「そもそもなんですが、なぜ開発途上国で“ボッチャ”を?」
そんなシンプルな質問から始まった今回の対談――。2月1日、市ヶ谷のJICA地球ひろばでボッチャの体験イベントが開催されました。そこにやってきたのが、パラリンピック2020開催に向けて昨年から後輩芸人を引き連れてのものまねイベントを展開中の、ものまねタレント・ホリさんです。JICA海外協力隊員としてネパールでボッチャの普及活動に取り組んできた浅見明子さんと、ボッチャや障害者スポーツ、そしてネパールでの取り組みについて存分に語り合いました。
JICA地球ひろばが主催するパラリンピック応援企画「ボッチャ体験イベント」は、東京2020パラリンピックが近づく中で、一般の方々にも障害者スポーツを通じた共生社会への理解と関心をさらに深めてもらおうというイベント。ユニバーサルスポーツの名称どおり、小学生から高齢者まで、健常者の方も車椅子の方も老若男女問わず総勢80名が集まりました。浅見さんを講師に、さらにホリ座長率いるホリプロコムものまね軍団(ジャッキーちゃん・沙羅さん・ハリウリサさん・河口こうへいさん・メルヘン須長さん)も参戦し、会場は大盛り上がり!
パラスポーツを通じた多様なコミュニケーションのあり方、そして開発途上国でそれを広めていくことの意義とは? ホリさんと浅見さん、異色対談のスタートです。
【聞き手はこの方】
ホリ(本名:ほり ひろと)
1977年2月11日生まれ。千葉県出身。日本大学法学部新聞学科を卒業後、広告業界でサラリーマンをするも、2000年、日本テレビ「まねきん」にてまねきんBoxチャンピオン大会初代チャンピオンに。武田鉄矢・木村拓哉・ちびまる子ちゃんシリーズなど、芸能界からアニメものまねまで数多くのネタを持つものまねタレントとして活躍する。学生時代は野球部やハンドボール部に所属しリーダーも務めていた。事務所の後輩を率いて、パラリンピック応援イベントにも参加している。
【講師はこの方】
浅見明子(あさみ あきこ)
J-Workout株式会社トレーニング事業部所属。2010年より脊髄損傷者専門のトレーニングジム「ジェイ・ワークアウト」にてトレーナーとして200名以上の脊髄損傷の方々の再歩行を目指しトレーニングを行う。2017年7月から2019年3月までJICA海外協力隊員としてネパール各地でボッチャの普及や選手・コーチの育成活動に従事。帰国後もJ-Workoutに所属しながら、ネパールでの経験を活かし障害者スポーツに関わる活動をしている。またネパールボッチャ協会の一員として、協会の会長と二人三脚で運営全般を行い様々な障害者スポーツのサポートも行なう。
心・技・体(運も?)影響するパラスポーツ「ボッチャ」の魅力
ホリ:今日はあえて「ボッチャ」について調べずに来たんです。まっさらな状態で知ってみたいと思って。「ボッチャって何?」ってところから教えてくれますか?
浅見:ボッチャはですね……実はスポーツなんですよ(笑)
ホリ:えー、食べ物じゃないの? ってオイ、さすがに知ってます、ボッチャがスポーツだってことは(笑)。パラリンピックの正式種目なんですよね。
浅見:はい。ボッチャの起源は欧州で、重度脳性麻痺者のために考案されたスポーツです。今ではユニバーサルスポーツとして誰でも一緒にできるスポーツとして知られています。ジャックボール(目標球)と呼ばれる白いボールに、赤・青のそれぞれ6球ずつボールを投げたり、転がしたり、他のボールに当てたりして、いかに近づけるかを競います。
ホリ:おはじき的な? なんか子どものころ、田舎でそういう遊びをしていた気がするけど。脳に障害のある方でも出来るってことは、すごくシンプルな運動ってことですね?
浅見:カーリングをイメージすると近いかもしれません。かなり頭脳プレーもありますよ。手が使えない人でもボールを転がす滑り台を使うことで参加できます。
ホリ:頭脳プレーも?
浅見:将棋のような頭脳戦の要素もあって、どのルートでいったら白いボールに近づけるかを考える。脳性麻痺の方は、巧くボールが扱えない人もいるので、アシスタントがつきます。慣れてくると、口を使わずして目で対話して指示を出したりもします。
ホリ:ってことは、結構チームプレイの要素も強そうですね。声かけあったりして。
浅見:そうなんです、ネパールの小学校でもワイワイ盛り上がってるチームが勝つ傾向にありましたね。「あっちを狙え!」とか6年生の子が5年生に後ろから指示出したり。コミュニケーション能力も問われる競技なので、教育にも使えますよ。
開発途上国でパラスポーツを広げることの意義――「ルールを守る」ことから教える
ホリ:そもそもな質問ですが、ボッチャみたいなパラスポーツをネパールで広げることがなぜ必要なんでしょう? スポーツを通じた国際協力ってイメージがいまだ湧かなくて。
浅見:私はJICA海外協力隊員として2年間、ネパールに派遣されていましたが、ネパールのような開発途上国では、スポーツの技術を教える以前の段階から入る必要があるんです。
ホリ:以前の段階……? ボッチャのルールとかノウハウを教えてきたのではないのですか?
