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2020/2/28 19:58

「パラスポーツってこんなに身近なものだったんだ!」――ものまねタレント・ホリさんがボッチャを初体験

「そもそもなんですが、なぜ開発途上国で“ボッチャ”を?」

 

そんなシンプルな質問から始まった今回の対談――。2月1日、市ヶ谷のJICA地球ひろばでボッチャの体験イベントが開催されました。そこにやってきたのが、パラリンピック2020開催に向けて昨年から後輩芸人を引き連れてのものまねイベントを展開中の、ものまねタレント・ホリさんです。JICA海外協力隊員としてネパールでボッチャの普及活動に取り組んできた浅見明子さんと、ボッチャや障害者スポーツ、そしてネパールでの取り組みについて存分に語り合いました。

↑ホリさん、そしてホリさん率いるホリプロコムものまね軍団が体験イベントを盛り上げる。参加者全員がいつの間にかボッチャに熱中!

 

JICA地球ひろばが主催するパラリンピック応援企画「ボッチャ体験イベント」は、東京2020パラリンピックが近づく中で、一般の方々にも障害者スポーツを通じた共生社会への理解と関心をさらに深めてもらおうというイベント。ユニバーサルスポーツの名称どおり、小学生から高齢者まで、健常者の方も車椅子の方も老若男女問わず総勢80名が集まりました。浅見さんを講師に、さらにホリ座長率いるホリプロコムものまね軍団(ジャッキーちゃん・沙羅さん・ハリウリサさん・河口こうへいさん・メルヘン須長さん)も参戦し、会場は大盛り上がり!

 

パラスポーツを通じた多様なコミュニケーションのあり方、そして開発途上国でそれを広めていくことの意義とは? ホリさんと浅見さん、異色対談のスタートです。

 

【聞き手はこの方】

ホリ(本名:ほり ひろと)

1977年2月11日生まれ。千葉県出身。日本大学法学部新聞学科を卒業後、広告業界でサラリーマンをするも、2000年、日本テレビ「まねきん」にてまねきんBoxチャンピオン大会初代チャンピオンに。武田鉄矢・木村拓哉・ちびまる子ちゃんシリーズなど、芸能界からアニメものまねまで数多くのネタを持つものまねタレントとして活躍する。学生時代は野球部やハンドボール部に所属しリーダーも務めていた。事務所の後輩を率いて、パラリンピック応援イベントにも参加している。

 

【講師はこの方】

浅見明子(あさみ あきこ)

J-Workout株式会社トレーニング事業部所属。2010年より脊髄損傷者専門のトレーニングジム「ジェイ・ワークアウト」にてトレーナーとして200名以上の脊髄損傷の方々の再歩行を目指しトレーニングを行う。2017年7月から2019年3月までJICA海外協力隊員としてネパール各地でボッチャの普及や選手・コーチの育成活動に従事。帰国後もJ-Workoutに所属しながら、ネパールでの経験を活かし障害者スポーツに関わる活動をしている。またネパールボッチャ協会の一員として、協会の会長と二人三脚で運営全般を行い様々な障害者スポーツのサポートも行なう。

J-Workout

 

心・技・体(運も?)影響するパラスポーツ「ボッチャ」の魅力

 ホリ:今日はあえて「ボッチャ」について調べずに来たんです。まっさらな状態で知ってみたいと思って。「ボッチャって何?」ってところから教えてくれますか?

↑初対面で緊張する浅見さんに、「はじめまして、武田鉄矢です!」とものまね自己紹介。一気に場の空気を和ますホリさん

 

浅見:ボッチャはですね……実はスポーツなんですよ(笑)

 

ホリ:えー、食べ物じゃないの? ってオイ、さすがに知ってます、ボッチャがスポーツだってことは(笑)。パラリンピックの正式種目なんですよね。

 

浅見:はい。ボッチャの起源は欧州で、重度脳性麻痺者のために考案されたスポーツです。今ではユニバーサルスポーツとして誰でも一緒にできるスポーツとして知られています。ジャックボール(目標球)と呼ばれる白いボールに、赤・青のそれぞれ6球ずつボールを投げたり、転がしたり、他のボールに当てたりして、いかに近づけるかを競います。

↑ネパールに行く前からあえてテレビの無い生活をしていたという浅見さん。「えっ?じゃあオレのことも知らなかった?」というホリさんのツッコミに苦笑い

 

ホリ:おはじき的な? なんか子どものころ、田舎でそういう遊びをしていた気がするけど。脳に障害のある方でも出来るってことは、すごくシンプルな運動ってことですね?

