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2025/3/7 17:00

焼酎を飲むならこんな店【東京・大衆酒場の名店】を振り返る噺

提供:宝酒造株式会社

【前編】【後編】にわたって、パリッコさんとスズキナオさんのおふたりに「関東と関西の酒場事情」について語っていただきました。読めば読むほど、酒場に行きたくなる記事でしたが「では、どんなお店に行こうか?」という悩みも増えてしまったかもしれません。

 

そこで今回は、東京・下町の酒場を様々な切り口で紹介してきた【東京・大衆酒場の名店】シリーズを振り返ります。この記事を読んでおけば、東京の酒場選びで迷うことはなくなるはず!

 

 

江戸の水路が下町の大衆酒場を生んだ

「酒噺」では【東京・大衆酒場の名店】と題して、味わい深い東京・下町の酒場カルチャーを紹介してきました。まずは、大衆酒場のルーツに触れる記事として注目したいのが第2回。江戸川区・篠崎の「大林(おおばやし)」で、なぜ、東京の下町には大衆酒場が多いのかという理由を、大衆酒場に詳しい藤原法仁(のりひと)さんに教えてもらいました。

↑右が大衆酒場に詳しい藤原法仁さん。左は【東京・大衆酒場の名店】シリーズのナビゲーターを務めた中村優さん

 

藤原さんによると、東京はもともと入江や川が多く、江戸時代から水路と船を活用した物流が盛んでした。そのため川沿いを中心に産業が栄えて人が集まり、街が発展してきたとのこと。

 

その後、水運の利点を生かして工業地帯や企業城下町として発展する街が増加。加えて工場では多くの労働者が働いていますから、その憩いの場として下町に大衆酒場が栄えたのです。

 

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【東京・大衆酒場の名店】初心者女子と楽しく学ぶ! 篠崎「大林」の魅力と「下町酒場の成り立ち」の噺

 

東京の酒場を代表する「酎ハイ」

そんな東京の下町で生まれた大衆酒場文化のひとつに「酎ハイ」があります。関東の大衆酒場文化を語るにあたって「酎ハイ」は欠かせないお酒です。そのルーツともいわれているお店が、第3回に登場した墨田区の「三祐酒場(さんゆうさかば) 八広(やひろ)店」です。

 

三代目である現店主の伯父が、かつて京成曳舟駅近くで「三祐酒場 本店」を営んでいた1951(昭和26)年、アメリカ進駐軍の駐屯地で飲んだ「ウイスキーハイボール」の味に感銘を受けて発明したお酒が「焼酎ハイボール」。これが省略され、「酎ハイ」と呼ばれるようになりました。

 

当時、ウイスキーは希少で高価なお酒でした。その一方、焼酎は安価でしたが精製技術が現代のように優れてはおらず、香りが強くて飲みにくい銘柄も少なくなかったとか。そこで、炭酸水で割るとともに独自のエキス(シロップ)をブレンドすることで、飲みやすい「焼酎ハイボール」が誕生したのです。

↑薄く琥珀色に色づいた「三祐酒場 八広店」の「元祖焼酎ハイボール」

 

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【東京・大衆酒場の名店】伝説の「三祐酒場」で聞く「元祖焼酎ハイボール」発祥の噺

 

 

名店が連なる「酎ハイ街道」を往く

墨田区で生まれたとされる「酎ハイ」は、やがて周辺地域の大衆酒場へ広がり、定着していきました。そして現在も、昔ながらの「焼酎ハイボール」を提供する店が30軒以上残っているのが「酎ハイ街道」です。正式名称は、鐘ヶ淵通り。「鐘ケ淵陸橋」交差点から南東方面の東武スカイツリーライン「鐘ケ淵駅」前を抜け、「四ツ木橋南」交差点まで全長2km強の道路です。

↑現在の鐘ヶ淵通り。都市開発による道路の拡張工事が進行し、移転や建て替えなどを余儀なくされた名酒場も少なくありません

 

この地にはかつて巨大企業、鐘淵紡績(かねがふちぼうせき・カネボウの前身)がありました。周辺や鐘ヶ淵通りにはその関連工場が多く、界隈の酒場はその労働者でにぎわっており、その名残がいまも「酎ハイ」とともに輝いているのです。

 

「酎ハイ街道」のなかでも特に有名なのが、第4回で紹介した「亀屋」。焼酎に加えるエキスは各店が独自に考案したものが多く、「亀屋」は現店主の父親にあたる二代目が、従来の「焼酎ハイボール」をブラッシュアップさせる形で1990年前後に新開発しました。

↑「亀屋」の創業は昭和7(1932)年。もともと「鐘ケ淵駅」の隣の停車場「東向島駅」の近くで立ち飲み酒場として始まったそう

 

