

 

実は少なかったアプリを使っての駐車場シェアサービス。でも、なんで?

――それぞれ使い方が違うわけですよね。アプリを使うのか、WEBブラウザを使うのかなど。

渡辺:はい。駐車場シェアのアプリ系で有名なのは「akippa」。先進的で将来性のあるサービスだと思いますが、実は駐車場シェアアプリの大半はWEBブラウザを使うものの方が多いんですよ。

 

――どうしてでしょうか。

渡辺:アプリは、リピートして使う際に一番の利便性を発揮します。例えば、以前行ったエリアで「もう一度駐車場シェアを利用したい」といった場合には、断然アプリの方が良いです。

 

ただ、現状のユーザーの使い方は、いきなりアプリを使うより、まず目指す場所に対し「どんな立地で、どれだけの駐車場があるか」を念頭にグーグル・マップなどで検索することが多いんですね。そこで仮に「駐車場の数が少ない」「駐車料金が高い」となった際には、初めて駐車場シェアサービスを視野に入れていただけることが多い。現状のユーザー数は、業界で200~300万人とも言われていますが、この市場規模では、むしろブラウサのサービスの方が使い勝手が良いのではないかと考えています。

 

ブラウザを使って複数のメーカーのサイトにアクセスし、比較して利用する駐車場を決め、予約、決済する……。現状ではこういった使い方をする人が多いと思います。

↑『特P』のスキームイメージ図。「駐車場を貸したい」オーナーが、『特P』のブラウザサービスを介して、「駐車場を借りたい」ユーザーを結びます

 

駐車場シェアの料金は「1日単位」など広め

――駐車場シェアの今後の浸透は、従来のコインパーキングよりも「便利だ」「安い」といったものにかかってくるように思います。

渡辺:おっしゃる通りです。ただ、コインパーキングが「10~15分刻み」で料金設定をしているのに対し、駐車場シェアの大半は「1日単位」「半日単位」の利用が主流です。繁華街・ビジネス街などで「2~3時間刻み」の駐車場シェアもありますが、これは利用する方の回転が早いエリアに限ってのもの。原則的には「1日単位」「出し入れ自由」というものが多いです。

 

――なぜ、細かく利用時間を刻めないのでしょうか。

渡辺:大きな理由の一つは、駐車場シェアはコインパーキングと違い、課金する機械を設置していないことが挙げられ、細かく刻んだ利用時間を見張る強制力が乏しいからです。分かりやすく言うと「10分の利用」だけの決済だったのに、「間違えて20分停めちゃった」となった場合、当然追加で課金していただく対象になりますが、機械がないため強制力が薄いんです。

 

その点、「1日単位」「2~3時間刻み」であれば刻みが広く、ユーザーの方も間違えにくいメリットがある一方、仮にオーバーされた場合、こちらも追いかけやすいんですね。こういった理由から、多くの駐車場シェアサービスでは、利用時間を細かく刻んでいないことが多く、コインパーキングとは一概に比較できない側面もあります。

 

――ちなみに『特P』では、東京都内でも駐車場料金が高い渋谷での利用料金はどれほどになりますか?

渡辺:あくまでも2021年5月時点での一例ですけど、「深夜0時~朝の6時まで=300円」ですね。あるいはコアタイムで言うと、「朝9時~昼12時まで(3時間)=1000円」といった料金体系のものがあります。

 

――これらの駐車場は、本来は時間貸しなどを行っていなかった空きスペースだからこそ、安値が実現できるということですか。

渡辺:事業者によっても違いますが、『特P』の場合はそうです。

 

『特P』は繁華街・ビジネス街と、住宅街両方を展開していますが、事業者の中には、東京ドームや味の素スタジアムなどの、コロナ禍でなければイベントが頻繁に行われるエリアに特化させた駐車場シェアを行っているところもあります。

↑『特P』が契約する渋谷の駐車場の一例。駐車場シェアを行う事業者ごと、エリアの得意・不得意があるようなので、ユーザーはこの点も意識し見極めて利用する方が良さそうです

オーナーにとって「見知らぬユーザーが、自分の家の駐車場を利用する」違和感は?

――ここで一つ疑問ですが、例えば住宅街だと、オーナーさんの家の敷地内にあることが多そうです。そういった場合、オーナーさんと全く由縁のない人の車で出入りするとなると、オーナーさん側が嫌がることはありませんか?

