ライフスタイル
2016/2/7 20:30

昭和初期、たった50円で億万長者になれる株成金大作戦が、今の投資にも役に立つ!?

買えない本の意味ない(!?)書評
~国会図書館デジタルコレクションで見つけた素晴らしき一冊~ 第2回

01

「五十円で出来る株式投資の研究」
小資本投資研究所 編

2016年は申年。相場の世界では「サル騒ぐ」といって、申年は荒れるという格言があるそうだ。確かに、年始めから中国株ショックや原油相場の下落もあって日経平均は大波乱。NISA口座の損益表示も含み損で真っ青、それを見て顔色も真っ青な人も多いかもしれない。格言は、特に根拠はなくともなぜか当たるから恐ろしい

というわけで、今回は昔の株本から儲けの格言を探るべく、著作権切れの本が閲覧できる国会図書館デジタルコレクションを検索。「株式投資」「金儲け」「利殖」といったワードを入れてみた。一般人向けの株本なんて、ネット取引が始まったここ15年ほどのブームでは? と思いきや、検索結果には続々と怪しげな儲け話が表示された。「株屋のからくり」(昭和10年)、「株で儲けるにはこのコツで行け : 本年度の景気観測 軍需株か平和株か?」(昭和12年)、「斯くして吾人は資産家となれり」(大正10年)。ノリが今の投資本と似通っていて、思わず笑ってしまう。

「勝つか敗けるか、とにかくやってみることだ」

03

 

そんな中で、庶民の味方となってくれそうなのが、今回の「五十円で出来る株式投資の研究」(昭和7年)。

「スポーツを楽しむつもりで、競馬を試みるつもりで、勝つか敗けるか、売るか買うか、兎も角やって見ることだ。敗けても五十円の損、勝てばスバラしく大きいゾ」(一部仮名遣いなどを修正)

序文のあまりにあけすけな文句にひかれた。出版年は、戦前の昭和7年(1932年)。犬養毅首相が暗殺された五・一五事件が起こり、ある種のターニングポイントとなった年。三島由紀夫の「豊穣の海」第2巻「奔馬」を読むと、時代の空気がよくわかる。

「五十円」は、この「五十円株式研究」によると「三、四人の友人と一寸夕飯を食って、一杯飲んで騒いだら結構一晩で飛んでしまう金」、「五十円ではあまり良い蓄音機は買えない」とのことだから、大体5万円前後のイメージか? 株をやるには少額ながら、「さあ、この虎の巻で五十円を有効に使い、成金になって貰いたい」と威勢がいい。

今も昔もサラリーマンは厳しいよ…

全体は3部構成。第1部は主に株初心者に対して、投資の必要性を説いていく。

「一サラリーマンから課長になり、重役になる男なんぞは、それこそ幸運児だ。何千人に一人という心細い数字だ。……そこで利殖の魔術にガッチリと眼を開かなくてはならぬ」

「いま日本の郵便貯金は三十億円に近い程の巨額に達している。これは一面、貯蓄心の旺盛なことを示しているが、その一面、いかに日本人は経済的に幼稚であるかを暴露しているものだ。日本人はまだ、真の資金の運用ということの心得がない」

これが約80年前の文章! 「出世するやつは幸運児」なんて、昔も今もサラリーマンは厳しい~。しかも、「貯金ばっかりで投資しない」って部分は、平成の世でも相変わらず……。過去からお叱りを受けた気がして耳が痛い。

 

 

現代でも通用しそうな”株の心得”とは?

02

もちろん、読者に夢を見せる具体的な成功例も載っている。「ボロ株で儲けた話」の項では……。

 

「東亜興業の新株だが、……ボロもボロも大ボロだ。その二十銭の株券を千枚買った人がある。……それがどうだ、十二月十一日民政党内閣は倒れて、政友会内閣ができるとさっそくの金輸出再禁止、株式は奔騰する。……何と、二百五十割の暴騰だ」

 

まるでドラマのワンシーン! 歴史の転換点でガッチリ儲けた人もいたわけだ。

続く第2部は、実際の取引のやり方。そして第3部は株で儲けるための虎の巻が並ぶ。

 

【大局から見よ】:「(人気に)かなり左右されるが、結局相場の根本は経済上の情勢によって動かされる」

【観測は小心、行動は大胆】:「観測に観測を重ねていて、小心翼々と研究すべきであるが、一度決心した以上は……行動は大胆にやるべきである」

【一般的人気の作用】:「人々がすべて買いと来た時は売り、人々がすべて売りに廻った時は買い」

これらの心得は、そのまま今の株マニュアルとして出版されても十分にいけるだろう。

興味深いのは、当時の国際情勢を反映してか、生糸が重視されている点。「生糸は……わが輸出の四割を占めている。この生糸相場が高いと、相場に好影響を与え、悪いと悪影響を与えるのは理の当然」。また、米国の材料としては、「スチール株とアナコンダ銅山株」が挙げられている。今ならIT株や原油価格が重視されるだろうか。株という大枠の仕組みも、とにかく儲けたい参加者の心理もそのままだが、経済や産業の核は時代とともに移ろいゆくのが面白い。

 

最後に、成金を夢見る私たちにピッタリの格言があった。「『目と相談しないで腹と相談して食え』と昔の人は云った……腹一杯儲けようとすると、ついにひっかかってひどい目にあうのが世の中だ」。サル騒ぐ年、自分がサルになって騒がないよう気をつけなければ。

卯月鮎
書評家、ゲームコラムニスト。「週刊SPA!」や「週刊文春」などで書評を手掛ける。「SFマガジン」ではファンタジー時評を、「かつくら」ではライトノベル時評を連載中。