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2023/9/14 11:20

常識を覆す衝撃の走り……ヴェルファイアとアルファードの差別化を決定づけた2.4Lターボ

都心でクルマを運転していると、見ない日はないくらい街中を走っているのが、トヨタのアルファードと兄弟車のヴェルファイアだ。今や庶民の憧れ、到達点として、かつてのクラウンのレベルに並んでいるか、下手したら凌駕しているような状態である。そして今夏、この2車に4代目となる新型が発売された(ヴェルファイアは3代目)。頂点を極めたクルマの進化とはいったいどんなものか?

 

■今回紹介するクルマ

トヨタ アルファード/ヴェルファイア

価格:540万~872万円(アルファード)、655万~892万円(ヴェルファイア)

 

ルックスはアルファードの圧勝だが……

今や日本を、いやアジアを代表する高級車に上り詰めたアルファード。レクサスLSやクラウンの後席でふんぞり返っていると、周囲からなんとなく冷たい視線が注がれ、センチュリーを公用車にすると袋叩きにされたりするけれど、アルファードなら誰も文句を言わず、むしろ憧れの視線が注がれるのだから素晴らしいじゃないか。

 

従来型の国産高級車が売れなくなって久しいが、アルファードは一人勝ちで売れまくってきた。そのフルモデルチェンジともなれば、クルマ関連では今年最大級のイベントである。

 

兄弟車のヴェルファイアも、同時にフルモデルチェンジされた。アルファード人気のあおりを食って、先代モデル末期にはアルファードの3%程度しか売れなくなり、今回は消滅・統一されると思われていたが、豊田章男会長の鶴の一声で生き残りが決定したという。先代まではルックスの違いが2台の棲み分けポイントだったが、新型では走りのキャラクターで差別化を図っている。

 

まずはルックスの評価からいこう。新型アルファードのスタイリングは、大人気だった先代型のイメージを強くキープしているが、非常に洗練された印象だ。先代型は巨大な銀歯のようなオラオラ顔にばかり目が行ったが、新型のグリルはメッキ量を減らして威圧感をほどよく抑え、逆にボディフォルムはふくよかにうねらせ跳ね上げつつ、尻下がりのウエストラインでフォーマル感も出している。先代型のほうがインパクトは強かったが、新型のデザインは全体の完成度がとても高い。

↑フロント部は「突進するような力強さを生み出すべくエンブレム部分が最先端になる逆傾斜の形状」を採用

 

↑ボディのサイドにはリアからフロントにかけて流線形を取り入れている。サイズは全長4995×全幅1850×全高1935mm

 

新型ヴェルファイアは、デザイン面ではアルファードのグリル違いに徹している。スタンダード感の強い横桟グリルは、アルファードの鱗グリルに比べるとかなり平凡な印象だ。個人的には、「今回も見た目でアルファードの圧勝だな」と感じたが、ヴェルファイアのスタンダード感を好む方も少なくないらしく、新型は受注の約3割をヴェルファイアが占めているという。

↑横に伸びたグリルが印象的なヴェルファイア

 

↑ヴェルファイアのZプレミアグレードは黒色の「漆黒メッキ」を基調とした金属加飾を施し、モダンかつ上質なデザインにしたとのこと。サイズは全長4995×全幅1850×全高1945mm

 

常識を覆す走りと秀逸な操縦性のヴェルファイア

最初に乗ったのは、ヴェルファイア Zプレミアの2.4L 4気筒ターボエンジン搭載モデル(FF)。最高出力は279馬力だ。このエンジンはアルファードには用意されず、「走りのヴェルファイア」を象徴するグレードになっている。

 

走り出してすぐに衝撃を受けた。ほとんどスポーツサルーンのごとく意のままに走り、曲がり、止まってくれる。これまでのミニバンの常識を引っ繰り返す走りである。

↑走行イメージ。「運転する喜びを感じるための走行性能」を実現したという

 

従来のアルファード/ヴェルファイアは、ルックスの威圧感のわりに加速が物足りなかったが、このエンジンは、先代型の3.5L V6エンジンと比べてもパワフルでレスポンスがいい。バカッ速くはないが、意のままに加速する。燃費も思ったより良好で、燃費計の数値は10km/L弱を示していた。

