グルメ
お酒
2025/2/7 18:00

どう違う? 酒場ライターが「関東と関西の酒場事情」を語り合う噺【後編】

提供:宝酒造株式会社

 

飲み物、つまみ、店構えからお客さんの特徴まで、同じようで実は異なる「関東」と「関西」の酒場事情。その内実を、関東出身・関西在住のスズキナオさんと、酒の可能性を追求するユニット「酒の穴」のパートナーであるパリッコさんが、実体験を交えて語り合います。

 

後編となる今回は「お酒やおつまみの違い」について。東京・立石の「東邦酒場」にお邪魔し、東西の違いを議論していきます。

↑「東邦酒場」は60年以上続く老舗の酒場。2018年にお花茶屋(東京・葛飾区)から現在の立石に移転。

 

【前編はこちら

 

 

関西人は合理的? 酎ハイの飲み方の違い

●パリッコ(左)/東京出身の酒場ライター。著書に『酒場っ子』『つつまし酒』『天国酒場』などがあるが、漫画家/イラストレーター、DJ/トラックメーカーとしても活動し、多才な顔を持つ。ライター・スズキナオとのユニット「酒の穴」としても活動し、共著に『ご自由にお持ちくださいを見つけるまで家に帰れない一日』などがある。
●スズキナオ(右)/東京出身、大阪在住の酒場ライター。酒噺で「関西食文化研究」や「関西チューハイ事情」連載を担当。著書に『深夜高速バスに100回ぐらい乗ってわかったこと』『思い出せない思い出たちが僕らを家族にしてくれる』などがあるが、テクノラップユニット「チミドロ」のリーダーとしても活動する。パリッコとは同い年であるほか、酒場や音楽などライフワークの共通点が多い。

 

お酒の違いに関しては、まずは焼酎の飲み方の違いから。よく「東日本は甲類で西日本は乙類(本格焼酎)」と言われますが、実際はどうなのでしょうか?

 

スズキナオ たしかに、関西では焼酎というと乙類(本格焼酎)を指すことが多いでしょうね。昔は酎ハイも「麦焼酎」など扱っている乙類ベースでつくっている店もあったと聞きます。それに、焼酎のボトルメニュ—はほとんどが乙類ですね。

 

パリッコ 関東だと「芋」や「麦」など乙類の焼酎だけでなく、甲類焼酎のボトルもよく見かけますよね。

 

スズキナオ あとは、飲み方やメニューにも違いはありますね。関東は酎ハイひとつとっても多彩じゃないですか。お店によっては提供時に割らず、三点セット(焼酎、炭酸水、氷)をそれぞれ個別に提供したり、どぶづけにしているところもあるようですね。でも関西は多くが、できあがった状態で提供されます。

↑「どぶづけ」とは氷と水の入った容器でお酒を冷やすこと。写真のようにカウンターの前にスペースを作ることもある

 

パリッコ 確かに、あらかじめ割った状態で出してもらうことが多いかも。

 

その理由はなぜでしょうか? スズキナオさんは「あくまで個人的な見解ですけど」と前置きしたうえで、次のように話します。

 

スズキナオ 関西の、特に大阪では合理的な人が多いような気がします。なので、自分で割って作ることをありがたがる人は少なくて、それより1秒でも早く飲みたいと。テーブルの上もすっきりしますし。

 

パリッコ 酎ハイの味に関しても、関東のほうがシャープな傾向があるかもしれません。東京・下町の大衆酒場でおなじみの「焼酎ハイボール」のエキスも、甘みはほとんどないんですよね。ところが関西で飲む酎ハイは、最初から甘酸っぱく仕上がっていることが多い気がします。

↑宝焼酎をベースにした東邦酒場の「元祖酎ハイ」(350円・税込)

 

スズキナオ あの味も、串カツのソースやどて焼きの甘じょっぱさにはベストマッチなんですけどね。

 

パリッコ ほかに関東で代表的な酒場のお酒というと、ホッピーですね。まだ関西では珍しい部類に入るのかもしれないけど、見かける機会は徐々に増えてきたような。

↑東京の酒場では定番の「ホッピー」も関西圏ではまだ限定的なようだ

 

スズキナオ でも関西式というか、ナカとソトを分けず、提供時にジョッキに1本まるごと入れて割って出す店もあります。

 