渡辺:よく聞かれる質問です。まず、我々がオーナーさんと契約し、サービスを提供しているのですが、実際のところ、オーナーさんの方から「このスペースなんとかならないか」とお困りの上で、お問い合わせいただくケースの方が多いんですよ。

 

――そうなんですか。

渡辺:はい。例えば1台しか空きスペースがないのに、不動産店を介して月極として貸し出すのは忍びないし、面倒くさい。結果的にそのまま放置されていて、少しでも有意義に運用したいと考えるオーナーさんからの声が非常に多いんです。

 

なので、もともとご納得いただいた上で契約に至っていますので、ご質問のような「知らない人がオーナーさんの駐車場を利用する」ことに対するご不満は意外と少ないんです。

 

また、『特P』との契約は、オーナーさん側の負担はなく基本的に無料です。利用があった件数分、我々が手数料をいただき、残りをオーナーさんにお支払いするというビジネスモデルですので。オーナーさんにとってみれば、仮に「使われなかった」としても損することはなく、唯一あるとすれば、「契約時の手間」「写真を撮る手間」などです。ですので、皆さん快く契約いただくことが多いです。

↑『特P』が契約している、世田谷区下馬の駐車場シェアスペース。民家の一角だとしても、オーナー側の不満の声やトラブルは少ないとのこと

 

駐車場シェアで起こり得るトラブルと、その対策

――素朴な疑問ですが、各駐車場で事故やトラブルがあった場合はどうなるんでしょうか。例えば、「駐車場の壁に車をぶつけてしまった」「駐車場から出てくれない車がある」など。

渡辺:現状、事故率は極めて少ないですが、仮に「壁にぶつけた」などの事故が起きた場合は、ドライバーの方の任意保険で対応していただけるよう約款上に定めています。

 

ただ、「駐車場から出てくれない車がある」あるいは「予約も何もしていないのに勝手に停めている車がある」といった事例が数少ないものの万一起きてしまった場合は、弊社の方でナンバーを照会して所有者を割り出して相応の対応を講じるようにしています。

 

そうならないために、予約がない際にはコーンを置いて「予約専用のスペースですよ」と表現したり、モラルアップを促すようなことは当然やっています。

 

駐車場シェアは「二酸化炭素削減」にも寄与……どういうこと?

――駐車場シェアは、「空きスペースを有効活用する」というメリットが一番だと思いますが、他にはどんな利点がありますか?

渡辺:これまでのお話の通り、「コインパーキングよりも安く利用できる可能性がある」「駐車場の選択肢が増える」「事前予約・決済のキャッシュレスで利用なので、小銭が必要なくスマートに使える」などもありますが、もう一つ、二酸化炭素を減らすメリットもあります。

 

――駐車場シェアで二酸化炭素削減ですか?

渡辺:はい。通常、駐車場探しをしているとき、「空きがあるか」「もっと安い料金の駐車場がないか」と、グルグル迂回することがありますよね。そういった「駐車場探しの自動車を減らしなさい」ということを、「東京2020オリンピック」の交通渋滞抑制を目的に東京都や国土交通省も言っているのですが、この点も、駐車場シェアサービスによる事前予約で駐車場を選ぶことで抑えられると思っています。

 

――今後駐車場シェアはどれほどの間に浸透していくと思われますか?

渡辺: 業界予測としては2030年までに1100億円規模の市場になると言われています。その大きな理由として、電気自動車の存在があります。各自動車メーカーはもちろん、様々な業種・メーカーが電気自動車の開発を進めていて、やはり2030年にはほとんどの車が電気自動車になると言われています。

 

電気自動車が普及した場合、ガソリン自動車に比べて部品点数も少なく、はるかに安い価格で販売されることが予測されます。ガソリン車よりも、電気自動車が爆発的に売れる時代が来た際に何が起こるかと言うと、圧倒的に駐車場が足りなくなるわけです。

 

弊社では、駐車場シェアの他に、カーシェア事業も行っていますが、こういったモビリティ全体が抱える課題に対して、サービスを提供し続けるのが使命だと思っています。これからも時代を先読みし、多くのニーズに対応することができるようサービスを向上させていきたいと考えています。

 

駐車場シェアの利点は、ユーザー・オーナーにとってだけでなく、二酸化炭素削減など社会全体にもあることがよく分かりました。渡辺さんのお話にあった2030年まで、あと9年。それほど遠くない将来に訪れるモビリティ全体の大変革、今後も注目です。