 

浅見:カーリングをイメージすると近いかもしれません。かなり頭脳プレーもありますよ。手が使えない人でもボールを転がす滑り台を使うことで参加できます。

↑ネパールでの浅見さんの活動や国際協力の世界を新鮮に感じ、率直な質問を投げかける

 

ホリ:頭脳プレーも?

 

浅見:将棋のような頭脳戦の要素もあって、どのルートでいったら白いボールに近づけるかを考える。脳性麻痺の方は、巧くボールが扱えない人もいるので、アシスタントがつきます。慣れてくると、口を使わずして目で対話して指示を出したりもします。

 

ホリ:ってことは、結構チームプレイの要素も強そうですね。声かけあったりして。

 

浅見:そうなんです、ネパールの小学校でもワイワイ盛り上がってるチームが勝つ傾向にありましたね。「あっちを狙え!」とか6年生の子が5年生に後ろから指示出したり。コミュニケーション能力も問われる競技なので、教育にも使えますよ。

↑学生時代は野球部でキャプテンを務めたこともあるというホリさん。「自己主張が強いからチームプレイはダメだった」と語るが、後輩芸人達をまとめるリーダー気質はそのころから?

 

開発途上国でパラスポーツを広げることの意義――「ルールを守る」ことから教える

 ホリ:そもそもな質問ですが、ボッチャみたいなパラスポーツをネパールで広げることがなぜ必要なんでしょう? スポーツを通じた国際協力ってイメージがいまだ湧かなくて。

↑ネパール・チャングナラヤン村の小学校でボッチャを教える浅見さん。1年後に再訪した際、「ボッチャーー!!」と校舎の窓から身を乗り出して叫ぶ子どもたちの歓声に迎えられたそう

 

浅見:私はJICA海外協力隊員として2年間、ネパールに派遣されていましたが、ネパールのような開発途上国では、スポーツの技術を教える以前の段階から入る必要があるんです。

 

ホリ:以前の段階……? ボッチャのルールとかノウハウを教えてきたのではないのですか?

 

浅見:まずは「ルールを守る」という概念を現地の方に理解してもらう必要があるんです。スポーツには「ルール」があって、そこでは皆、平等にルールを守ることで初めてゲームが成り立つんだ、ということを教える所からスタートする。

 

ホリ:すごいな、「ルール」の発想がそもそもないってことですね。日本人はいつの間にか「規則を守る」ことが教育で身についてるけれど、現地にはその発想自体が無い、と。

 

浅見:そうなんです。「なんでルール守らなければならないの?」と普通に聞いてきますから。そこを理解してもらうのに1年くらいかかるんです。それこそ「なぜ人を傷つけてはいけないの?」「お金のある人から物をもらってはいけないの?」と悪気もなく聞いてくる子もいる。

 

ホリ:なるほどすごい話だなぁ。

↑ネパール・ダマウリ村の女性組合でボッチャワークショップを開催。現地には女性が体育や運動をするという発想が無かったため、スポーツとは無縁だった母親世代に向けて運動の大切さや楽しさを伝える浅見さん

 

浅見:はい。私の場合は幸運にも10年前からネパール人のゴマさんという方が現地でボッチャを広げる活動を既にされていました。ですからスタートは他のスポーツ隊員の方より入りやすかったんです。でも「練習」を知ってもらうのには苦労しましたね。

 

大人も子どもも「練習」を知らない!?

ホリ:え、「練習」という概念も無かったと?

