日本の政府開発援助(ODA)を実施する機関として、開発途上国への国際協力を行っているJICA(独立行政法人国際協力機構)の活動をシリーズで紹介していく「JICA通信」。今回は、カンボジアの職業訓練校と連携し、技
カンボジアの急速な経済成長を支える人材の育成に向け、質の高い職業訓練が求められています。JICAは2015年から産業界のニーズに応えるため、より実践的で質の高い職業訓練に向けた協力で製造業の中核を担う技術者の育成を続けています。
コロナ禍でも協力は途切れることなく続き、全国の職業訓練校で活用できる、電気分野の訓練カリキュラムや必要な訓練機材などをマニュアル化した「標準訓練パッケージ」が完成。今年9月に政府承認を受けました。これにより、現場ニーズにより即した職業訓練が推進され、知識・技術を培ったカンボジア人技術者の活躍が期待されます。
8月には専門家がカンボジアへ再赴任
「パイロット職業訓練校3校での開発機材を活用した実践的な訓練の経験を踏まえ、産業界とも協力し、ASEANの枠組みに準拠した標準訓練パッケージについて、今年3月、ドラフトがようやくまとまりました。4月からは労働職業訓練省内での作業が進められ、9月にプロジェクト活動後の目標であった政府承認までこぎつけました。当地関係者の努力の賜物です」
こう語るのは、このプロジェクトに厚生労働省から派遣されている山田航チーフアドバイザーです。3月下旬に新型コロナウイルス感染症の影響で一時帰国した後も、電子メールやSNSを活用して現地とのやりとりを継続。8月初旬には他の地域やプロジェクトに先駆けて首都プノンペンに再赴任し、いち早く現場での活動を再開しました。現地との対話を重視した連携が、今回の標準訓練パッケージの政府承認につながりました。
工場のラインマネージャーといった中堅技術者に求められる知識・技術が習得可能なディプロマレベル(注)の標準訓練パッケージが国家承認を受けたのは、カンボジアでは初めてです。
(注)ディプロマレベル: 短大2年卒業相当の中堅技術者(テクニシャン)養成教育
存在感を増す職業訓練校——カリキュラムの“質”のばらつきが課題だった
カンボジアでは産業構造の多様化や高付加価値産業の創出に向け、自国での人材育成が重要課題となっているものの、製造業の生産ラインマネージャーといった技術者は現在、第三国の外国人でほぼ占められています。そのため、カンボジア人技術者の育成に向け、職業訓練校の存在感がいっそう高まっています。
しかし、従来の職業訓練カリキュラムはそれぞれの訓練校が独自に編成していたため、その質のばらつきが大きな課題でした。そこで、このプロジェクトでは現地の日系企業を含む産業界から広くヒアリングなどの調査を繰り返し行い、生産現場で必要とされる実践的な知識と技術を明確化してカリキュラムを作成。また、訓練機材を部品レベルからカンボジア国内で調達し、プロジェクト終了後も職業訓練校の指導員たちが自分たちで維持管理できる体制を整えました。
プロジェクトで電気技術分野を担当する松本祥孝専門家は、この作業を振り返り、次のようにこれからの展望を述べます。
「カンボジアでは、都市部および国境付近の工業地帯とその他の地方では人材ニーズが異なるため、画一的にパッケージを実践していくのではなく、地域の人材ニーズに即して多少アレンジすることも必要かもしれません。また、地方校への普及活動では、パイロット職業訓練校の指導員によるTOT(Training Of Trainers)が必要であり、パイロット校3校の先導的な役割が求められます。これらの活動を通じて職業訓練全体のボトムアップひいては中堅技術者不足の解消に繋がることを期待しています」
カンボジア産業界と訓練校を繋ぎ、互いの信頼関係を築く
職業訓練校の最大の目的は、カンボジア産業界が求める質の高い人材を輩出し、現場で活躍してもらうこと。そこでプロジェクトでは出口戦略の一環として、パイロット訓練校が主宰するジョブフェアや企業の現役技術者向け有料技術セミナーの企画・開催などを通し、産業界と職業訓練校がより密に関わる仕組みを構築し、連携を深めてきました。
「これまでも職業訓練校では個別に細々と産業界との繋がりはあったものの、自ら主宰するイベント等は実施経験もなく、訓練校同士の情報交換や共有の場もほとんどない状態でした。プロジェクト開始後、パイロット3校と産業界、関係省庁を繋ぎ、積極的に働きかけ、彼らが主体のイベントを仕掛ける活動をしていった結果、徐々に関係者の結びつきや関係性が醸成されつつあります」と業務調整や産業連携を担当する齋藤絹子専門家は語ります。
ASEANグローバルサプライチェーンの一角を担い、地域の成長と繁栄に寄与することを目指すカンボジアでは、教育・職業訓練による人材育成は政府の最重要課題の一つです。このプロジェクトの今後について、山田チーフは「カンボジアの人びとが、関係者と手を携えて、人づくりの仕組みを持続的に改善していくことができるよう、引き続き協力をしていきたいと思います」と抱負を述べました。