日本の政府開発援助(ODA)を実施する機関として、開発途上国への国際協力を行っているJICA(独立行政法人国際協力機構)の活動をシリーズで紹介していく「JICA通信」。今回は、キルギスで行われている無印良品(MUJI)と連携した地域活性化の取り組みについて取り上げます。
中央アジアに位置するキルギスは、ソ連崩壞により独立した国の一つです。独立後の相次ぐ政変や、エネルギー資源に乏しく経済成長の原動力となる産業に恵まれないこともあり、経済的に停滞が続いています。JICAはキルギスで日本の「一村一品運動」を取り入れ、地域の特産品で経済を活性化させるプロジェクトを進めています。特産品の生産組織を運営する女性たちの自立にもつながっているこの取り組みは、グローバルに展開している日本の生活日用品ブランド無印良品(MUJI)と連携し、2020年に10周年を迎えました。
特産品の生産を担うことで 自信が生まれる
「キルギスの農村部では、女性が自由に村の外に出かけることが難しいなど、一般的に女性の家庭内の地位は低いです。しかし、このプロジェクトで特産品の生産を手掛け、収入を得て家庭を支えることで家庭内の地位が上がり、彼女たちの自立と自信につながっていきました」
2009年からキルギスのイシククリ州で一村一品(OVOP=One Village One Product)プロジェクトを担う原口明久専門家は、これまでの取り組みをそう振り返ります。一村一品とは、日本の大分県から始まった地域活性化の取り組みで、その名のとおり「各村で、全国・世界に通じる特産品を作ること」。イシククリ州は日本と中東を結ぶシルクロードの道中にあり、伝統的に羊毛の生産が盛んで、果実やベリー類の宝庫です。プロジェクトでは、フェルト製品やジャムといった特産品を、上質で付加価値の高い商品に作り上げます。
それぞれの村で廃校になった校舎や役場の建物を活用して、「コミュニティーワークショップ」という場所を設置。参加したい女性たちは誰でもここに集うことができ、特産品の生産技術を学び、商品の生産を担います。このワークショップで生産された商品からの収益は、生産者たちに還元され、村の女性たちが自らお金を稼ぐことができる仕組みです。
継続的に収益を上げることができる仕組みをつくる
OVOPプロジェクトで最も重要なのは、誰もが参加でき、かつ継続的に確実に収益を上げられるようにすること。そのため、プロジェクトでは商品開発から原料調達、販売、輸出といったロジスティック機能を担う「OVOP+1」の設立をサポートし、さらなる能力強化を図り、生産者と市場を結んでいます。
イシククリ州のOVOP+1には約2700名の生産者が登録されており、うち約90%が地元の女性たちです。このOVOP+1の活動は現在、キルギス全土に広がっており、「村に住み続けながら稼げる仕組み」を定着させることで、キルギス全体における女性の地位向上や若者の出稼ぎ流出の食い止めにつなげます。
原口専門家は、キルギスのOVOP+1の今後について、次のように語ります。
「OVOP+1のスタッフは発注者からの高品質な製品を求める声に生産者と共に応え、納品に対するプレッシャーを感じながらも、それを乗り越え、成功体験を重ねることで、ビジネスマインドを持つようになります。この循環によって、JICAのプロジェクトが終了した後も、この仕組みが続いていきます」
無印良品から商品発注が増え、コロナ禍で困窮する村の暮らしを支えた
このプロジェクトで生産された製品は日本でも購入することができます。日本で販売を手掛けるのは、無印良品(MUJI)ブランドを運営する(株)良品計画です。途上国での商品開発に向け、JICAと連携した「MUJI×JICAプロジェクト」は2010年から始まりました。
無印良品で販売するほかの商品と遜色ない品質とデザインが施されたキルギスのフェルト製品10~20種類が毎年、無印良品の店頭に並びます。商品がどのように生産され、地域にどのように還元されているかを考えてモノを購入するエシカル消費への関心が高まるなか、この10年で、無印良品からの発注額はOVOP+1の総売上高の約4割に相当します。
コロナ禍の影響により、農村部では家畜や農産物を近隣諸国へ出荷できず、また出稼ぎに出ている家族も出稼ぎ先で仕事を失うなどして仕送りも激減しています。村の住民たちが、現金収入源を失い経済的に困窮するなか、無印良品からの発注が増えて生産活動が続くことで、村の暮らしを支えています。
原口専門家は、「これまではクリスマス商品として一部の店舗のみでの販売でしたが、これからは無印良品の常設商品としての商品開発などについて(株)良品計画と協議しています。生産者と消費者が、本当に質の高い商品を通してつながることで持続的な関係が築き上げられると考えています。また、こういった連携事業を参考にして、多くの企業が途上国での生産活動に参画できるようになれば」と今後の期待を語ります。