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【東京・大衆酒場の名店】酎ハイ街道をゆく。八広「亀屋」の“ボール” 受け継がれる秘伝レシピの噺

 

お店ごとで違う「酎ハイ」の飲み方

「酎ハイ」はお店ごとに提供方法が異なるのも特徴です。「三祐酒場 八広店」ではサーバーでブレンドした「元祖焼酎ハイボール」を、氷が入ったグラスに注いで半月スライスレモンを加えるスタイル。「亀屋」はグラス、オリジナルの焼酎ハイボールの素(もと)、炭酸水をあらかじめしっかり冷やす“3冷(さんれい)”スタイルで、氷を入れないこともポイントです。これは氷が希少だった昭和のオールドスタイル。「亀屋」はいわば、正統派の下町焼酎ハイボールなのです。

↑「亀屋」名物の「焼酎ハイボール」はグラス、オリジナルの焼酎ハイボールの素(もと)、炭酸水をあらかじめしっかり冷やす“3冷(さんれい)”スタイル

 

なお、篠崎「大林」は、オリジナルの焼酎ハイボールの素、炭酸水、アイスペール(氷ボックス)を個別に提供する三点セット式。贅沢な仕様に加え、好みの濃さで楽しめるのも特徴です。

↑「大林」の「タカラ焼酎ハイボール(赤)」。宝焼酎に独自のエキスを加えた“焼酎ハイボールの素”の入ったグラス、炭酸のボトル、アイスペール(および混ぜるためのジョッキ)の三点セットは珍しく、なおかつ焼酎を受け皿付きで提供する店は希少とか

 

“3冷”を語るうえで覚えておきたいのが、関東の大衆酒場でおなじみの割り材「ホッピー」の作法。“3冷”はメーカーのホッピービバレッジも推奨している飲み方です。【意外と知らない焼酎の噺】では、第8回で詳しく紹介しました。

 

東京生まれの「ホッピー」ですが、東京はもちろん神奈川にも聖地が多くあります。そのひとつが横須賀。“横須賀割り”という「ホッピー」や「酎ハイ」の飲み方が浸透しているこの地を、第9回の「酒蔵お太幸 中央店」で深掘りしました。

↑「酒蔵お太幸 中央店」は、2フロアで合計約200席という広い店内の設えも個性的。1階はコの字とL字を組み合わせた「H型」ともいえる変形カウンター、2階は桟敷(さじき)とテーブル席からなる団体用のレイアウトとなっており、この大箱ならではの開放感も魅力です

 

“横須賀割り”とは、焼酎濃いめで作ったお酒を飲む文化のこと。諸説ありますが、軍港や造船の街として栄えた横須賀では、濃いお酒を飲むことにより海風で冷えた体を温めたとか、酒に強い九州出身者が船で出稼ぎにやってきていたなどが、”横須賀割り”誕生の理由だといわれています。

↑「酒蔵お太幸」の焼酎は130ml〜140ml。「ホッピー」で割って飲む場合の一般的な目安は普通が70ml、濃いめが110mlなので、この量はかなり濃いです

 

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【東京・大衆酒場の名店】「お太幸」の変形カウンターで、横須賀の味わいを満喫する噺

 

 

東京を代表する煮込みの名店といえば

東京の大衆酒場において、欠かせない料理が「煮込み」と「もつ焼き」です。【東京・大衆酒場の名店】の初回に登場した立石「宇ち多゛」は、行列店としても圧倒的に有名。同店の特徴は多岐にわたりますが、素材に関してはとにかく鮮度が抜群で、調理や味付けも秀逸です。

↑「宇ち多゛」は開店前から行列のできる人気店

 

「煮込み」はもつと味噌だけで煮込んだ凝縮感のあるおいしさで、「白いとこ(シロの周りの部位やハツモトなど、色が白い部分を中心)」「黒いとこ(フワやレバなどの黒い部位が中心)」と部位別のオーダーも可能。「もつ焼き」にもレバ(肝臓)、シロ(大腸)、ガツ(胃)、アブラ(頬)など部位が多彩にあるうえ、味付けも焼き方もバラエティ豊富です。

↑「宇ち多゛」人気メニューの煮込み

 

↑レバのタレ・普通焼き

 

どれも品切れごめんですが、おつまみもお酒も絶品できわめて良心的な価格設定。独自のルールがあるなどハードルは高いものの、ぜひ「酒噺」を参考に訪れていただきたい一軒です。

↑グラスに並々と宝焼酎を注ぎ、梅のシロップを足す「うめ割り」が有名

 

