ますます高くなっている新車価格。もはや以前のように気軽に新車を買うのは難しい状況となっています。そんななかで注目したいのがホンダから登場した新型SUV「WR-V」です。パワーユニットをガソリンエンジンのみとすることで、今どきの新車とは思えない手軽な価格帯を実現しています。今回はそのWR-Vの試乗レポートをお届けします。
■今回紹介するクルマ
ホンダ WR-V(試乗グレード:Z+)
価格:248万9300円(税込、以下同)
オーソドックスな仕様と開発・生産の手法で低価格に
では、WR-Vはいくらで買えるのでしょうか。価格を聞いてビックリ!なんと、もっともベーシックな「X」なら209万8800円で買えるんです。「装備がチープだから?」と思いそうですが、上級の「Z」でも234万9600円。さらに専用エクステリアを備えた「Z+」でも248万9300円と、全ラインナップが250万円以内に収まっているのです。今どき200万円超えが珍しくない軽自動車とさえ真っ向から勝負できる価格帯と言っていいでしょう。
この価格が実現できた背景にはいくつか理由があります。冒頭で述べたように、エンジンを1.5リッター自然吸気直4ガソリンとし、これにCVTを組み合わせるだけと、今どきの日本車ならほとんどラインナップされているハイブリッドは採用されていません。駆動方式もFFのみで4WD設定はなし。特に目新しさを感じる技術は盛り込まれておらず、極めてオーソドックスな造り込みが価格を抑えられた一つの要因となっているのです。
開発から生産に至るまでの手法も低価格実現の要因の一つと思われます。実はWR-Vは、開発をタイの四輪開発拠点である「ホンダR&Dアジアパシフィック」が担当し、生産をインドの「ホンダカーズインディア」が行なうグローバルモデルとなっています。加えてグローバルモデルとはいえ、投入するのは日本とインド、南アフリカのみ。つまり、右ハンドル仕様に絞る、徹底したコスト管理のもとで生まれたのがWR-Vというわけです。
ACCまで備えたHonda SENSINGで安全運転を支援
となれば、いろいろ妥協の産物なのかと思われがちですが、内容を見ればそんなことはないことがすぐにわかります。たとえば、安全装備としてはHonda SENSINGが装備されており、衝突軽減ブレーキをはじめ、急アクセル抑制機能や路外逸脱抑制機能といった一通りの安全機能を装備したほか、アダプティブクルーズコントロール(ACC)、オートハイビームなどの運転支援機能も充実しています。
強いて残念な点を挙げれば、パーキングブレーキが機械式となっていること。そのため、ACCは30km/h以下になると自動的に解除されてしまい、渋滞時に使うことはできません。それと、新型車という割には、ブラインドスポットモニター機能がオプションでも用意されていないのはちょっと残念ですね。
外観は、シャレたデザインが増えてきた最近のSUVにしては、珍しいほど全体に角張ったデザインで、フロントグリルもなかなかの迫力ぶり。特に運転席に座るとフロンボンネットの端がしっかり把握できるあたりは、クロスカントリー向けなスタイルにも見えます。しかも最小回転半径は5.2mと、ハンドルを切ったときの取り回しも良好で、それだけに4WDがラインナップにないのが惜しいと思えるほどです。
インテリアは水平基調のシンプルなデザインで、地味さはあるものの、機能面で困ることはまったくなく、必要なものはすべて装備されています。ソフトパッドはドアトリムだけですが、それもこのクラスとしては上出来。なによりも全体の仕上がりが良く、チープさを感じることはなく、これなら、多くの人にとって不満を感じることはないだろうと思いました。視界の広さも特筆もので、それが運転中のストレス軽減に役立つのは間違いありません。
角張ったフォルムがもたらしたクラス随一のスペースユーティリティ
一方で、「Honda CONNECT」に対応する9インチのナビはディーラーオプションで20万2400円。試乗車では試せませんでしたが、独自のコネクテッドサービス「Honda Total Care プレミアム」によってエアコンやライトをリモート操作したり、スマホでドアロックを解錠/エンジンを始動させたりといった、さまざまな便利機能が使えるようになるとのこと。ただ、ナビ機能としては起動に少し時間がかかるのが気になりました。
そして、WR-Vで最大の美点となっているのが車内の広さです。これは角張ったフォルムがもたらしているものと思われますが、車内すべてがゆったりとしていて、特に後席に至っては上級グレードのヴェゼルよりも明らかに広いスペースを確保している印象を受けます。しかも、このクラスにしては贅沢な後席専用エアコン吹き出し口まであるのです。Zグレード以上に装備される後席アームレストを組み合わせれば、ちょっとした高級車並みの雰囲気が楽しめそうですね。
荷室容量は458L(5名乗車時/床下収納を除く)と、クラスを上回る収容力を確保しています。特に床面を低く取ってあり、天井までの高さも十分あるため、キャンピングなどで必要となる荷物の積載にも十分応えられるほどです。6:4分割式のリアシートを倒した際はフラットにはなりませんが、むしろ、家族4人が乗車したときの収容力を評価すべき仕様と言えるでしょう。
乗り心地は少し硬めなものの、特に不満はなし
それでは、いよいよ試乗です。試乗したのは上位モデルの専用エクステリアを備えた「Z+」。
今回は都内から郊外へトータル120kmほどを走行してみました。パワートレインは1.5リッター直4 i-VTECガソリンエンジンで、これにCVTを組み合わせたシンプルなものです。最高出力は118PS、最大トルク142N・mと、特に目を引く数値とは言えませんが、スムーズな加速力は日常のドライブであれば十分なパフォーマンスを備えていると言えます。ただ、アイドリングストップ機能はなく、また、高速での加速では少しノイジーに感じるかもしれません。
乗り心地は少し硬めの印象で、低速で走っていると路面からの突き上げはややタイトに感じます。しかし、その分、コーナリングではロールもしっかりと抑えられていて、峠道も安心して走行できました。そういった面を踏まえれば、個人的にはこの硬さは乗り心地も含め、十分に許容範囲に入っていると言っていいでしょう。
120kmほどの距離を走った結果の燃費は、エコランを少し意識した往路では18.2km/Lを記録。復路では普通にアクセルを踏んで走行した結果、15.8km/Lという結果でした。カタログ値では16.4km/L(WLTCモード)となっていましたから、ほぼ想定通りの結果が得られたと判断できます。
全体としてWR-Vは秀でた部分は特に見つからないものの、かといって不満に感じる部分もない。しかし、クラスを超える車内スペースがもたらす、ゆったりとした空間と優れた実用性はこのクラスとしては随一のものです。新車価格が高騰する中で、予算面で軽自動車を考えていながら、そこに踏み切ることに躊躇していた人にとってWR-Vはまさに打って付けの一台。発売1か月で目標の4倍となる1万3000台もの受注を獲得した理由もここにあるのだと思います。
SPEC【Z+】●全長×全幅×全高:4325×1790×1650mm●車両重量:1230kg●総排気量:1496L●パワーユニット:水冷直列4気筒 DOHC16バルブ●最高出力:118PS/6600rpm●最大トルク:14.5kgf-m/4300rpm●WLTCモード燃費:16.2km/L
撮影/松川 忍
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