スバル初の電気自動車(BEV)スバル「ソルテラ」がいよいよ市場に登場しました。トヨタの「bZ4X」と同じe-TNGA思想をベースにしながらも、生粋のスバルファンを念頭に置いて開発されただけあって、試乗してみるとソルテラからは意外なほどbZ4Xとの違いを実感できました。走りにこだわりを見せたソルテラの試乗レポートをお届けします。
【今回紹介するクルマ】
スバル/ソルテラ
※試乗車:ET-SS(AWD)
価格:594万円〜682万円(税込)
魅惑的なスタイリッシュなデザイン
ソルテラを前にすると、エクステリアからして姉妹車であるbZ4Xとの違いを明確に示していることがわかります。ソルテラのボディサイズは全長4690mm×全幅1860mm×全高1650mmで、SUVとしては低めのクーペ風の流麗なルーフラインをもっています。Aピラーやリヤウインドウはまるでスポーツカーのような傾斜があり、そのスタイリッシュなデザインにはつい惹かれてしまうほどです。
ソルテラならではのデザインも随所に見ることができます。フロントマスクをスバルの基本モチーフに倣った六角形とし、ヘッドランプもデイライト部分をC字型形状として違いを強調。リアコンビランプもC字型意匠とすることでスバルならではのデザインの統一性を図っています。細かなところでは、充電ポートがあるフタを、bZ4Xが「ELECTRIC」としたのに対し、ソルテラは「EV」として違いを見せています。
インテリアはデザインも含め、基本的にbZ4Xと共通の部分が多くなっています。ダッシュボードは独特の風合いを伝えるファブリック製であることや、航空機のコックピットを彷彿させる12.3インチの液晶パネルによるメーターもほぼ同じデザインです。それでも、オーディオのブランドをbZ4Xが「JBL」としたのに対し、ソルテラは他のスバル車と同様に「ハーマンカードン」を採用しています。シートヒーターの作動範囲に若干変更を加えるなど、このあたりからもスバルらしいアイデンティティを感じさせます。
また、ソルテラにはbZ4Xにはないパドルシフトも備えられました。さらにソルテラは最低地上高が210mmと高めとしています。これは、BEVであってもスバルらしい悪路走破性を確保することが重視されたからなのです。これは後述する雪上での試乗で実感することができました。
そして、ソルテラとbZ4Xの最も大きな違い、それは販売方法です。実はbZ4Xはトヨタが運営するサブスクリプションサービス「KINTO」でのみしか買えませんが、ソルテラは他のスバル車と同様、普通にクルマとして購入できます。残価設定ローンを組むことはもちろん、現金でスパッと支払うことも可能です。これは想定する販売台数の違いもあるでしょうが、BEVの販売で慎重を期するトヨタの姿勢がここに現れたのではないでしょうか。
雪道、公道で試乗した感想
ソルテラのプロトタイプに最初に試乗したのは、正式な発表を前にした2月のことでした。場所は一面の積雪で覆われた群馬サイクルスポーツセンターで、この時は除雪もままならない雪深い中での試乗会となったのです。本来なら寒さに弱いBEV向けとしてこの場所は適切ではないはずです。それにも関わらずこの悪環境が選ばれたのは、BEVであってもしっかり対応できるソルテラの走りを体験して欲しかったという思惑があったのに他なりません。
ソルテラはEV専用プラットフォームが採用されています。フロア下には71.4kWhの大容量リチウムイオンバッテリーが搭載され、そこから生み出される航続距離はFFで530km前後、AWDで460km前後となっています。そして、雪の中で試乗したのはソルテラのAWDでした。前後に80kW/168.5Nmの出力するモーターを配置し、計160kW/337Nmを発揮します。参考までにFF車は150kW/266Nmのモーターが前輪側に配置されます。
スペックからすると、さぞかし強力な加速フィールが体感できるかと想像しましたが、意外にも穏やかです。FF車があることから前輪駆動をメインにしているのかと思いきやそうではなく、後輪駆動をメインとした走りとなっていました。アクセルを踏むと後ろから押し出される感覚が伝わってきます。しかし、穏やかな加速ゆえに雪上でも不安感はまるでなし。むしろ、滑りやすい状況下でもコントロールしやすく安定感があり、「これぞスバルのEVなのか!」と思わせるに充分でした。