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【東京・大衆酒場の名店】この緊張感は何だ? 行列しても入りたい立石「宇ち多゛」の強烈な魅力の噺

 

東京五大煮込みを堪能する

第8回で紹介した門前仲町「大坂屋」も東京を代表する名酒場であり、なかでも代名詞となっているのが「牛にこみ」。「宇ち多゛」とともに、“東京五大煮込み”に数えられる名店でもあります。

 

「大坂屋」の名物はもちろん「煮込み」。串に刺したもつを煮込むのが特徴です。珍しい三日月形のカウンターには大鍋が設えられ、そこから目の前で提供してもらえるライブ感もたまりません。

↑三日月形のカウンターの中央に鎮座した「煮込み」の鍋が特徴

 

「煮込み」の部位はシロ(腸)、フワ(肺)、ナンコツ(喉)の3種で、味付けは味噌ベースとなっています。こちらも野菜などは入らない、甘じょっぱく濃厚な味が魅力。最後は半熟玉子に煮込みの汁をかけて味わう「玉子入りスープ」でシメるのがオススメです。

↑串に刺された「大坂屋」の煮込み。シロ(腸)、フワ(肺)、ナンコツ(喉)の3種。味は味噌ベース

 

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【東京・大衆酒場の名店】門前仲町「大坂屋」の“牛にこみ”を三日月型カウンターで堪能する噺

 

カウンターで楽しむ大衆酒場

【東京・大衆酒場の名店】では、門前仲町でもう一軒お店を紹介しました。それが第6回の「だるま」。横長のコの字型カウンターや、両親の遺志を継いだ二代目姉妹の連携プレーなど見どころは満載です。

↑奥から1席・9席・4席の横長タイプの「コの字」カウンター

 

看板メニューとなっているのが「牛モツ煮込み」。もつの部位は牛の大腸と小腸で、具材にはこんにゃくと玉ネギも使用。それらを米味噌とザラメで味付けた、パンチのある甘じょっぱさも魅力です。

↑「だるま」の「牛モツ煮込み」。秘伝の米みそとザラメで味付け

 

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【東京・大衆酒場の名店】門前仲町「だるま」で、コの字カウンター劇場を堪能する噺

 

大衆酒場の定番つまみである「煮込み」は、お通しで提供するお店も少なくありません。そのお通しを、しかもサービスで提供してくれるのが、第7回で紹介した船堀の「伊勢周」。

 

同店は、個性的なL字型カウンターであることも特徴。店内スペースにも卓上にもゆとりがあり、厨房側からも座れる対面式のカウンターは非常に珍しい設計といえるでしょう。

 

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【東京・大衆酒場の名店】船堀「伊勢周」で、L字カウンターの機能美を楽しむ噺

 

いかがでしたか? 今回紹介したお店はどれもシリーズのタイトルどおりの「名店」ぞろい。気になったお店があればぜひ訪問してみてください! 次回は関西のお店を巡ったシリーズを振り返りますのでお楽しみに!

 

 

「東京・大衆酒場の名店」バックナンバーはこちら▼

・第1回 【東京・大衆酒場の名店】この緊張感は何だ? 行列しても入りたい立石「宇ち多゛」の強烈な魅力の噺

・第2回 【東京・大衆酒場の名店】初心者女子と楽しく学ぶ! 篠崎「大林」の魅力と「下町酒場の成り立ち」の噺

・第3回 【東京・大衆酒場の名店】伝説の「三祐酒場」で聞く「元祖焼酎ハイボール」発祥の噺

・第4回 【東京・大衆酒場の名店】酎ハイ街道をゆく。八広「亀屋」の“ボール” 受け継がれる秘伝レシピの噺

・第5回 【東京・大衆酒場の名店】四ツ木「ゑびす」で、自家製ロックアイスのお茶割りを味わう噺

・第6回 【東京・大衆酒場の名店】門前仲町「だるま」で、コの字カウンター劇場を堪能する噺

・第7回 【東京・大衆酒場の名店】船堀「伊勢周」で、L字カウンターの機能美を楽しむ噺

・第8回 【東京・大衆酒場の名店】門前仲町「大坂屋」の“牛にこみ”を三日月型カウンターで堪能する噺

・第9回 【東京・大衆酒場の名店】「お太幸」の変形カウンターで、横須賀の味わいを満喫する噺

・第10回【東京・大衆酒場の名店】渋谷に復活!「立呑 富士屋本店」のカウンターで伝説の立ち飲みを楽しむ噺

・番外編 大衆酒場の酎ハイに欠かせない「下町炭酸」を飲み比べる噺

・番外編 焼酎ハイボールに合う!「東京・大衆酒場の名店」のおつまみを、約5000円の調理家電で再現する噺