パリッコ 関東は、1杯目は「ナカ(甲類焼酎)」と「ソト(ホッピー)」のセットで提供し、途中で「ナカ」をおかわりするのが定番ですもんね。

 

スズキナオ 関東から関西に進出した有名チェーン「立呑み晩杯屋」では、関西の店でも関東式で提供してくれますけど、そういうお店はあまり多くないですね。

 

パリッコ びん入りの商品なので回収の問題や、そもそもメーカー自体が全国展開を想定していなかったなど理由はありそうですが、関東以外の地域でもどんどん、ホッピーバイスみたいな割り材も飲まれるようになってきている印象です。

 

スズキナオ そうかもしれないです。「立呑み晩杯屋」が関西に来たのは2022年。僕が関西に移住した2014年は、居酒屋でホッピーを見かけることは稀でした。

 

【関連記事】
ホッピーミーナが語る! 焼酎のベストパートナー「ホッピー」の噺
東京生まれ、 大衆酒場で人気の個性派割り材「バイスサワー」の噺

 

ガリ酎、金魚、ばくだん……ローカル酎ハイの数々

パリッコ それでいうと、東京を中心としたもつ焼き酒場で愛される梅割りは、ホッピー以上にレアだったりしますか?

↑東京を代表する大衆酒場のひとつ「宇ち多゛」(葛飾区・立石仲見世商店街内)の「梅割り」。宝焼酎に梅シロップを足したもの

 

スズキナオ そうですね。梅割りに関しては、同じく東京から関西に進出した「四文屋」なら飲めますが、やっぱり珍しい存在です。

 

では逆に、関西発祥の焼酎割りや酎ハイといえば? そして、そのお酒の関東への浸透具合は?

 

パリッコ 例えば「ガリ酎」や「金魚」は関西発祥と聞いたことがありますけど、東京でも出合うことは多いです。

 

スズキナオ でも関西発祥だからといって、「ガリ酎」や「金魚」がどこの店にもあるという感じではないかな。酎ハイのバリエ―ションが多い酒場に行くと提供されている、という印象です。

↑「ガリ酎」は焼酎の炭酸割りに「ガリ(生姜の甘酢漬け)」を入れたもの

 

↑酎ハイに青じそと唐辛子を入れた「金魚」

 

パリッコ 関西でよく飲まれているけど、関東にはない飲み方や酎ハイとなると、あんまり思いつかないですね。例えば新大阪の「松葉」という老舗の串カツ酒場には「松葉ハイボール」という冷やしあめで割った鷹の爪入りの酎ハイがあるんですけど、あれはお店のオリジナルだし。

 

スズキナオ 局地的な酒の例でいうと、京都のお好み焼き店「やすい」発祥といわれる、「あか」という甘酸っぱくて赤いサワーみたいなお酒もかなりローカルですね。

↑宝焼酎「純」の35度とパワフルな強炭酸を混ぜ合わせ、その上から絶妙な量の赤ワインを注ぎ入れる京都「お好み焼き 吉野」の「あか」

 

パリッコ 「ばくだん」と呼ばれるお酒にも近い、京都のお好み焼き店の他にはあまりないというサワーですよね。

 

スズキナオ これはあくまで傾向ですけど、瀬戸内や九州産の和柑橘を使った生のサワーは関東よりも多いかな。旬を迎えた時季だけなんですけど、これは関西が関東より柑橘の名産地に近いからかもしれません。

 

【関連記事】
秋から冬にこそ飲みたい!「ガリ酎」の噺
香りと刺激を楽しむ薬味系酎ハイの噺

 

そしてテーマは日本酒に。東西における違いのひとつに、お店に置く銘柄の種類があるといいます。

 

パリッコ 酒蔵の観点でいうと、関西には灘・伏見の二大酒都があるので、関東よりも地元の日本酒が充実してるイメージがありますね。

 

スズキナオ 確かに。関東の場合は新潟や東北の銘柄などにも頼りがちだけど、関西は灘・伏見の酒が主役ですよね。それと、関西では、普通酒の「特選・上撰」をスタンダードなお酒として扱うのに対して、関東では圧倒的に「佳撰」市場ですね。

 

パリッコ なるほど。ただ、飲み方に関しては、東西でそれほど目立った違いはないと思います。

 

 

関西で肉といえば「牛」、関東では「豚」

 

続いては、おつまみについて。東西で食文化が違うことはよく知られていますが、酒場のメニューではどうなのでしょうか?

