エンタメ
2024/12/27 6:30

Netflixで話題作を手がける髙橋信一プロデューサーインタビュー「クリエイターの皆さんと共に誰も見たことがないような作品をつくり続ける」

2024年はNetflixオリジナル作品が今まで以上に注目された一年でした。特に話題を呼んだ 『シティーハンター』『地面師たち』『極悪女王』の制作にエグゼクティブ・プロデューサーとして力を尽くした髙橋信一氏に、それぞれのヒット作品への思いを語ってもらいました。

 

※こちらは「GetNavi」2025年1月号に掲載された記事を再編集したものです。

 

 

「一気見」してしまうことで生まれる「熱量」のようなものは、やはりNetflixならでは

──2024年はNetflixのオリジナル作品が一段と話題を振りまいていたように思います。

 

髙橋 そうですね、私たちもますます多くの方々にNetflixオリジナル作品をご覧いただき、話題にしていただいた手応えを感じています。先日、映像ディレクターの大根仁さんがお一人で食事をしていたら、隣のカップルが『地面師たち』について会話を交わしていたことにとても驚いたと話していました。多くのNetflixオリジナル作品がヒットしたことをとてもうれしく思っています。お客様が求める「作品の多様性」にNetflixが応えられていることが、よい成果に結びついているように思います。

 

──Netflixの作品はスマホやパソコンを使って、視聴者がいつでも好きなときに自分のペースで見られる自由度の高さが魅力的ですね。

 

髙橋 新作ドラマシリーズを「一挙配信」すること、テレビの地上波で毎週放送すること、どちらにも良さがあると私は思います。作品をお客様が見たいタイミングに、時間を忘れて「一気見」してしまうことで生まれる「熱量」のようなものは、やはりNetflixならではの視聴体験なのかもしれません。

Netflixの作品を「一気見した」という声がSNSにたくさん投稿されたり、日常の対面による会話で交わされることで「一気見するほど面白いの?」という好奇心が喚起されます。これに勝る作品の「品質保証」はないと思いますし、視聴者の皆様に話題にしていただけることが何よりうれしいことです。

 

──視聴者の期待を受けて、Netflixのスタッフも大変な熱量をかけて作品を制作していることが伝わってきます。尺の長い作品を一気に作りあげることも大変だと思いますが、何より「一気見」したくなる作品をつくるために皆さんも熱量を高めなければならないですよね。

 

髙橋 確かにそうですね。お客様がひとつの作品をご覧になったあと、次にまた「見たことのない作品がNetflixでなら見られる」ことへの期待を持っていただけたなら、その期待に応えたいと心底思いますし、だからこそ私たちの意欲もわいてくるというものです。

(C)新庄耕/集英社

 

「きっと今までに誰も見たことのないミステリーになる」という確信と興奮

──2024年に髙橋さんが手がけた『シティーハンター』『地面師たち』『極悪女王』について、それぞれの作品に対する髙橋さんの思い入れを聞かせてください。

 

髙橋 『シティーハンター』と『極悪女王』は、私がNetflixに入社した直後から制作を始めて、配信を開始するまでにとても長い時間をかけた作品です。シンプルに「やっと完成・配信できた!」という達成感が強くありました。

それぞれに時間をかけたポイントは異なっています。『シティーハンター』でいえば、私がNetflixに入社する前に主演の鈴木亮平さんが「いつかシティーハンターの冴羽獠演じたい」という想いを持っていると聞いたことがあり、まさにそれが現実になったわけですが、いざ実写化が進むという段階で昭和の大人気コミックを原作として、令和の時代により多くの方々に楽しんでもらうためにどうすれば良いのか、試行錯誤しました。人気のある原作をリスペクトしながらアップデートすることの難しさに何度もぶつかりました。ひとつひとつ丁寧に細部を詰めてきたことで、視聴者の皆様に受け入れてもらえる“令和のシティーハンター”をつくることができたと思います。

 

──『極悪女王』はいかがでしたか。

 

髙橋 『極悪女王』も『シティーハンター』とほぼ同じタイミングで制作を開始した作品です。2020年頃にキャストを決めるオーディションからスタートしました。振り返れば主演のゆりやんレトリィバァさんの配役が同年の10月、11月ごろにオーディションを経て決定したので、配信開始まで本当に長い時間をかけてきたものだと思います。

レスラーの役を演じていただいた女優の皆さんには、本当に長い時間をかけて役作りに向き合っていただいたことに心から感謝しています。役者の皆さんが全力で、真剣勝負で挑んでくれたからこそ本作の熱量が生まれたと思っています。