 

浅見:びっくりしますよね。最初、「来週までにボール投げの練習しておいてね」と伝えたら、子どもたち、ポカンとして。「練習って何?」「何すればいいの?」と。

 

ホリ:「練習」という考え方そのものを知らなかったのか。

↑「練習」には段階があることを知ってもらうために、浅見さんが手描きで作ったボッチャの練習リスト。少しづつレベルの階段を上げ、子どものモチベーションを上げる工夫が

 

浅見:子どもだけじゃなくて先生方も知らないんです、「練習」の仕方を。まずは右側に投げることを覚えましょう、それができたら左側、と一歩一歩ステップアップしていく、という発想さえ新鮮だった。

 

ホリ:大人の先生も知らない??

 

浅見:はい、ネパールでは障害のある子どもや低学年を教える先生というのはほとんどが女性。男性教師も少しづつ増えてきましたが、女性が運動をすることがそもそも無かった国なので、教師側もスポーツ自体を知らない。練習の仕方も。

↑ボール投げの練習にすぐ飽きてしまう子ども達に、課題をクリアするごとにシールをプレゼントすることに。シール欲しさに練習が好きになっていった

 

ホリ:文化とか宗教的な背景の影響があるんですかね?

 

浅見:そうなんです。ネパールでは障害者は、宗教の観点からよくないとか、前世で悪いことをしたから障害者になった、という考え方がまだ残っています。

 

「障害者でも外の世界で輝いていいんだ!」、ボッチャが社会への扉を開くツールに

ホリ:今日初めて現地での活動の話を聞いたり、自分もボッチャを体験してみて、単純にスポーツを技術として教えることだけが開発途上国における国際貢献じゃないんだという感じが伝わってきました。一方で、ネパールのような開発途上の国に障害者スポーツを広めようというのが良いのか、他にもっとやるべきことがあるのではないかとも思いまして。

 

浅見:そういう見方もあるかもしれません。でも、障害者の方々に「選択肢」を持ってもらえるようにするということは、大変重要なのではないかと思います。

↑実際にボッチャを体験したホリさん。初対面同士でも、車椅子だとか健常者だとかの意識を忘れ、子どももお年寄りも関係なくシンプルに盛り上がれるゲームに「普通にムキになってた!」

 

浅見:先ほども少し話しましたが、ネパールでは障害者は生まれた時から「何もできない人」と刷り込まれているようなところがあります。社会的にも、障害者とは一緒にご飯を食べないとか、職にもつけない、というような差別的な風潮が、まだ残っています。そんな中で、車椅子の子がボッチャを覚えると「ボッチャの大会に出たいから会場に連れて行って!」と親や周りに頼む子も出てきて。

 

ホリ:ボッチャを通して、外の世界に積極的に出られるようになったと。

 

浅見:そうなんです。「自分はもっと前に出てよかったんだ!」「輝いてもいいんだ!」と前向きな気持ちが生まれてくるんです。ボッチャをきっかけに社会への扉が開く。またボッチャのボールも縫製工場の障害者の方々と試行錯誤で作ってみたら、しっかりしたものができて貴重な経験になっていますね。

↑障害者の縫製工場の方々と試行錯誤で作った、合皮やフェルトのボッチャボール

 

↑教育を受けていない村の女性は数字が読めず、規定の重さである275g±12gに合わせるのにひと苦労したというが、本格的なクオリティに!

 

ホリ:美味しいものを食べてる時はシンプルにみんなイイ顔しますよね。最終的にはそういうことなんじゃないかなと思う。食とかスポーツとかって、物事をいい意味ですごく単純にしてくれることがあるなって。

 

浅見:本当に、もっとシンプルにユニバーサルスポーツを感じて欲しいと思います。私もボッチャなどのスポーツを通して、障害の有無に関係なく参加交流できる場ができ、障害のある方が少しでも社会進出しやすい(ハードもソフトも)環境づくりのきっかけを、今後も作っていけたらと願っています。

↑半日ホリさんと過ごして地顔とものまね顔の区別がつかなくなった浅見さん。「どの表情がホリさんご自身?」の質問に、すかさずホリさんは「ちょ、待てよ!」と木村拓哉さんのものまねで締めてくれた

 

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