↑高い加速応答性能と十分な駆動力をそなえ、ペダル操作に対して気持ちよく伸びるという2.4L直列4気筒ターボエンジンを搭載

 

操縦性がまたすばらしい。ミニバンという乗り物は基本的に重心が高く、ボディ剛性も出しにくいから、操縦性はイマイチなのがアタリマエだが、ヴェルファイア2.4ターボは違う。とにかくハンドルの反応がシャープで気持ちいい。ヴェルファイアは、19インチタイヤやスポーティなサスペンションに加えて、車体骨格の前部に補強を施してある。それがこの秀逸な操縦性を生んでいるようだ。

 

しかも、乗り心地も非常にイイのである。足まわりはやや固めだが、路面から伝わる車体の揺れが一発で収まるし、カーブでの車体の傾き(ロール)も小さめなので、結果的にこのグレードが最も快適に感じられた。

↑コックピットには12.3インチの大画面液晶のほか、カラーメーター、同時に複数の情報を見られるマルチインフォメーションディスプレイなどが搭載(画像はExecutive Loungeグレード)

 

↑プライベートジェットのような空間を設えたとする室内

 

クルマ好きが乗っても納得のアルファード

ヴェルファイア2.4ターボの走りの良さに感動しつつ、アルファードの2.5ハイブリッドE-Four「エグゼクティブラウンジ」に乗り換える。エグゼクティブラウンジは贅沢な2列目シートが売りの「動く応接間」。そこに座っていれば、まさにエグゼクティブ気分だが、アルファードの走りは、ヴェルファイアに比べるとだいぶ穏やかで当たり障りがない。ボディ剛性アップの恩恵により、先代に比べればはるかに快適性は高いが、ヴェルファイア2.4ターボの素晴らしさを知った後では、加速や操縦性だけでなく、乗り心地すら若干平凡に感じてしまった。

↑走行イメージ。新モデルは基本骨格を見直すと同時に、乗員に伝わる振動・騒音の低減に徹底している

 

↑運転席と2列目シートおよび3列目シートとの距離は従来型比でそれぞれ5mm/10mm広い前後席間距離を確保した、ゆとりのある空間を実現

 

ただし、2.5ハイブリッドのパワーユニットは先代型から大幅に進化し、システム出力は197馬力から250馬力にアップしている。先代ハイブリッドの走りはかなり眠い印象だったが、新型のハイブリッドは加速のダイレクト感があり、クルマ好きが乗っても「悪くないね」と言えるレベルになっている。

↑システム最高出力250PSの「2.5L A25A-FXSエンジン」。燃費性能も高められており、E-FourエグゼクティブラウンジはWLTCモードで16.5km/Lとなっている

 

↑コックピットは「隅々まで心づかいを施した」と自信をのぞかせる

 

アルファードには、2.5L 4気筒自然吸気エンジン搭載のベーシックなグレードも用意されている。加速はぐっと控え目になるが、「走りはそこそこでいいから、とにかくアルファードが欲しい!」というユーザーも少なくないはず。ハイブリッドより80万円安い価格は魅力的だ。

 

それでもお値段は540万円。ちなみに2.5ハイブリッドのエグゼクティブラウンジE-Four は872万円。10年前なら中古フェラーリが買えた金額なのだから、「うーむ」と唸るしかない。

 

結論として、ルックスは個人的にアルファード推しだが、走りや快適性はヴェルファイア2.4ターボFF(655万円)が抜きん出ていた。見た目を取るか走りを取るか。それ以前にお財布との相談が必要だが、すでに納車待ちは1年以上、ヘタすると2年とか。「KINTO(リース)なら半年後の納車も可能」というトヨタ側の提案を検討せざるを得ないほど、人気大爆発のアルファード/ヴェルファイアなのであった。

SPEC【ヴェルファイア/Zプレミア・ターボガソリン車・2WD】●全長×全幅×全高:4995×1850×1945mm●車両重量:2180㎏●パワーユニット:2393cc直列4気筒ターボエンジン●最高出力:279PS(205kW)/6000rpm●最大トルク:430Nm/1700-3600rpm●WLTCモード燃費:10.3㎞/L

 

一部撮影/清水草一

 

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