ワクチンの接種率が上がれば、規制緩和。そんなムードが漂うコロナ・パンデミック2年目の初夏。昨年春の感染拡大以来、あまり日本では話題にならないイタリアも、ただいまワクチン接種に夢中になっています!バカンスとワクチンの話題一色(二色?)のイタリアから現地情報をお届けします。
知られざるイタリア現在の感染状況
まずは、イタリアの現状から。昨年春の感染拡大で話題になったイタリアですが、その後はいったいどうなっていたでしょう?
悲劇から一転、第1波は全国一丸となった厳しいロックダウンで抑え込み、比較的陽気で浮かれた夏を迎えましたが、秋には第2波が到来。全国を“色分け”して規制する新しい対策が実践され、再び感染が落ち着いた…ところでクリスマス!予想通りに年始明けから第3波が始まりました。
そこからまた規制と緩和を繰り返し、年末からスタートしたワクチン優先接種の効果もあったのか、4月に入ってようやく感染者数が減少傾向に。高齢者へのワクチン接種もかなり進行した4月後半から、規制緩和が始まっています。
■イタリアの色分け規制とは?
10万人あたりの新規感染者数や実効再生算数、病棟逼迫率、感染経路不明率など、20以上もの指標をベースに、全国20ある各州を危険度別にレッド・オレンジ・黄・白に色分け。それぞれのカラー毎に規制が設けられます。
赤ゾーン:商店・飲食店共にクローズ、移動は近所まで、など
オレンジゾーン:商店はオープン、飲食店はクローズ、移動は市内まで、など
黄ゾーン:飲食店〜18:00まで営業、移動は州内まで、など
白ゾーン:マスク、社会的距離など基本的感染対策のみで、ほぼ日常に!(ただしディスコはNG)
毎日詳細に報道される感染状況とは別に、毎週金曜日にイタリア高等衛生研究所ISSにより翌週の色分けを発表。4月末の緩和政策により、黄色ゾーンで飲食店の営業が22時までに延び、さらに外テーブルでの飲食も可能に。また全国一律で夜間外出規制が22時から23時、24時と順次延長されています。
最近の感染状況は?(6月2日)
新規感染者数 2897名
検査数22万6272件
陽性率 1.2%
死者数 62名
現在重症者数 933名
緩和すれば再拡大のお決まりコースでしたが、ワクチン対策の効果が出てきているのか、現在のところ減少傾向を保っています。5月中旬には全国で黄ゾーンになり、現在、3つの州が憧れの白ゾーンで、6月7日からは6州になる予定。そして、6月末には全国が真っ白になる予測が立てられています。
ワクチンはバカンスへのパスポート
さて、ゲームチェンジャーとも言われるワクチン。イタリアでは、優先接種が12月末から(介護施設スタッフや薬剤師も含む医療関係者、および重篤な持病のある人)、次いで学校関係者、警察などへ。2月後半からは年齢別一般カテゴリーが始まりました。80歳以上、70歳以上、60歳以上、そして5月からは50代、40代と順次対象年齢が下がり、5月後半からは口頭試験のある卒業年度の学生、州によっては12歳以上も対象になりました。
全国のワクチン接種状況は、政府が管理するサイトやメディアが独自に作るサイトで、全国の接種率、在庫、年齢層、カテゴリー別など、現状を把握することができます。現時点で接種率36.63%(少なくとも1回接種した人の割合)、2回接種済みは19.09%。
またTVの24時間ニュースチャンネルでは、画面右上に刻々と変わる接種者数速報(人数、2回目接種の割合、70歳以上の接種割合)が出っ放し。いかにも気合を入れて接種率アップを目指しているのかが、伝わってくるようです。
イタリアの国民が一丸となって何かに取り組む姿は、サッカーのW杯くらいでしか見たことがありませんでしたが、コロナ禍ではたびたび目にしています。サッカーと命とバカンス。ワクチンは、イタリア人が人生において最も大事にしていることのひとつであるバカンスへの扉を開く鍵となるのでしょうか?