 

──そして『地面師たち』も大いに話題を振りまく作品になりましたね。

 

髙橋 私がNetflixに入社する前から「大根さんと一緒に作品を作りたい」と思っていました。そんな中で『地面師たち』は大根さんからいただいた企画でした。最初に提案をいただいた時、正直に申し上げると、私はまだその内容に懐疑的でした。原作の面白さは映像化には向かないと考えていたのです。ところが大根さんはそれらの懸念を理解した上で、その懸念を払拭する鮮烈な実写映像化のアイデアを次々と提案してくれました。その面白さに、すっかり魅了されました。とにかく想像の斜め上を行くクリエイティブの提案をいただけたことに興奮したことを覚えています。

クリエイターの創作活動を最大化するサポートすることもプロデューサーの仕事のひとつですが、「この作品が世に出たら、きっと今までに誰も見たことのないサスペンスになる」という確信と興奮を感じながら制作に関わってきました。ここまで本当に多くの皆様に愛される作品になったことが何よりもうれしいです。

 

──Netflixでは、2024年上半期にヒットした作品の情報をまとめた「What We Watched: Netflixエンゲージメントレポート」を紹介しています。『シティーハンター』もヒットした作品として紹介されています。

 

髙橋 『シティーハンター』は非英語のウィークリーランキングでグローバル1位も獲得しました。弊社の佐藤善宏がエグゼクティブ・プロデューサーを務め、賀来賢人さんやデイブ・ボイル監督と共に作り上げた『忍びの家 House of Ninjas』も非英語のウィークリーランキングでグローバル1位になっています。Netflixでグローバル配信される非英語作品の中でも、特に日本のオリジナル作品の存在感が徐々に高まっていることを実感しています。

 

──例えばアメリカ発のドラマと対比した時に、日本の作品はどんなところが面白いと受けとめられているのだと思いますか。

 

髙橋 日本だけではなく、世界のどの地域の作品にも共通して言えることだと思いますが、「まだ誰も見たことのない独自性豊かな物語」が求められています。そして一方で私たち日本人にしか馴染みのなさそうな物語でも、その物語の中に世界中で共通する「普遍性」があれば多くの視聴者に注目されるように思います。

 

──『シティーハンター』や『地面師たち』の物語が展開する舞台のビジュアルはとても「日本らしく」もありながら、いま髙橋さんが言及した「普遍性」を持った物語がそこに展開されているように思います。しかも海外の方々が憧れるような、昔ながらのジャパニズムにもたれかかることなく「今の日本」がとても正確に反映されている。だからこそ海外の方々が見ても違和感なく、普遍性を共有できるように思います。『極悪女王』はいかがでしょうか?

 

髙橋 『極悪女王』は日本ならではの時代背景や文化的背景の要素がとても強い作品だと思います。ただ私自身はダンプ松本さんをはじめ、多くのレスラーの皆様と向き合いながらお話を聞く中で、当時のレスラーの方々が抱えていた葛藤というか、生き方の中に誰しもが共感しうる普遍的な物語をつむぐために欠かせない要素がたくさんあると感じました。憧れと現実の間で苦しむ若者の姿はもちろん、当時の日本を描くことによって、今日本が抱えている社会課題が浮き彫りになる。その結果、現代のNetflixファンの方々にこの物語の魅力が伝わるはずだと。もちろん企画・プロデュース・脚本を担当された鈴木おさむさんと総監督の白石和彌さんの手腕によるところが何よりも大きいと思っています。

作品をご覧いただいた方々にはよく「アンチヒーローものの物語にのめり込めた」という感想をいただくことがあります。今の世の中にある普遍的な課題感が物語に通定しているからだと私は思っています。何かを成し遂げたくてもうまくいかなかったり、与えられた環境の中で必死にもがいて、唯一掴んだチャンスが、自分が思い描いていた理想と違っていたりということは、私たちが生きている中で誰にでも起こりうることです。「これが本当にやりたかったことなのか」と、自問自答しながら今を生きることは、誰でも一度は経験することだと思いますので。

 

──作品の全話を視聴した後にも、YouTubeの公式動画も含めて作品の魅力を深掘りできるいい時代になりましたね。

 

髙橋 そう思います。NetflixではYouTubeの公式チャンネルから、作品のメイキング映像やキャストのインタビューなど様々なコンテンツを配信して、熱量を高める工夫を凝らしています。作品の魅力を伝えるためにはSNS戦略も欠かせない時代ですので、社内のマーケティングや宣伝チームと綿密な連携を図っています。

