日本の政府開発援助(ODA)を実施する機関として、開発途上国への国際協力を行っているJICA(独立行政法人国際協力機構)の活動をシリーズで紹介していく「JICA通信」。今回は、日本の食卓と関わりの深いモロッコの水産業に関する協力活動について取り上げます。
JICAの協力により岡山県玉野市の造船所で建造された最新鋭の海洋・漁業調査船が昨年12月、母港となるモロッコのアガディール港に向けて出発しました。まもなく現地に到着予定です。
約40年間にわたり、JICAはモロッコの水産分野に多様な協力を続けています。今では、その協力から得た知見を活かし、モロッコ自らが主体となり、サブサハラ・アフリカ諸国への協力が実現するなど、モロッコはアフリカの水産分野全体の発展を促す存在に成長しています。
実は、日本に輸入されるタコの約2~3割がモロッコ産で、マグロやイカなどおなじみの水産物もモロッコから多く輸入されています。美味しいたこ焼きやお刺身のタコは、遠いモロッコの海から運ばれ、そのモロッコの水産資源管理に協力しているのが日本です。日本の水産協力は現地の水産業を豊かにし、私たちの食卓にも深くかかわっているのです。
新造調査船の就航は、モロッコと近隣諸国の水産振興に貢献
「アフリカ第一位の漁獲量を誇るモロッコ。その約95%は沿岸・零細漁業者によるものです。小規模の漁業者が多いという点は日本ともよく似ています」
こう話すのは、モロッコ王国海洋漁業庁戦略・国際協力局で水産業振興の協力を行っている池田誠JICA専門家です。グローバルに叫ばれている海洋環境の保全や水産資源の持続的利用のための調査・管理といった課題に加え、モロッコは現在、1.資源の持続的活用、2.水産物の品質向上、3.付加価値化による競争力強化を水産開発の大きな柱としており、池田専門家は、現地の行政官らとともにヒアリング調査や計画づくりの業務に取り組んでいます。
「モロッコでは、多くの沿岸・零細漁業者はイワシなどの小型浮魚を獲っています。そうした魚種は海洋環境変動の影響で資源量が大きく増減するため、継続的な海洋・資源調査がとても重要です。魚に国境は関係なく、モーリタニアやセネガルなど近隣諸国沿岸へも回遊するので、今回の最新調査船による調査データは、モロッコだけでなく広く西アフリカ各国に裨益することが期待されます。」と池田専門家は今回新たに就航した調査船への期待を語ります。
40年以上の多面的な協力が日本の食卓を豊かにする
日本とモロッコの国家間での水産協力の歴史は長く、1979年まで遡ります。以来JICAは、漁業訓練船・機材の供与や技術訓練、沿岸・零細漁業の振興や水揚場整備、さらに水産資源研究など、モロッコの水産業全般を網羅して協力を継続してきました。
モロッコと日本は、長年にわたり水産分野での友好関係が続いています。そんな歴史のうえに、日本の食卓にはリーズナブルでおいしい タコやマグロ、イカなどが並べられています。
こうしたなか、前任専門家から引継ぎ昨年から池田専門家が携わっているのは、過去にJICAの協力で整備された水揚場を進化させる計画づくりです。
「水揚げ場では、輸出市場の求める衛生管理への向上、観光など新たな経済活動への展開、そして整備当時の想定よりも増加している利用者への対応などが必要になっています。現在、海洋漁業庁の行政官や同分野の関係者と検討を進めているところです」
モロッコはサブサハラ・アフリカ諸国の水産業を牽引
今やアフリカ随一の水産大国となったモロッコは、水産分野における南南協力(注1)でも長い歴史があります。そのなかでJICAはモロッコで1990年代から第三国研修(注2)をサポートしています。
注1:開発途上国の中で、ある分野において開発の進んだ国が別の途上国の開発を支援すること
注2:途上国間の学び合いを支援するプログラム
池田専門家はモロッコ水産業の発展性とその実力について次のように述べます。
「私は以前セネガルで7年ほど水産分野の振興に携わっていました。その際サブサハラ・アフリカ諸国の水産行政官と話す機会があり、『モロッコでの第三国研修参加の経験を活かして自国で新しい制度を構築した』といった話を少なからず耳にし、日本とモロッコの協力の成果が活かされているという実感を抱きました。また、モロッコの方々に何かアイデアを提示すると、それをヒントに現場の実情に合わせて新しいアイデアを生み出すなど、皆さん、柔軟さと発想力に長けている印象があって、そうしたモロッコ人の特長が水産業振興に発揮されているようにも感じています」
そして、「JICAは新たに、モロッコにおいて環境調和と地方開発を志向した貝類・海藻養殖開発の技術協力をスタートさせます。新型コロナウイルスの影響で、今はオンラインによるリモート協力にならざるを得ず、なんとも歯がゆいです。一刻も早いコロナ禍の収束を願っています」と今後について語ります。
国連食糧農業機関(FAO)によると、動物性タンパク質摂取量に占める水産物の割合が20%を超える国には日本やアジア等と並んでアフリカの国々が挙げられます。新しい海洋・漁業調査船の建造や、池田専門家が取り組む水揚場の計画づくりなど、一つ一つの水産協力は現地の食卓と経済を豊かにし、さらには日本の食卓を彩り、ひいては海洋・水産資源を保全し、持続可能な形で利用するという目標とも深くつながっていきます。