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2021/6/19 6:00

燃料電池車の未来は?トヨタ「MIRAI」を徹底検証

ベテラン自動車ライターの永福ランプとフリーエディターの安ドが、深いような浅いようなクルマ談義をする「クルマの神は細部に宿る。」。今回は、「FCV」こと燃料電池車であるトヨタのMIRAIを取り上げる。永福ランプが提唱する、燃料電池車の未来とは?

※こちらは「GetNavi」 2021年7月号に掲載された記事を再編集したものです。

 

【レビュアーPROFILE】

永福ランプ(清水草一)

日本中の貧乏フェラーリオーナーから絶大な人気を誇る大乗フェラーリ教の開祖。様々な自動車専門誌や一般誌、ウェブなどで、クルマを一刀両断しまくっている。2018年以降、ペンネームを「MJブロンディ」から「永福ランプ」へ変更している。

 

安ド

元GetNavi編集部員で、現在ではフリーエディター。永福ランプを慕い「殿」と呼んでいる。

 

【今月のGODカー】トヨタ/MIRAI

SPEC【Z“エクスクルーシブパッケージ”】●全長×全幅×全高:4975×1885×1470mm●車両重量:1950kg●パワーユニット:永久磁石式同期型モーター●最高出力:182PS(134kW)/6940rpm●最大トルク:300Nm(30.6kg-m)/0-3267rpm●WLTCモード燃費:135km/kg

710万円〜860万円

 

乗用車向きではないが、EVにはない個性を感じるFCV

安ド「殿! 新型MIRAIはいかがでしたか?」

 

永福「安ドはどう思った?」

 

安ド「僕ですか?  そうですねぇ、MIRAIは燃料電池車ですけど、それってEVの一種じゃないですか。最近EVに慣れてきているので、走りに関しては、ものすごく静かだという点以外、特に感想を抱きませんでした。殿も仰ってましたけど、電気モーターにはエンジンみたいに個性がないので、そのせいでしょうか」

 

永福「バッカモーン!」

 

安ド「えっ?」

 

永福「MIRAIは、EVとはまったくフィーリングが違う!」

 

安ド「ち、違いますか?」

 

永福「違う! 私にはV8エンジンを積んだメルセデス・ベンツのように感じたぞ!」

 

安ド「ど、どのあたりがですか?」

 

永福「燃料電池車は、確かにEV同様、電気でモーターを回して走る。がしかし、普通のEVと違うのは、車内で電気を生み出しておる点だ!」

 

安ド「はぁ……」

 

永福「水素タンク内の水素と、大気中の酸素とを反応させて電気を発生させ、それで走るのが燃料電池車。バッテリーも積んでいるが、サポート役に過ぎぬ。よってMIRAIは、他のEVのように、アクセルを踏むと同時にドーンとトルクが出るのではない。我々人間と同じく、息を吸ってからパワーを出すのだ!」

 

安ド「す、吸ってますかね?」

 

永福「吸っておる! だからそこには、微妙なタイムラグが発生する! まるで内燃エンジンのように! 加えてアクセルを深く踏み込むと、心地良い吸気音が聞こえ、ターボエンジンのようなパワーの盛り上がりも感じる!」

 

安ド「殿。その吸気音というのは、アクティブサウンドコントロールによる人工音では?」

 

永福「ガーン! そうだったのか……。しかし私はMIRAIに、人間的なぬくもりを感じた!」

 

安ド「そうなんですね!」

 

永福「普通に街なかを走っているとひたすら静かなクルマだが、アクセル全開ではV8のメルセデス・ベンツに豹変するのだ!」

 

安ド「殿、レクサスじゃなくメルセデスなんですか?」

 

永福「そうだ!」

 

安ド「どのあたりが?」

 

永福「なんとなくだ!」

 

安ド「ではMIRAIは成功しますかね?」

 

永福「いや、MIRAIに未来はないだろう」

 

安ド「ガクッ! ど、どうして?」

 

