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2022/11/12 21:00

この時代に増便?平地なのにスイッチバック? ナゾ多き出雲の私鉄「ばたでん」こと一畑電車の背景を探る

【一畑電車の旅④】86年ぶりの新車導入。古参車両も保存される

次に一畑電車を走る車両を紹介しておこう。一畑電車の車両はここ10年で刷新され快適になってきている。86年ぶりに自社発注の新車も導入された。4タイプが走っているが、まずは数字順にあげていこう。

↑一畑電車を走る4タイプの電車。2100系はヒゲらしき模様が付いているが、これはハロウィン期間中だったため

 

◇1000系

1000系はオレンジに白帯のカラーで2両×3編成が走る。このカラーはデハニ50形という古い車両のカラーがベースになっている。1000系は元東急電鉄の1000系で、東横線、乗り入れる東京メトロ日比谷線で活躍した車両だ。正面の形が当時と異なっているが、それは中間車を改造したため。中間車を先頭車とするため新たに運転席が取り付けられ、ワンマン化されて2014(平成26)年に入線した。

 

◇2100系

元京王5000系(初代)で、京王電鉄では初の冷房車両だった。一畑へはワンマン改造や台車の履き替えなどを行い、1994(平成6)年に導入された。現在はオレンジ一色に白帯を巻いた姿で走る。元京王5000系の導入車両のうち、一部の電車はリニューアルされ5000系となっている。

 

◇5000系

元京王5000系だが、正面のデザインや乗降扉を3つから2つに変更、また座席をクロスシートに変更している。車体のカラーは青色ベースの車両と、オレンジ色に白帯塗装の「しまねの木」という愛称の車両が走る。「しまねの木」は1席+2席のクロスシートが横に並び、対面する座席ごとに他のスペースと仕切るウッド柄のボックスで囲まれる構造となっていて、カップルやグループ客に人気が高い。

 

◇7000系

一畑電車としてデハニ50形以来、86年ぶりとなる新車で2016(平成28)年から導入された。1両の単行運転ができるほか、貫通扉を利用して2両連結で走ることができる。ベースはJR四国7000系で、電気機器はJR西日本225系のものを流用し、コスト削減が図られている。車体の色は白がベース、「出雲の風景」をデザインテーマにしたフルラッピング車両となっている。

 

ほかに静態保存および動態保存の車両について触れておこう。

 

◇デハニ50形

1928(昭和3)年〜1930(昭和5)年に導入された車両で、荷物室を持つために「ニ」が形式名に付いている。当時の新製車両で、2009(平成21)年3月まで現役車両として働いた。

 

今は一畑電車で2両が保存されている。1両は出雲大社前駅構内に保存されたデハニ52。デハニ50形の2号車で、駅に隣接した出雲大社前駅縁結びスクエアから保存スペースへ入ることができる。もう1両は雲州平田駅構内に動態保存されているデハニ53で、体験運転用の車両として活用されている。また大社線の高浜駅近くの保育園にはデハニ50形が2両保存されていて、子どもたちに囲まれ静かに余生を送っている。

 

デハニ50形は映画『RAILWAYS 49歳で電車の運転士になった男の物語』(以下『RAILWAYS』と略)にも”出演”したこともあり、今も人気の高い車両となっている。

↑出雲大社前駅で静態保存されるデハニ52。隣接する縁結びスクエアから入ることができる。車内も乗車可能だ

 

ちなみに、遠く離れたところながら一畑軽便鉄道時代の車両も残されているので触れておこう。

 

静岡県の大井川鐵道の新金谷駅に隣接した「プラザロコ」で保存される蒸気機関車は元一畑軽便鉄道時代に活躍した車両だ。ドイツのコッペル社製のCタンク機で、一畑へは1922(大正11)年に4号機として導入された。その後に複数の工場の入れ換え機として使われ、大井川鐵道へわたり「いずも」と名付けられ大切にされている。

 

一畑電車の古い車両は場所が異なるものの、複数の車両が残っていること自体が奇跡のように思う。デハニも多く残っているように、車両を大切にしてきた同社の思いが、今も伝わってくるようだ。

↑大井川鐵道の施設で保存されている元一畑軽便鉄道のドイツ製蒸気機関車。一畑導入当時は4号機で、大井川鐵道では「いずも」と改称

 

【一畑電車の旅⑤】この時代に増便?画期的なダイヤ改正を行う

一畑電車を利用にあたって注意したいのは電車の時刻だ。土日祝日と平日ダイヤが大きく異なり、行先も異なる。土日祝日のダイヤは昨年の10月1日に改正されたものだが、平日のダイヤは今年の10月3日に大きく変更された。

 

改正された平日ダイヤでは、乗客を乗せずに動かしていた回送列車4本を急行列車に変更、さらに電鉄出雲市駅〜松江宍道湖温泉間の昼間帯普通列車3往復を急行列車に変更した。一方で、急行列車前後の普通列車のダイヤを調整し、急行通過駅の利用客の利便性に配慮した。

 

回送列車を旅客列車に変更する増便方法は画期的な方策のように思う。今の時代に増便すること自体が珍しく、加えて急行を走らせ時間短縮を図るなど積極姿勢が感じられ、同社のダイヤ改正が新聞紙上やネットニュースにも取り上げられたほどだった。

 

ここで一畑電車の土日祝日と平日の列車の傾向を見ておこう。

↑出雲科学館パークタウン前駅付近を走る7000系。土日祝日は出雲大社前駅から電鉄出雲市駅行き直通特急が運行される(右下はその表示)

 

〔土日祝日のダイヤ〕

朝夕は電鉄出雲市駅〜松江しんじ湖温泉駅間を往復する普通列車がすべてだが、日中はがらりと変わり、電鉄出雲市駅発と松江しんじ湖温泉駅発の電車すべてが出雲大社前駅行きとなる。電鉄出雲市駅〜出雲大社前駅間は複数の途中駅を通過する特急も数本ある。

 

日中は、電鉄出雲市駅から松江しんじ湖温泉駅へ、また松江しんじ湖温泉駅から電鉄出雲市駅へ行きたい時には、途中の川跡駅での乗換えが必要になる。

 

〔平日のダイヤ〕

大半の列車は電鉄出雲市駅〜松江しんじ湖温泉駅間を走る。そのうち日中は急行列車が4往復、また朝には電鉄出雲市駅発、松江しんじ湖温泉駅行きの「スーパーライナー」という列車が設けられている。この列車は同駅間45分(各駅停車利用時は約60分)と最短時間で着けるようにダイヤが設定されている。

 

一方、出雲大社駅行きの直通電車は電鉄出雲市駅発が2本、雲州平田駅発の電車は朝6時台の1本のみと少ない。

 

ここまで平日と土日祝日で運転の傾向が変わる鉄道会社も少ないのではないのだろうか。一畑電車の利用客は半分以上、観光客が占めているという。さらに、平日日中の主要駅以外での乗降は0.4%しかいないそうだ。平日の日中は観光客とビジネス客が主体となる利用状況を考えて、少しでも早く目的駅に着けるように急行列車を新たに走らせ、より便利になるように増便したのだとされる。とにかく思い切ったダイヤの組み方をしているわけだ。

 

だが、一般利用者にそのことが周知されているわけではないようで、週末に筆者が乗車した電車では、乗換えるべき川跡駅で降りずにそのまま乗ってしまい、数駅いったところで慌てて降りるという乗客を数人、見かけることになった。土日祝日は、出雲大社前へ行きやすくなったものの、誤乗車する人も現れているので注意したい。

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