【五日市線の秘密⑥】武蔵五日市駅の手前にある信号場跡は何?
武蔵引田駅から先に進むと、正面に見えていた山が次第に近くに迫ってくる。風景が変わるなか、武蔵増戸駅(むさしますこえき)に到着する。平地が続くのはこの駅までで、ここまでほぼ直線で伸びてきた路線も、武蔵増戸駅から先は、近づく山の形に合わせて、右へ左へカーブしつつ走る。山景色が迫ってくるといつしか、電車は台地の縁部分を走り、眼下に五日市の町と秋川の流れが見えるようになる。
終点の武蔵五日市駅が近づき、到着の車内アナウンスが聞こえるころに、左に側線が分岐する地点にさしかかる。この場所が三内(さんない)信号扱所と呼ばれるポイントで、ここから武蔵五日市駅への路線と、武蔵岩井駅へ向かう路線(通称・岩井支線)が分かれていた。
現在、三内信号扱所には側線が残り、保線用の車両が停められている。岩井支線が通っていた時代は、旅客列車は複雑な運転が行われていた。拝島駅を発車した列車は信号場を通過して武蔵五日市駅へ向かい、駅から三内信号扱所へスイッチバックで戻り、ここから大久野駅や武蔵岩井駅へ走った。貨物列車は武蔵五日市駅には立ち寄らず、直接、この信号扱所から大久野駅、武蔵岩井駅へ走っていた。
武蔵岩井駅方面への分岐があった当時は、地上部を走り、武蔵五日市駅へ入っていた電車だが、1996(平成8)年7月6日に高架化され、同区間にある都道31号線・通称「秋川街道」をまたいで終点の武蔵五日市駅へ到着する。
【五日市線の秘密⑦】終点・武蔵五日市駅の高架構造も気になる
背後は山、前面には秋川が流れる武蔵五日市駅へ電車が到着した。拝島駅から所要17〜20分ほどと乗車時間は短い。山と川がすぐ近くにあるものの、高架上にホームがある近代的な造りとなっている。
階段を降りると駅の玄関があり、駅前には大きなロータリーが設けられ、秋川渓谷上流の檜原村(ひのはらむら)や、北隣の日の出町方面へ行くバスなどのターミナルとして利用されている。
この武蔵五日市駅だが、ちょっと気になる構造をしている。終点の駅なのだが、ホーム端から線路がやや先に延びている。ホーム内に行き止まりの車止めがある構造を専門的には「頭端駅構造」と呼ぶ。この駅は先に路線を延ばすことができる「中間駅構造」として造られている。
秋川上流部にある檜原村から線路を延ばして欲しいという要望がかつてあったとされる。その後、延伸計画は具体化していないが、一応、延伸にも対応できる構造にしたようだ。
【五日市線の秘密⑧】不思議なトレーラーバスと出会う!
五日市線の終点、武蔵五日市駅で興味深い乗物に出会った。SLの形をしたバスが駅のロータリーを発着、秋川街道方面へ走っていったのである。
小改造したバスは国内観光地で良く目にするが、ここまで姿を変えたバスも珍しい。このバス、日本で唯一の貨物用のトレーラーを改造して造られた「トレーラーバス」と呼ばれる車両で、武蔵五日市駅と日の出町にある日帰り温泉施設「つるつる温泉」を結ぶ。武蔵五日市駅が高架化された1996(平成8)年に導入されたバスで、愛称は「青春号」。日の出町が西東京バスに運行を委託している路線バスだ。
車内はレトロな造りで凝っている。トレーラー部分の客車には乗務員が乗り、マイクで行先案内が行われる。このバス乗りたさに、日の出町の観光施設をわざわざ訪れる人もいるそうだ。