永福「燃料電池は、乗用車向きのパワーユニットではないからだ。乗用車にはEVのほうが断然有利。しかしFCVは大型トラックやバスには向いている。大型車専用なら、設置費用がかかる水素ステーションも大規模なモノを拠点配置すれば良いわけで、コストを大幅に削減できる!」

 

安ド「なるほど。MIRAIの未来はトラックやバスなんですね!」

 

【GOD PARTS 1】FCスタック

爆発ではなく化学反応でクルマが走る時代

FCVの仕組みを簡単に言うなら、高圧水素タンクに貯蔵した水素を燃料電池へ送り、化学反応で電気と水を発生させ、その電気を使用してモーターを駆動させて走行します。よく勘違いされるようですが、水素を爆発させてはいません。

 

【GOD PARTS 2】ホイール

グルグルと回る異次元的なイメージ

全体的には比較的オーソドックスな印象のボディデザインですが、ホイールはかなり未来的な雰囲気です。数多くの曲線スポークが放射線状に配置されており、ウルトラマンのオープニングを思い出させます。

 

【GOD PARTS 3】パノラミックビューモニター

普段は見ることができない斜め上からの角度も表示

ボディの前後左右に搭載されたカメラで撮った映像を処理することで、真上だけでなく、斜め上空から見たビジュアルを表示することも可能です。車体周辺を注視できて助かるのはもちろん、日ごろ、自分では見ることのできない角度なので、カーマニア的にはちょっとうれしくなります。

 

【GOD PARTS 4】リア席用充電ソケット

分け隔てすることなくすべての乗員に充電を

センターコンソールの後部には、アクセサリーコンセントと充電用のUSB端子が2基搭載されているので、後席の乗員もドライブ中に気兼ねなく充電できます。コンセントはAC100V・1500W対応となっており、家電製品などが使用可能。災害など非常時には電源として利用することもできます。

 

【GOD PARTS 5】水排出機構

したくなったらいつでも車外に排出

FCVは排気ガスが出ないので、マフラーが付いていません。ただし、水素を化学反応させた際に発生する水を車体中央の下部から排出することになります。通常時は貯められていますが、リリーススイッチを押せば、好きなタイミングで排水することが可能です。

 

【GOD PARTS 6】水素充填口

燃料を補給する口は見たことのない形

ガソリン車のような大きな穴もなく、EVのようなソケットもなく、水素充填口はこのような形をしており、ここから70Mpa(大気圧の約700倍)で水素を充填します。1回最大3〜4分程度の充填で、約500km走行できます。

 

【GOD PARTS 7】アクティブサウンドコントロール

意図的な走行音がマニア心を刺激

モーターで走行するため、パワーユニットの走行音はほぼありません。が、若いころからエンジンで育ったカーマニアらを納得させるため、アクセル操作に応じて作られた排気音(のようなもの)が聞こえてくる装置を搭載しています。

 

【GOD PARTS 8】ヘッドライト&グリル

まるで水生生物のような鋭い眼光と垂れた口

水生生物を思わせる「ヌルッ」とした顔です。ヘッドライトはかなり切れ長で、その下には常時点灯されるLEDのデイタイムランニングランプが搭載されています。グリルは山型でバンパー下部まで伸び、ワイド感が演出されています。

 

【GOD PARTS 9】水素ステーション表示

充電施設ほど多くなくても絶対欲しい充填施設情報

10年ほど前にEVが市販され始めたころ、ディスプレイに表示される充電施設の存在がドライバーとしては本当に心強かったものです。現在、FCVにおいても、しっかり水素ステーションが表示されます。ただしその数はまだ少ないです。

 

【これぞ感動の細部だ!】リアシート

長距離走行を実現するためには割り切りも必要

先代モデルは4人乗りでしたが、新型はなんと5人乗りになりました。これはリアシートの定員数が2人から3人になったためですが、実際に後席中央シートに座ってみると、写真のようにオジサンでは頭が天井に付いてしまうため、子ども用という割り切りが必要です。ボディサイズのわりに室内が狭く感じるのは、水素タンク容量が141Lもあって、それにスペースを割いているからです。