 

スズキナオ 肉でいえば、「牛」と「豚」の扱われ方が最も特徴的じゃないかな。関西で肉といえば「牛」だから、関東の肉じゃがは豚肉で関西だと牛肉を使うことが多いとか。まあ、家庭によるとは思いますけどね。関西では、関東以上に牛肉の地位が高いのかなと思います。

 

パリッコ 豚肉の中華まんが象徴的かも。関東では「肉まん」ですけど、関西は牛じゃない肉を使うから、あえて「豚まん」って呼ぶんじゃないかと思います。

 

スズキナオ その差は酒場の業態にも大きな影響を及ぼしていると思います。それが、関東でおなじみのもつ焼き屋。関西にも豚のホルモン焼きはあるんですけど、串焼きとなると少ないんです。東京出身の僕にとってはカルチャーショックで、いまでも恋しく思いますよ。

↑豚のもつを串にさして焼く「もつ焼き」。関西ではなかなかお目にかかれない

 

パリッコ 焼鳥屋に関しては、東西で大きな差はなさそうですけどね。そのぶん関西の串料理となると、大阪名物の串カツは圧倒的に多い。

↑関西の串料理といえば、やはり「串カツ」

 

スズキナオ そして串カツ屋でも、メニューの主役は「豚」より「牛」だと感じます。

 

パリッコ 煮込みのもつも、関東は「豚」で関西は「牛」が多いイメージがあります。すき焼きは、さすがに肉は牛肉で東西共通ですけど、それぞれ調理法が違いますね。関東は煮込むスタイルで、関西は焼いて作る。

↑「東邦酒場」の「もつ煮込み」(550円・税込)のもつは豚

 

スズキナオ 関東にはない関西の煮込み系つまみといえば、「どて焼き」や「すじこん(ぼっかけ)」がありますよね。

↑牛すじとこんにゃくを濃厚な味噌で煮た関西でチェーン展開する「串かつ だるま」の「どて焼き」

 

パリッコ あとは、大阪名物の「肉吸い」も、関西ならではです。

 

スズキナオ そしてこれらも、肉はやっぱり牛肉。おでんも関西では「関東煮(かんとだき)」と呼ぶことがありますけど、主役級の具材に牛すじやくじら肉があって、これがだしの重要な素材でもあります。

 

パリッコ うん。牛すじは、関東のおでんでは見ないこともあるけど、関西のおでんにはほぼマストで入ってますもんね。

 

スズキナオ 例外といえる豚肉料理があるとしたら、豚足ですね。関西には豚足をウリにする酒場がちらほらありますけど、関東ではあまり見かけないような気がします。

 

【関連記事】
【関西チューハイ事情】 串かつを大阪名物に押し上げた[串かつ だるま]と、「だるまハイボール純」の噺
焼酎との相性抜群、70年続く老舗もつ焼きの噺

 

 

東西の「魚」と「だし」の違い

次の食材テーマは「魚」。東西でそれぞれの特徴はいかがでしょうか?

 

パリッコ そこまで大きな違いはないと思いますけど、伝統的な料理の食材になると、わりとメジャーかどうかに違いが出ますよね。関東だと、うなぎ、どじょう、あなごとか。一方で関西だと、はも、くえ、ふぐが代表的かな。

↑「ふぐ」は関西を代表する魚

 

スズキナオ 同じような料理でも、呼び名が違う場合がありますよね。例えばさばの料理の場合、関東では「しめさば」だけど、関西では「きずし」と呼びますし、「さばの押し寿司」は大阪だと「バッテラ」といいますから。

 

【関連記事】
京都で味わう冬の名残“絶品ふぐ”の噺

 

続いては、「だし」について。一般的に関東はかつお、関西は昆布がメインといわれますが、味や料理はどう違うのでしょうか。

 

パリッコ 関東のかつおだしは魚介の香りが豊かで、キリッとシャープな表情も。関西の昆布だしは、まろやかでやさしい風味を豊かに感じますね。

 

スズキナオ だしといえば、「だし巻き玉子」は味付けも違う。関東は甘くて硬めの仕上がりのものが多い印象ですが、関西はだし感が豊かで、食感もふんわり系のものが多いかな。

