【五日市線の秘密③】意外? 市の名前が付いた駅名が一つもない
現在、五日市線は昭島市、福生市、あきる野市の3つの市をまたいで走る。大概の鉄道路線では一駅ぐらい、地元の市町村名が付いている駅があるものだが、五日市線にはそうした駅名がない。複数の駅がありながら、こうした路線も珍しい。
始発駅の拝島は昭島市と福生市の境界上にある駅で、多摩川までは福生市を、多摩川の先であきる野市へ入る。実は前は町名と同じ名の駅があった。それは秋川駅で、以前は秋川市内の駅だった。ところが、隣の五日市町と1995(平成7)年に合併、秋川市の名前が消え、あきる野市となった。
一方で、拝島駅で接続する青梅線には市の名前がそのまま付いた駅が多い。福生市にある福生駅、昭島市にある昭島駅、青梅市にある青梅駅といった具合である。
ここからは五日市線11.1kmの旅を始めよう。
五日市線の電車は、朝夕は立川駅まで直通運転し、日中は拝島駅〜武蔵五日市駅間を往復する電車が多い。使われる電車は豊田車両センターに配置されるE233系0番台で、6両編成で運転される。ちなみに2022(令和4)年3月12日のダイヤ改正以前は、中央線へ乗り入れる電車があったが、今は消滅している。青梅線には中央線の快速電車が直通運転しているのに対して、五日市線は立川駅または拝島駅での乗り換えが必要となる。
拝島駅を発車した電車は、駅の北側で平行して走る青梅線、八高線と分かれ、左に分岐する。線路はすぐに単線となり、住宅街の中を次の熊川駅へ走る。
次の熊川駅は左カーブする線路上にあるホーム一つの小さな無人駅だ。ここまでが福生市内の駅となる。駅を過ぎると間もなく前面に多摩川が見えてくる。
【五日市線の秘密④】5階建てビルの高さがある多摩川の河岸段丘
多摩川はこのあたりでは河岸段丘の地形を造り流れている。特に熊川駅側は段丘の地形がより良く分かる。五日市線は熊川駅の先から多摩川橋梁まで、築堤を走る。熊川駅の標高は119.6m、河岸段丘の下部は104.5m(国土地理院標高地図により計測)と15mほどの標高差がある。ビルにして約5階分の高低差がある。段丘の上に立ってみると、もっと高いように感じるのだが。
この巨大な築堤が生まれた逸話がある。実は五日市鉄道は建設当初、熊川駅付近は鉄道と歩行者共用のトンネルを掘り、河岸段丘の下まで通す予定だった。ところが資金難となり、現在の築堤の構造となる。約束を反故にしたこともあり、五日市鉄道は当時の地元・熊川村へ補償金を支払ったそうである。
今は立派な築堤が目立つ五日市線。車窓から見る風景も素晴らしく奥多摩などの山々が一望できる。春先は多摩川の堤防の桜並木も美しい。
【五日市線の秘密⑤】武蔵引田駅の乗降客が多い理由は?
多摩川を渡りあきる野市へ入る。沿線は工場や民家が次の東秋留駅(ひがしあきるえき)まで続く。この東秋留駅を過ぎると急に郊外の趣が強まり、進行方向右手には、畑地が広がるようになる。この付近は秋留台地と呼ばれる地域で、古くから畑作が盛んだった。
名産品としては初夏に収穫されるとうもろこしが良く知られている。あきる野市のとうもろこしは「秋川とうもろこし」と呼ばれ、甘味が強く一つ一つの粒が大きいのが特長だそうだ。東秋留駅から徒歩8分にはこうした地場産品を扱う「秋川ファーマーズセンター」もある。
東秋留駅から畑の風景を見ながら進むと、再び民家が多くなり秋川駅へ到着する。この駅は五日市線の中で最も賑やかな駅で、シティホテルなども駅前に建つ。この秋川駅を発車して間もなく、進行方向左右ともに畑地が広がる風景が続く。
ホームの前に畑が広がるのが次の武蔵引田駅(むさしひきだえき)だ。駅から農作業を行う様子が見えるのどかな駅だが、乗降客の多さが目立つ。多くが駅の北、徒歩10分ほどにある「イオンモール日の出」の利用者で、近くには大学のキャンパスもある。
南には秋川が流れ、河畔にはバーベキュー場「リバーサイドパーク 一の谷」(徒歩18分)もある。秋川の対岸には「東京サマーランド」もあり、東京郊外を走る路線らしく、沿線にレジャー施設が多い。
武蔵引田駅の近くは畑地と五日市線の電車を絡めて撮影するのに最適なところだ。東京都内の鉄道路線で、これほど障害物がなく畑と電車が撮影できる場所は希少といって良いだろう。
農業体験が楽しめる畑地など一般の人たちにも畑が開放されているところもある。ちなみに、この武蔵引田駅から武蔵五日市駅にかけては、前述したとうもろこし以外に、「のらぼう菜」というこの地で江戸時代から栽培されてきた野菜も育てられている。胡麻和えやおひたしとして食べられるほか、そばやうどんに混ぜた商品も販売されている。