さらにソルテラにはbZ4Xにはないパドルシフトがあります。これはブレーキ回生の強さを変えるためのものとして搭載されましたが、特にデリケートな雪上路では、下り坂でもフットブレーキを使わずに回生を使って減速できるメリットがあります。bZ4Xにも「Sペダルドライブ」が装備されていますが、きめ細かなコントロールとなればソルテラのパドルシフトに軍配が上がると言っていいでしょう。
次にソルテラに試乗したのはそれから4か月が経った6月。今度は一般道と高速道を含めた公道で試乗しました。
シートに改めて座ってみると、その着座位置が若干高めであることに気付きます。これはフロアにバッテリーを搭載したことによるものですが、SUVとして考えればこのアイポイントの高さが前方視界の広さをもたらし、これが走行中の安心感も生み出してくれています。メーターはステアリング越しの奥に見通せる仕掛けで、最小限の視線移動で走行情報が得られるというもの。これはこれで近未来的ではありますが、一方で表示内容は意外にも普通で、もう少しハイテク感を伝えて欲しかったようにも思いました。
スタート直後にステアリングを切ると軽過ぎず、程良い重さの操舵力が伝わってきました。235/50R20(ET-HS(AWD)の場合)サイズのタイヤを履き、ショックオブソーバーの減衰力を強めにセッティングしているにもかかわらず、低速走行中の道路の段差も上手に丸められており、乗り心地は十分に納得できるレベルです。また、遮音性の高さも優れ、高速道路に入るとその静けさはいっそう際立つことになりました。
一方で、加速はBEVにありがちな強烈な加速感はありません。しかし、一般道から高速道までどの領域でも俊敏に反応するのはまさにBEVならではの魅力です。ガソリンエンジン車と比較するのも変な話ですが、トルク感からすればあきらかに3Lを超える大排気量車に匹敵するレベルにあると思いました。重心の低さはコーナリングでも高い接地性を発揮し、しかもステアリングを切ったときの回頭性も良好。パドルシフトによるきめ細かな回生は峠道で程良い減速を発揮し、コントロールがとてもしやすいのが印象的でした。
もう少し電動車らしさが欲しかった
ソルテラを試乗して実感したのは、これまでのBEVと比べて走りが電動車然としていないことです。強力な加速感もなければ、回生による強い減速Gもなく、ひたすらマイルドに抑えられていたのです。これならガソリン車から乗り換えても違和感はほとんど感じないで済むでしょう。
ただ、モーターの制御次第でもっと電動車らしさを発揮できたはずです。開発陣の話では「ガソリン車からの乗り換えユーザーを想定すると、より自然に体感できる制御の方が適切」と考えたということでした。つまり、ソルテラは意識して電動車らしさを打ち消して開発が行われていたのです。
たしかにクルマとしての特性が急激に変化すれば、ユーザーは違和感を感じるかも知れません。ただ、個人的にはスバル初のBEVであるわけで、それならばもっと電動車ならではの特徴を活かしたセッティングでも良かったのではないかとも思いました。クルマとしての仕上がりが素晴らしかっただけに、その辺りは残念に思いました。今後、第二弾、第三弾と次期モデルが登場するに従い、そうした特徴がより前面に出てくるのかもしれません。今後の進化に期待したいですね。
SPEC【ET-HS(AWD)】●全長×全幅×全高:4690×1860×1650mm●車両重量:2030kg●モーター:フロント・リヤ交流同期電動機●最大出力:フロント・リヤ80kW/4535-12500rpm●最大トルク:フロント・リヤ169N・m/0-4535rpm●WLTCモード一充電走行距離:487km●WLTCモード交流電力量消費率:148Wh/km
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