多くのイタリア人は、家の中の美観に並々ならぬこだわりを持っています。家に人を招待して食事をすることが大好きなので、彼らの家を初めて訪ねると必ず待っているのが、整理整頓された自宅の見学ツアー。そこでよく疑問に思うのが、どうすれば家をこれほどきれいに保つことができるのか? そこで今回は、片付けが大の苦手なイタリア在住6年の筆者が、イタリア人から学んだ「家の整理整頓術」を紹介します。
家は社交の場
日本人にとって自宅はとてもプライベートな空間かもしれません。しかし、一般的にイタリア人にとって家は「社交の場」であり、友人や親族などと時間を過ごす場所という感覚に近いようです。
「人を招き入れる」という意識が強いことから、見せることを前提とした空間づくりを心がけているのです。初めての訪問ではリビングやキッチンだけでなく、ベッドルームやトイレなど隅から隅まで見せてくれます。
筆者がイタリア人と共同生活を始めて2年弱が経ちましたが、一番驚いたのがゴミ箱の少なさ。日本ではリビング、キッチン、寝室、トイレ、洗面所と各部屋に設置している家庭が一般的ですが、イタリアではそうではありません。必ずと言っていいほどイタリア人はゴミ箱をキッチン下の扉内、もしくはベランダなど外の空間にまとめて設置します。
便利さよりも「美しくない物は見せない」という見た目の美しさを重視するイタリア人ならではのこだわりと言えるでしょう。ある調査では、アンケートに参加した10人中6人が家を整理整頓することを重視していることが分かりましたが、外側の美しさを大事にする考えがその価値観を支えているとも言えそうです。
ちなみに、筆者の自宅にはリビング・寝室を含む4部屋とバスルーム(洗面所・トイレ・シャワーが一体化した空間を指す)がありますが、ゴミ箱があるのはキッチンのシンク下と、2つあるバスルームのうちの1つだけ。最初はとても不便に感じていましたが、慣れてしまえば特に気になりません。
「見せる収納」対「見せない収納」
日本のキッチンをYouTubeで見た複数のイタリア人が「なぜこんなに散らかっているの!?」と私に尋ねました。動画を確認したところ、筆者には整理されている普通の台所にしか見えません。
どうやら彼らには、調理器具や調味料がいつでも手に取れる位置に置いてあることが気になるようです。特に、醤油やソースなどが並んでいるとデザインに統一感がなく、整理整頓されていない印象を与える模様。「見せる収納」が基本である日本の家は、片付いていないように見えてしまうのです。
対照的に「見せない収納」を尊重するのがイタリア人。フルーツを盛りつけたカゴや、コーヒー粉を入れた美しい陶器など、インテリアの一部にもなり得るようなものだけを厳選してキッチンに置いています。
日本人の片づけといえば、「こんまり」メソッドが米国などで昨今ブームになりましたが、それでさえイタリアで話題になったことはないと思われます。家族のつながりや古い歴史を持つものを大切にするイタリア人には、「心がときめかなければ捨てよう」という考えは受け入れにくいようです。
では、イタリア人は「捨てられないけど保管しておきたい(大量の)物」を一体どこに収納するのか? その答えは、物置やガレージです。彼らはこれらのスペースを上手に利用しており、単身用のアパートでも、地下に小さな個別の専用スペースが用意されているケースが多く、家の中に収納しきれない物はそこで保管します。
自宅を美しく保つことに強いこだわりがあるイタリア人は、物を「見せない」テクニックに長けています。それは逆に、自宅のプライベート空間まで人に「見せる」ことが前提となっているからでしょう。
友人や知り合いを頻繁に自宅に招いて食事や会話を楽しみたいという思いがある限り、モデルルームのような家がイタリアからなくなることはなさそうです。でも、そんなイタリア人の整理整頓術や考え方には、日本の家の片付けにも使えそうなヒントがありそうですね。
執筆/素山えりか