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インテリア
2019/6/21 17:00

音楽と家具は似ているーー創業142年の老舗5代目社長が挑む「IT家具屋」とは? 内藤家具インテリア工業の魅力

↑ARUNAiの東京ショールームでインタビューに応じてくれた内藤家具インテリア工業株式会社の内藤大二朗代表取締役

 

住宅展示場やモデルハウスで素敵な家具を見かけたら、それはこのブランドかもしれません――。

 

大手ハウスメーカーをはじめとするビルトイン収納の生産を数多く手掛ける老舗インテリアメーカーの内藤家具インテリア工業株式会社。山梨県に本拠地を構える同社が2010年に立ち上げた「ARUNAi」ブランドは、クオリティ、デザイン、カスタマイズ性を高い次元でバランスさせていると評判です。ARUNAiとは一体どのようなブランドなのでしょうか? 同社の内藤大二朗社長にお話を伺いました。家具を見ただけでは分からない作り手の人間性や美意識という視点から、そのスピリットに迫ります。

 

内藤家具インテリア工業株式会社とは?

1877(明治10)年、内藤工業所が創業。1915年より洋家具製造・販売を開始する。1966年「NKファニチャー」製造販売スタート。1970年から、他社に先駆けビルトイン収納家具を取り扱う。1988年、内藤家具インテリア工業株式会社を設立。2006年、内藤大二朗氏が代表取締役社長に就任。2010年、高級収納家具ブランド「ARUNAi」を立ち上げる。同ブランドを含めた販売・納入実績は2019年現在、延べ50万棟を優に超える。

↑ARUNAi 東京ショールーム

 

家具づくりの土台を築いた音楽

――かつてプロのミュージシャンを目指されていたそうですね。

 

内藤大二朗社長(以下、内藤) 物心ついたころには、家のなかにロックが流れていました。5つ上の兄の影響が大きかったですね。私が小学校低学年のころにはラジオから音楽ランキング番組が流れ、テレビでは様々なミュージックビデオが放送されていました。1980年代初頭はまだアナログのレコードがあり、LPのジャケットが本当にカッコよくて、しびれました。

 

――どんなアーティストがお好きだったのですか?

 

内藤 当時は耳に入ってくる音楽や目に飛び込んでくるアーティストたちのファッションはすべてが新鮮で、YMOや忌野清志郎、レッド・ツェッペリンなど、いろいろな方が好きでしたね。中学生のときにコピーバンドを結成し、高校ではオリジナル曲を作ったり、学園祭に出たりもしました。80年代後半はちょうどバンドブームが起きていましたが、私はどちらかというとパンクロックが好きで、「東京に出て、将来は音楽で飯を食いたい」と真面目に考えていました。

 

大学生活ではバンド活動とバイトに明け暮れ、ライブハウスに通い、さらに好きなCDを買っては聴きまくるという音楽三昧の日々でした。楽曲だけでなく、そのアーティストがこれまでどんな影響受けてきたのか、音楽で何を表現したいのかなど、文化や歴史、政治、経済、哲学といったバックボーンも知りたくなり、深掘りするようになりました。

 

探求していくと、興味の対象がどんどん広がっていき、サイケデリックな楽曲や世界観にハマっていきました。ワールドミュージックからも多大な影響を受けましたね。例えば、大学卒業後にはインドのバラナシに民族楽器シタールの演奏を習いに行ったこともありました。音楽の世界を知れば知るほど、自分がまだ知らないことだらけなのが分かり、次から次へと興味が湧いていきます。これは音楽に限った昔の話じゃなくて、いまも感じることです。

↑家具の配置にもリズムがあると内藤社長は言う

 

――音楽からインテリアへキャリア転換された経緯を教えてください。

 

内藤 東京に出るとき、20代のうちに音楽でメジャーとして活躍できなかったら家業を継ぐという約束を父としていました。残念ながらそのような活躍はできず、30歳で内藤家具インテリア工業に入り、倉庫番からスタート。工場で家具づくりを一から経験しましたが、モノづくりに一気にハマってしまいました。

 

――音楽とインテリアの間に共通項はありますか?