6月中旬から実施予定の欧州グリーンパスポート。実は国内ではすでに始まっており、ワクチン接種済み、もしくは48時間以内のPCR検査陰性証明、または罹患済みを条件に国内での移動が自由になっています。
老人一人連れてきたら、ワクチン接種をプレゼント!?
優先接種にひと段落ついた4月からは、イタリア各地で予約なし接種ができる「オープンDay」や、真夜中(&人気のない)アストラゼネカ限定の「アストラ・ナイト」が始まり、5月からは年齢制限も緩和。各州で在庫状況に沿った独自の展開になってきました。
ワクチン担当はイタリア市民保護局。イタリア郵便局が作成した全国予約システムと各州の予約サイトがひも付けられ、とてもわかりやすいのが特徴です。
例えば、ここシチリア州では5月初旬に「16歳〜59歳の軽い持病のある人(ホームドクターの証明書必)」を解禁。また年齢カテゴリーの40歳以上への接種が解禁されると同時に、州都パレルモでイタリア初の24時間打ちっ放しパビリオンが開設され、「お若い方は、空いている真夜中にどうぞー」とあの手この手で接種を促進しています。
ただ、優先接種である高齢者の接種が完了しているわけではないので、大型接種会場は40代、50代…から80代、さらにファイザー、アストラゼネカ、モデルナの2回目接種の人などなど、さまざまなカテゴリーが混在することになり、実際ものすごいカオス。
筆者のカオスな大型接種会場体験記はこちら。下見に行ったら「打ってく?」と誘われて…予約なしで接種完了。不安のせいで医務室行きになりましたが、今のところ無事です。
最近は、どうしても腰の重いお年寄りへの接種を促すために、「老人を連れてきたら、付添人にももれなくワクチンプレゼント!」なる企画も開始。「アナタの大事な祖父母を守ろう」という心がホッコリするコンセプトで紹介されましたが、対象は親族に限らず、人数制限もなし。実質は、「近所のまだ未接種の老人を探し出せ!」ということ。ニュースを見ると上手く機能しているようです。
ワクチンで世界は救えるか?
今は、2回目接種を居住地ではなく、バカンス先で受けられるかどうかに注目が集まっています。国全体としての決定はまだ先で、各州で調整に入っているところですが、シチリアではすでに居住者ではない人への接種も始めており、シチリア周辺に浮かぶ美しい島々のひとつ、エオリア諸島で全島民の初回接種時に(5月中旬)、たまたまローマからバカンスに訪れていた親戚カップル(20代)がついでに打ってもらったり、パレルモに長期滞在する住民票なしの外国人も接種したり。
ワクチン接種開始当初は「ズルして先に打つ人」がニュースになったものの、もはや「そこにいる人に打ちまくる」フェーズ。各州での見解の差はありますが、だいぶ柔軟に応変に対応していくであろうことは、好ましい感じがします。
先ごろ、イタリアのドラギ首相がフランス、ドイツと共にアフリカへのワクチン支援を表明し、「命、経済、社会を守るために、世界で終わらせないと終わらない」と発言しました。まずは自国民、地元民が優先されるのは致し方ないけれど、準備ができたら素早く隣に手を差し伸べて。そうして世界で同時に、再び平穏な時を取り戻せれば良いですよね。ワクチンが世界を救うかどうかはまだ誰にもわかりませんが。
今は、ワクチン接種に沸くイタリア。「ワクチン打って海へ!」と盛り上がり、今月に入って国内で900万人が旅行しているデータもあります。フランス人、ドイツ人など近隣からの旅行者も多数。夏に向けて、今後はさらに人の動きは活発化するでしょう。
でも、変異株の流入・再拡大の懸念が払しょくされたわけでもありません。そしてまだ、亡くなってしまう方がいるのも事実。緩急のメリハリがあるのは良いことかと感じますが、緩みすぎず再開の夏を楽しみ、収束の秋を迎えられることを願ってやみません。