浅見:まずは「ルールを守る」という概念を現地の方に理解してもらう必要があるんです。スポーツには「ルール」があって、そこでは皆、平等にルールを守ることで初めてゲームが成り立つんだ、ということを教える所からスタートする。
ホリ:すごいな、「ルール」の発想がそもそもないってことですね。日本人はいつの間にか「規則を守る」ことが教育で身についてるけれど、現地にはその発想自体が無い、と。
浅見:そうなんです。「なんでルール守らなければならないの?」と普通に聞いてきますから。そこを理解してもらうのに1年くらいかかるんです。それこそ「なぜ人を傷つけてはいけないの?」「お金のある人から物をもらってはいけないの?」と悪気もなく聞いてくる子もいる。
ホリ:なるほどすごい話だなぁ。
浅見:はい。私の場合は幸運にも10年前からネパール人のゴマさんという方が現地でボッチャを広げる活動を既にされていました。ですからスタートは他のスポーツ隊員の方より入りやすかったんです。でも「練習」を知ってもらうのには苦労しましたね。
大人も子どもも「練習」を知らない!?
ホリ:え、「練習」という概念も無かったと?
浅見:びっくりしますよね。最初、「来週までにボール投げの練習しておいてね」と伝えたら、子どもたち、ポカンとして。「練習って何?」「何すればいいの?」と。
ホリ:「練習」という考え方そのものを知らなかったのか。
浅見:子どもだけじゃなくて先生方も知らないんです、「練習」の仕方を。まずは右側に投げることを覚えましょう、それができたら左側、と一歩一歩ステップアップしていく、という発想さえ新鮮だった。
ホリ:大人の先生も知らない??
浅見:はい、ネパールでは障害のある子どもや低学年を教える先生というのはほとんどが女性。男性教師も少しづつ増えてきましたが、女性が運動をすることがそもそも無かった国なので、教師側もスポーツ自体を知らない。練習の仕方も。
ホリ:文化とか宗教的な背景の影響があるんですかね?
浅見:そうなんです。ネパールでは障害者は、宗教の観点からよくないとか、前世で悪いことをしたから障害者になった、という考え方がまだ残っています。
「障害者でも外の世界で輝いていいんだ!」、ボッチャが社会への扉を開くツールに
ホリ:今日初めて現地での活動の話を聞いたり、自分もボッチャを体験してみて、単純にスポーツを技術として教えることだけが開発途上国における国際貢献じゃないんだという感じが伝わってきました。一方で、ネパールのような開発途上の国に障害者スポーツを広めようというのが良いのか、他にもっとやるべきことがあるのではないかとも思いまして。
浅見:そういう見方もあるかもしれません。でも、障害者の方々に「選択肢」を持ってもらえるようにするということは、大変重要なのではないかと思います。
浅見:先ほども少し話しましたが、ネパールでは障害者は生まれた時から「何もできない人」と刷り込まれているようなところがあります。社会的にも、障害者とは一緒にご飯を食べないとか、職にもつけない、というような差別的な風潮が、まだ残っています。そんな中で、車椅子の子がボッチャを覚えると「ボッチャの大会に出たいから会場に連れて行って!」と親や周りに頼む子も出てきて。
ホリ:ボッチャを通して、外の世界に積極的に出られるようになったと。
浅見:そうなんです。「自分はもっと前に出てよかったんだ!」「輝いてもいいんだ!」と前向きな気持ちが生まれてくるんです。ボッチャをきっかけに社会への扉が開く。またボッチャのボールも縫製工場の障害者の方々と試行錯誤で作ってみたら、しっかりしたものができて貴重な経験になっていますね。
ホリ:美味しいものを食べてる時はシンプルにみんなイイ顔しますよね。最終的にはそういうことなんじゃないかなと思う。食とかスポーツとかって、物事をいい意味ですごく単純にしてくれることがあるなって。
浅見:本当に、もっとシンプルにユニバーサルスポーツを感じて欲しいと思います。私もボッチャなどのスポーツを通して、障害の有無に関係なく参加交流できる場ができ、障害のある方が少しでも社会進出しやすい(ハードもソフトも)環境づくりのきっかけを、今後も作っていけたらと願っています。