 

内藤 かなりあると思います。例えば、作曲のときにシンセサイザーで音を作り演奏して多重録音していくわけです。リズム帯を入れてギターを重ねて、アタック音はこうして、リバーブはこんなふうに残してといった具合に構成していくんですね。実は家具づくりやインテリアデザインも、素材を選び、色彩やテクスチャなどの要素をどう組み合わせていくかといった作業なので、両者に通じるところはあると感じています。

 

ただ、私がやっていた音楽は往々にしてノイズやカオスに向かっていくので、その点、家具やインテリアは基本的に秩序や規則性でまとめていきますから、最終的な表現は異なります。しかし、「これだ!」という空間やデザインに出会ったときは、自然と音楽が聴こえてくるもの。音を聴いて心地よく感じることと、その空間にいて安らげる、癒されるといった気持ち。つまり感性として捉える部分は音楽とインテリアに共通しているのではないでしょうか。音楽もインテリアも私たちの心を豊かにしてくれるものだと思います

「IT家具屋」を志向する理由

内藤家具インテリア工業は「IT家具屋」という方向性を掲げています。これは、データを活用して家具の生産を管理すること。その意図はどこにあるのでしょうか? 同社のモノ作りの核心に迫ります。

↑山梨の工場では、職人たちが良質な木材を丁寧に加工している

 

――貴社が目指す「IT家具屋」について教えてください。

 

内藤 とりたてて標榜しているつもりはありませんが、その名のとおり、一言でいえば「情報」を家具づくりに生かすということです。昔からの伝統やこれまで培ってきた匠の技などは大事にしつつ、時代に合った家具づくりを考えなければなりません。

 

ここで簡単に日本の家具産業の流れについてお話しさせていただくと、第二次世界大戦後から1960年代まではGHQ向けの収納家具を皮切りに、高度経済成長に乗って国内の箱物置き家具や婚礼家具の需要が増えました。さらに70年代に入ると、大手ハウスメーカーさんが “マイホーム”を工業製品として作っていきます。

 

弊社はもともと婚礼家具などを扱っていたのですが、「これから家具は家に付随する時代になっていくだろう」と判断し、業界でいち早くビルトイン収納にシフトしました。70年代~80年代は「少品種大量生産」の時代で、モノを作れば売れていました。しかし、90年代にバブルが崩壊すると時代は「多品種少量生産」に移行していきます。この時代では、材料の調達や在庫管理、工程や物流計画などに関して、従来以上に精度の高い情報管理が求められます。それに対応するために、ITを活用して、これらの情報を一元管理できるように切り替えていきました。

↑プライベートキャビネット「GALLERIA CONCERTO」。ワークスペースとテレビボード、飾り棚が一体となった贅沢な壁面収納

 

――「作って売る」から「要望に合わせて作る」に変わった?

 

内藤 はい。昔はいわゆる「プロダクトアウト」でしたが、いまは「マーケットイン」で、消費者のニーズにどれだけ的確にスピーディに対応していくかということが重要です。高い品質を維持しながら、できるだけコストを抑えつつ、欠品しないようにして納期を間に合わせる。このなかでタイミングを逸しないように、情報を積極的に活用していこうと考えています。いまは加工機械などもネットワークでつなげたり、各工程をカメラで撮影したりして進捗や稼働率などを可視化しています。

 

また、情報の即時性の活用でいえば、仮組や検品などの段階でお客様に画像なり映像をご提供したり、「ご注文いただいた家具はあさって届きますよ」とお知らせしたり、お客様にもっとご満足いただけるようなサービスにつなげていきたいですね。お客様との接点を増やしていくというイメージ。近い将来、AI技術や5G通信などの活用も視野に入れています。

「間」にこそ美がある

↑リビングキャビネット「HORIZON」。光のグラデーションがオブジェを優しく包み込み、視覚的にワンランク上の心地よさを演出する

 

――ARUNAiとは、「ありやなしや」「有無」といった意味からのネーミングなのでしょうか?

