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2023/10/13 6:00

日本を食った中国で台頭する、意外な「家電大国」はどこ?

世界の白物家電業界を動かす中国。しかし現在、同国の市場で台頭している国があります。

↑家電製品たち、君たちはどこから中国にやってきたの?

 

それはトルコ。

 

トルコ? 白物家電において日本の消費者にはあまり馴染みがない国かもしれません。外務省の資料を見てみると、トルコの主要貿易品目の輸出には「機械類(11.1%)」や「電気機器・部品(5.3%)」と書かれています。日本はトルコの主要援助国なのですが、トルコの主要貿易相手国の輸出において日本はわずか0.2%で第71位。大手家電量販店でトルコブランドをあまり見かけなくても変ではない気がします。

 

トルコの代表的な白物家電メーカーの中には「ベコ(Beko)」があります。親会社は「アルチェリク(英語表記はArcelik)」で、2021年に日立製作所から家電事業を買収したことでも知られています。日本でもベコの食洗機や洗濯乾燥機は販売されていますが、ベコの製品を知らなくても、サッカーファンなら同社がスペインのFCバルセロナの公式スポンサーであることは知っているかもしれません(かつては英・プレミアリーグのクラブやFA杯のスポンサーになっていたことも)。

 

どうやってトルコのメーカーは中国で人気を伸ばすようになったのでしょうか? ベコが欧州でスポーツビジネスを展開してきたように、トルコのメーカーは海外市場の開拓に注力してきました。例えば、アルチェリクはトルコがEUに加盟した1990年代半ばに海外に進出。グローバル市場における売り上げの多くは西欧諸国(特にドイツ)が占めてきたようです。西欧で売れている理由について、英国の経済紙・The Economistはこう述べています。

 

ベコのキッチン機器や他の家電製品は、金融危機で消費者の需要が低価格な製品に移行したので、英国で最も人気がある家電ブランドの1つになった。

 

ベコの魅力の1つは価格にあるようです。以前からトルコ政府は製造業を支援してきました。国家が介入して、重要な産業を補助金で保護し、外国企業との競争は避ける。トルコの経済史にはそんな過去があります。1980年代に経済政策が変わったものの、EUに加盟した後でも政府の支援は何らかの形で続いている模様。トルコに移住する人に向けたあるサイトは同国の白物家電事情についてこう述べています。

 

品質が良いことに加えて、トルコブランドの白物家電の特徴は、政府が自国のメーカーを支援しているため、価格がかなりお手ごろであるという点です。

 

そして、トルコのメーカーは中国市場に目を向けます。中国国営英字紙のチャイナ・デイリーによれば、早い段階で一帯一路に参加したトルコから中国が輸入した白物家電の金額は、2022年に約78億円(※)に上り、特に冷蔵庫が人気を集めているとのこと。ベコは北京や上海などの都市に計946店舗を構える一方、中国のさまざまなeコマースプラットフォームでも旗艦店を運営しているようです。業界の事情通は、トルコのメーカーが中国における研究開発や中国メーカーとのコラボに大きな可能性を見出しているといいます。
※1ドル=約149円で換算(2023年10月12日現在)

 

研究開発はトルコメーカーの強み。アルチェリクはトルコ最大の産業コングロマリットの1つであるコチ財閥が所有しています。資本が潤沢なので、同社は研究開発に積極的に投資してきました。その結果、中国の白物家電市場においてトルコが中国に次いで2位に上り詰めたという見方もあります。

 

そんな自国ブランドの発展はトルコ人にとっても誇り。トルコのデイリー・サバ紙は「トルコは白物家電市場において世界有数の製造国として知られている」と自信たっぷりに述べています。この新聞社は政府に近いとされていますが、国内メーカーの凋落を嘆く日本のメディアと論調が違うことを感じてしまいます。

 

白物家電市場において日本を食った中国をトルコが食う日は、いつかやって来るのでしょうか?

 

【主な参考記事】
China Daily. Turkish home appliances gain popularity in China. September 28 2023