 

──『極悪女王』を見たことがきっかけになって、現代の女子プロレスに興味を持つファンも増えていると聞きます。

 

髙橋 もし本当にそうであれば、私もすごくうれしいです。『極悪女王』の制作では長与千種さんをはじめ、女子プロレスの関係者の皆様に多大なる支援をいただきましたので、恩返しができれば何よりです。『極悪女王』だけでなくNetflixでの映像化をきっかけに原作やロケ地など関わっていただいた方々にポジティブな反響があったことを多くご連絡いただいており、今後もさらに皆さんに喜んでいただける制作を行っていければと思っています。

 

──『地面師たち』に登場する個性豊かなキャラクターたちも注目を集めています。

 

髙橋 『地面師たち』は登場するキャラクターやセリフの魅力がネットミーム化するほど、私たちの予想を超える広がりが生まれました。監督と俳優の皆様がつくり出した個性豊かな「地面師軍団」の魅力が視聴者の皆様に伝わっていることが、すごく成功した所以なのだと思います。

 

──被害者のキャラクターたちにはかわいそうですが、なぜかそこまで同情できずに、むしろ地面師軍団に「成功してくれ……!」と応援しながら物語を見てしまいます。

 

髙橋 まさに大根さんが作劇の中で仕掛けたことが狙い通りに伝わっているようで、とてもうれしいですね。監督もインタビューで答えていましたが、日本人はある種の「ドッキリ」が好きな国民なのかもしれません。その感覚を物語の中に巧みに落とし込んで、観客の熱量を高めることができたのだと思います。

 

世界中の視聴者の皆さまがあっと驚くような剣劇アクション

──2025年はNetflixでこんなことに挑戦してみたいと、髙橋さんが計画していることを教えていただけますか。

 

髙橋 私は来年、「イクサガミ」という作品のエクゼクティブ・プロデューサーを担当します。俳優の岡田准一さんが主演・プロデューサー・アクションプランナーを兼務する話題作です。メインの監督には藤井道人さんをお迎えします。

日本発のNetflixオリジナル作品としては初めて時代劇に挑戦します。岡田さんが制作発表の際にも「時代劇をアップデートする」とコメントされていますが、日本だけでなく、世界中の視聴者の皆さまがあっと驚くような剣劇アクションになると思います。

2025年には『忍びの家 House of Ninja』を手がけた佐藤善宏が樋口真嗣監督と共に映画『新幹線大爆破』に挑みます。2024年11月に配信が開始されたNetflixシリーズ『さよならのつづき』を手がけた岡野真紀子と、俳優の佐藤健さんが主演兼共同エクゼクティブ・プロデューサーを務め、柿本ケンサクさんが監督・撮影をされる『グラスハート』の配信も控えています。

それら以外にも「Netflixが次はこう来たか!」と、今年以上に多くの方々に驚いてもらえるのではないかと私も楽しみにしています。

 

──ありがとうございました。

 

髙橋信一●たかはし・しんいち…映画・テレビなど様々なコンテンツを日活でプロデュース後、Netflixコンテンツ部門でエグゼクティブ・プロデューサーとして日本発の実写全般での制作及び編成を担当。今回紹介した3つの映画・シリーズのほか、Netflixコメディシリーズ「トークサバイバー」も手掛ける。

 

 

 

 

Netflix映画
シティーハンター

2024年4月よりNetflixにて独占配信中

裏社会ではシティーハンターの名前を知らない悪人(ワル)はいない。凄腕の始末屋(スナイパー)冴羽 獠と犯罪を憎む正義漢の元刑事、槇村秀幸がマモル新宿・歌舞伎町にある日、大きな事件が巻き起こる。

 

(C)新庄耕/集英社

Netflixシリーズ
地面師たち

2024年7月よりNetflixにて独占配信中

作家・新庄 耕氏が実話を基に書いたという小説を初めて映像化。「地面師(じめんし)」と呼ばれる不動産をめぐる詐欺集団たちが繰り広げる全7話のクライム・サスペンスストーリー。綾野 剛と豊川悦司がダブル主演を務める。

(C)新庄耕/集英社

 

Netflixシリーズ
極悪女王

2024年9月よりNetflixにて独占配信中

プロレスに運命を変えられ、人生を捧げた心優しい一人の少女。挫折と葛藤を乗り越えて一流の極悪プロレスラーとして悪の華を満開に咲かせたダンプ松本の半生を描く、Netflix流のスポ根ドラマ。

 

 

撮影/中村 功