 

内藤 よく初対面の方には「南アルプス市の内藤家具インテリア工業の略で『アル内』です」なんて答えることもあります。覚えていただきやすいので(笑)。しかし本当のところは、解答を導き出すための“おまじない”みたいなものなんです。世の中は黒と白にだけ分かれているわけでありません。むしろ、その間のグレー部分にこそ物事の本質や人の感情があるじゃないですか? 例えば、クラシック音楽にジョン・ケージの「4分33秒」という曲がありますが、これは無音なんですね。初めて聴く人はビックリしますが、聴衆は自分なりにいろいろ考えるわけです。つまり、答えは自分の中にあるんです。

 

それと同じように、ブランド名には「探す楽しさ」「悩む楽しさ」「決めていく楽しさ」を一緒にお手伝いしていければという想いを込めました。お客様の心のなかに「ある」イメージを、何も「ない」スペースに創出していく。そんなコンセプトなんです。

 

――抽象的なお話ですが、ARUNAiの物質的な特徴は?

 

内藤 弊社はすべて企画から設計、製造から施工までを山梨の工場において一気通貫で行なっています。ご注文いただいてから丁寧に製作に取り掛かり、先述の通り、生産工程はリアルタイムに進捗管理し、部材類は基本0.5mm以内の精度で仕上げていきます。

 

また、ARUNAiは木目を通しており、壁収納の扉などには突板(つきいた)をメインに使用していることも特徴。突板は世界中で大昔からある部材で、天然木の丸太をダイコンのかつら剥きのように0.2mm~0.6mmに薄くスライスしたもの。海外のアンティーク家具などでも使われており、無垢の木材同様に木の手触りを感じられ、年を経るごとに味が出て風合いも増してきます。しかも無垢の一枚板に比べれば、お手ごろな価格です。

↑突板扉の製作

 

――ARUNAiはセミオーダーシステムなのでしょうか?

 

内藤 完全なオーダーメイドというより、セミオーダーと表現したほうが当たっています。無限の組み合わせができるわけではありませんが、「スタイル」「デザイン」「機能」のステージがあって、スタイルの中に「素材」「色彩」「質感」「形」「光」「動き」といった6つの造形要素を組み合わせることができますから、その方なりの個性を演出できるものと自負しております。

 

――ARUNAiの将来について教えてください。

 

内藤 これまで私どもでは、その時代ごとの「モダン」を追求してきました。現在、日本のインテリアのトレンドは、イタリアで開催される「ミラノサローネ国際家具見本市」に影響されがちなのですが、日本人なりのモノづくりのよさを提案し続け、できれば日本独自のインテリアというものを確立していきたいと思っています。実際、いまはカスタマイズされる方が多数を占めており、例えば、キッチンは奥様が、書斎はご主人が徹底してカスタマイズしたいとか、こだわりを持ったお客様がめずらしくありません。ステレオタイプに決めつけることなく、自由な発想で令和の時代のインテリアをご提案していければと計画しています。そして、将来的にはトータルコーディネートや総合的な空間デザインなども行なっていければと考えています。

↑木目が美しいジュエリー棚

 

内藤大二朗氏

1973(昭和48)年、山梨県生まれ。2004年、内藤家具インテリア工業株式会社に入社。在庫管理や商品出荷などを担う。2006年、父・内藤悦次氏(現会長)の跡を継ぎ、5代目社長に就任。経営と生産のIT化を精力的に推し進め、2010年、ARUNAiブランドを立ち上げ。最新技術と職人技を機能的に融合させ、“オンリーワンの感動品質”を目指す。

 

[ショールーム情報]

ARUNAi 東京

所在地:東京都新宿区西新宿3-7-1 新宿パークタワー リビングデザインセンターOZONE 5F

TEL:03-5322-3767 FAX:03-6279-0708

営業時間:10時30分~19時

定休日:毎週水曜日(祝日は除く)・夏期・年末年始

 

ARUNAi 横浜

所在地:神奈川県横浜市西区みなとみらい2-3-1 クイーンズタワー A棟 7階 711号室

TEL:045-263-6207 FAX:045-263-6208

営業時間:10時~18時

定休日:毎週火・水曜日(祝日は除く)・夏期・年末年始

 

ARUNAi 山梨

所在地:山梨県南アルプス市戸田字中戸田189-11

TEL:055-284-2955 FAX:055-284-2957

営業時間:10時~17時

定休日:日曜・祝日(土曜隔週)・夏期・年末年始

※お立ち寄りの際は、必ずお電話で確認をお願いします。

ARUNAi 公式ウェブサイト