ワールド
2021/3/10 16:00

モザンビークでサイクロン被害を最小限に食い止めた:東日本大震災の被災経験を活かし、災害に強いまちづくりを支える【JICA通信】

日本の政府開発援助(ODA)を実施する機関として、開発途上国への国際協力を行っているJICA(独立行政法人国際協力機構)の活動をシリーズで紹介していく「JICA通信」。今回は、東北との絆の中で、災害に強い社会を目指すアフリカ南東部のモザンビークでの取り組みを取り上げます。

 

いつどこで発生するかわからない自然災害に向け、JICAは途上国で災害直後の緊急支援から被災地の「より良い復興」に向けた協力まで、切れ目のない取り組みを続けています。そこには、あの東日本大震災からの教訓が活かされています。

 

昨年末にモザンビークにサイクロンが上陸。しかし、過去のサイクロンなどのデータをもとに作成されたハザードマップを使用して、住民と自治体が協働して準備した避難計画により、住民の速やかな避難が可能となり被害を最小限に食い止めることができました。住民の視点を活かした避難計画を作成するそのプロセスには、東日本大震災の被災地からの切実な声が反映されています。

↑ハザードマップをもとに避難計画を検討するモザンビーク・ベイラ市の防災担当者。災害に強いまちづくりには、防災・減災に向けた事前準備が重要です

 

住民をいち早く安全な場所へ。ハザードマップの重要性が明らかに

「サイクロン・イダイの時は、事前に取るべき行動が分からず混乱しましたが、今回のサイクロン・シャレーンの際は、事前に、スムーズな避難が可能となり、被害を最小化できました」

 

そう語るのは、モザンビーク・ベイラ市のダビズ・ムベポ・シマンゴ市長です。2019年3月にベイラ市を襲ったサイクロン・イダイは、死者数650名、国内避難民40万人という甚大な被害をもたらしました。その教訓をもとに、JICAは2019年9月からベイラ市で災害に強いまちづくりに向けたプロジェクトに取り組んでいます。

↑2019年3月、サイクロン・イダイの襲来時の様子(左)。避難計画はまだ未整備で、大雨で寸断された道路を前に、立ち往生する住民があふれました(右)

 

そのさなか、2020年12月30日にサイクロン・シャレーンが襲来。イダイの経験から、ベイラ市では、関係機関が連携して避難を呼びかけ、住民は安全な施設へ事前にかつ円滑に避難することができ、被害を最小限に抑えることができました。

↑シャレーン上陸前日に記者発表して住民に避難を呼びかけるベイラ市長

 

「モザンビークの復興支援では、これまでの支援経験を活かし、スピード感をより一層もって取り組むことを心がけています。サイクロン・シャレーンのときも、その直後の今年1月23日のサイクロン・エロイーズのときも、プロジェクトでいち早く作成支援したハザードマップを使用して、住民と自治体で作った避難計画が実施されたことが人的被害を最小限に抑えることにつながりました」。平林淳利JICA国際協力専門員は進行中のプロジェクトの成果を語ります。

 

「災害を風化させてはいけない」—モザンビークの人々の心に響いた宮城県東松島市民の声

災害に強いまちづくりには、平時から誰もがどれだけ防災・減災に向けた準備ができているかが大きな鍵になります。このプロジェクトでは、モザンビーク復興庁のフランシスコ・ペレイラ長官はじめ、国家災害対策院長官ら、復興や減災に取り組む国のリーダーたちを日本に招いて東日本大震災の被災地視察や関係者との意見交換などを実施。災害を経験した人々の声にも耳を傾けました。

↑モザンビーク復興庁長官らを招いた研修で、当時の状況を説明する東松島市復興政策部の川口貴史係長(左)

 

被災地での研修に同行した平林専門員は、とりわけ宮城県東松島市の被災者たちとのやりとりがモザンビークのリーダーたちの災害に強いまちづくりへのモチベーションを高めたと振り返ります。

 

「東松島市の被災者の皆さんからは『3.11では世界中から手を差し伸べいただきました。今度は私たちが恩返しをする番です』との言葉があり、モザンビークのリーダーたちの感動とやる気を呼び起こしました。また、東松島市復興政策部の川口貴史係長には、まだ地元の復興が道半ばでありながらもモザンビークまで来て頂き、住民らに復興の経験を話してもらいました。『自然災害はいつ起こるかわからない。住民も行政官も、自分事として復興・減災に取り組むことが大切です!』という川口係長の生のメッセージも響いたと思います」

↑モザンビークで東松島市の復興経験と教訓を話す川口貴史係長(中央)

 

こうした東北の人々の「災害を風化させてはいけない」という想いが、モザンビークでの災害に強いまちづくりの下支えとなり、ハザードマップの理解と活用や住民と自治体による避難計画作りと実施といった実情に則した防災・減災への取り組みへとつながっていったのです。

↑避難経路を確認するベイラ市の防災担当者ら

 

より良い復興に向け、住民と自治体の合意形成が不可欠

平林専門員は現在、コロナ禍でモザンビークへの渡航がかなわないなか、プロジェクト関係者とともにリモートでの協力を続けています。不安定な通信環境と格闘しながら、ドローンや360度カメラを駆使して、現地の行政官やコンサルタント、建設業者の皆さんとオンラインで、被災地での建設工事などにも取り掛かっています。

↑これから建設が始まる小学校の工事現場の様子。360度カメラ映像をみながら、日本からリモートでの支援が続きます

 

プロジェクトチームは、現地の人々に寄り添い、東日本大震災の経験を踏まえ、日本の知見を現地で適用できるよう尽力しています。復興に向けた取り組みは「ハード整備と同時にソフト面の強化」、つまり住民と自治体がともに復興及び防災・減災に取り組んでいく丁寧なプロセスが大切だと平林専門員は強く訴えます。

 

「スピード感を持ちつつも『急がば回れ』で、より良い復興はキメ細かな被災者との対話を重ねた合意形成をしつつ進めることが重要です。日本では東日本大震災以降、『復興における住民と自治体の合意形成』という基本思想の重要さが改めて確認されていますが、途上国ではまだまだ認識されてはいないのが現状です。命を守るためにどのようにまちを復興していくか計画し、被災住民、政府高官、自治体の職員の皆が災害リスクを共に理解し、意見と知恵を出し合って災害に強いまちづくりを進めていくことが大切です」

↑プロジェクトの協力により、ベイラ市職員と地区代表者が一緒に防災ワークショップを開催。東日本大震災の復興知見がアフリカの地でも役立っています

 

※この記事を制作中の2月22日、ベイラ市のダビズ・ムベポ・シマンゴ市長が新型コロナウイルス感染症により急逝されたとの知らせが現地より届きました。サイクロン・イダイの災害直後から、ベイラ市の復興に精力的に取り組まれてきた市長の突然の訃報に、プロジェクト関係者一同大変な大きな悲しみに包まれております。シマンゴ市長の復興への強い決意に報いるためにも、現地での協力により一層尽力していく所存です。シマンゴ市長、これまで本当にありがとうございました。ご冥福を心よりお祈り申し上げます。

プロジェクト関係者一同より