 

パリッコ 玉子でいえば「天津飯」! 関西は醤油ベースで、関東は甘酢ベースの傾向にあるというのがおもしろくて。「餃子の王将」の「天津飯」は、関東は甘酢、塩ダレ、京風ダレから選べるけど、関西だとしょうゆベースの京風ダレ一択の店舗が多いらしいですね。

 

スズキナオ でも、先ほど触れた関西の「関東煮」という名称は面白いですよね。諸説あるんですけど、関東から伝わったからこの名称になったと言われていて、それがだしの風味にも影響しているのかもしれないです。

 

パリッコ おでんは、その他の具材も東西でけっこう違います。関東で定番のちくわぶやはんぺんは関西にはあまりなく、「関東煮」では前述の牛すじやくじらのほかにタコの足も定番ですから。

 

ここまでを振り返って、ほかに関東、関西の大衆酒場ならではのおつまみにはどんなものがあるでしょうか。

 

スズキナオ 関西はやっぱり、粉もののバリエ―ションが豊富ですね。たこ焼きやお好み焼きは全国区だけど、「とん平焼き」「いか焼き」「キャベツ焼き」などは関東ではあまり見ないですもんね。逆に関東生まれの「もんじゃ焼き」は、関西には少ないです。

↑関西の粉ものはバリエーションが豊富

 

パリッコ 「もんじゃ焼き」を提供しているのはほとんど専門店で、酒場のつまみという感じではないですしね。ただ、最近は「もんじゃ焼き」が若者や海外から来た旅行者の方々の間ですごく流行ってるそうで。

 

【関連記事】
「変わらないから愛される」下町の粉もんの噺

 

スズキナオ 粉ものといえば、ソースの扱いにも東西の差がありますね。関東は中濃ソースが主流で、関西はバリエ―ションがやたらと多彩です。調味料として使うのはウスターで、粉ものにはそれぞれ専用のソースを使うとか、みなさんこだわりが強いです。メーカー自体が多いので、店や家ごとにひいきのブランドがあるようです。

 

パリッコ さすがです。あとはなんだろ。関東の渋い居酒屋の定番おつまみ「たたみいわし」なんかは、関西にはあまりないのかな。

 

スズキナオ 関西は、冬のかす汁文化も見逃せません。これはきっと、酒蔵が近くて日常にとけこんでるからだと思うんですけど、「かす汁」を提供している酒場が多いんですよ。蔵ごとに酒かすの風味が違うから味も店ごとに千差万別。僕が関西に来て好きになった料理のひとつです。

 

そして最後に、おふたりそれぞれが印象に残っている、東西のつまみを教えてもらいました。

 

パリッコ やっぱり「もつ焼き」かな。

 

スズキナオ 僕は「かす汁」ですね。

 

みなさんも、東西酒場それぞれのご当地メニューに着目しながら宵を楽しんでください。加えて前編の「関東と関西の酒場事情」もぜひ一読を。

 

 

撮影/鈴木謙介

 

<取材協力>

東邦酒場

住所:東京都葛飾区立石1-1-9
営業時間:17:00~22:00(水〜金)、13:00〜22:30(土・日)
定休日:月曜、火曜

 

記事に登場した商品の紹介はこちら▼

・宝焼酎
https://www.takarashuzo.co.jp/products/shochu/takarashochu/

・宝焼酎「純」
https://www.takarashuzo.co.jp/products/shochu/jun/

 

【酎ハイについて】

秋から冬にこそ飲みたい!「ガリ酎」の噺
香りと刺激を楽しむ薬味系酎ハイの噺
ホッピーミーナが語る! 焼酎のベストパートナー「ホッピー」の噺
東京生まれ、 大衆酒場で人気の個性派割り材「バイスサワー」の噺

 

【もつ焼きと串カツ】

焼酎との相性抜群、70年続く老舗もつ焼きの噺
【東京・大衆酒場の名店】この緊張感は何だ? 行列しても入りたい立石「宇ち多゛」の強烈な魅力の噺
【関西チューハイ事情】 串かつを大阪名物に押し上げた[串かつ だるま]と、「だるまハイボール純」の噺
お酒と楽しむ大人の駄菓子、“串カツ”の噺