デジタル
2017/1/23 19:00

ウェアラブルEXPOで見えたウェアラブルの未来予想図! センサーがありとあらゆる分野を進化させる

1月20日まで東京ビックサイトで開催された「ウェアラブルEXPO」は、今年で3回目を迎えたイベントで、さまざまなウェアラブル・IoTプロダクトが展示されていました。ウェアラブルEXPO自体は業界関係者向けのショーであり、B2B(Business to Business)が主体。いわゆる製品や技術の発表・売り込み・パートナーマッチングの場であるため、我々コンシューマに手が届く製品というのは限られますが、各ブースの展示を眺めていくことにより、ウェアラブルの未来はどう発展していくのか? その未来の様相を垣間見ることができました。

 

ついにセンサーは繊維レベルに到達! 関西大学×TEIJINによる「圧電組紐」

今回多くのビジネスパーソンの注目を集めていたのが関西大学とTEIJINの共同開発プロジェクトである「圧電組紐」です。これは紐を結ぶことで、アンプの代わりになり感度を高められるというもの。さまざまなサイズ、形状に適用できる特性を活かし、モデルケースではチョーカーとして展示。この状態で、モデルの女性の脈派をセンシングしていました。咳をしたり、物を飲み込んだりといった動きもまた違う動きとして捉えられるため、生体モニターとしての活用などが期待できます。

 

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↑チョーカー自体には電力は不要。電荷を計測する端末があればセンシングできる

 

つまり、導電繊維を中心として圧電繊維をカバーして、導電繊維でシールドするといった糸状センサー。この糸を織りなすことで作られた紐では引張りやねじり、衝撃により発生する電荷を端末により計測することができます。

 

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↑アクセサリの一部としてストレスの無いセンシングが可能

 

組紐であり、自由な形態に変化できるためチョーカーだけでなく、靴紐として歩行状態の計測、コースターとして食事などのセンシングも可能。

 

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↑スポーツウェアの中に圧電組紐を内蔵したスイングのセンシング

 

衣服などにも容易に組み込めるため、ブースではスポーツウェアに圧電組紐、そして同様の技術を使った圧電ロールを内蔵することにより、ゴルフスイングのコーチングシステムを展示していました。スイング時の身体の曲げ・ねじり・荷重バランスなどをセンシングし、データ化することでプロのスイングとの比較することができます。

 

小型化、省電力化などが求められるウェアラブルセンシングのなかで、自ら信号を発していく圧電繊維というのは大きな可能性を秘めています。医療・スポーツなど、さまざまな分野で期待の高まるプロジェクトです。

 

土壌、紫外線、汗、体温——さまざまなものから発電するテクノロジー

SII(エスアイアイ・セミコンダクタ株式会社)では、「電池の要らないウェアラブル」として、身の回りのさまざまな要素からセンシングに必要な電力を取り出すといったコンセプトが展示されていました。

 

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↑土壌にいる発電菌を利用し、バッテリーレスの無線通信で環境・土壌状態・温度などをモニタリングする

 

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↑体温と振動によるハイブリッド発電し、電池交換不要マウスというコンセプトモデル。あくまでも発電アプローチのコンセプトモデルであるため、ずっしりと重い

 

あくまでもこれらはコンセプトモデルであるため、利用されている技術がいますぐに製品レベルに落とし込まれるわけではありませんが、ウェアラブル技術の進化には不可欠となる電力問題へのひとつのアプローチを垣間見られました。

 

セメダインからは「あたたまるパーカー」が登場!

セメダインでは導電性接着剤「着るセメダイン(SX-ECAシリーズ)」を使ったアイロン接着できる電子回路により、服自体が発熱する暖房ウェアのコンセプトを展示。モバイルバッテリーさえあれば、瞬時に暖かくなり、アイロン接着によって電子回路を衣服に搭載することができます。

 

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↑ファッションテックデザイナーOlgaがデザインしたパーカー。コンセプトながら実用性は高い

 

東洋紡からは洗濯も可能なスマートセンシングウェアを実現する「COCOMI」

東洋紡では導電材料を使ったフィルム状の機能性素材を「COCOMI(心美)」を展示。センサー用電極・配線材に用いるフィルム状の機能性素材で、伸縮性に優れ、厚み0.3mm、熱圧着で生地に簡単に貼り付けできるなどの特徴があります。

 

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↑薄く柔らかいセンサーをウェアに内蔵。着るだけで心電図などをセンシングできる

 

装着ではなく「着る」タイプウェアラブルの発展として、スポーツウェア、メディカル用途などへの展開を計画。なお、ウェアとセンサーは耐久性に優れ、家庭の洗濯機で洗濯することができるとしています。

 

犬や猫の気持ちや動きを分析するウェアラブルペットツール

ウェアラブルのムーブメントは人間だけでなく、ペットにも広がっています。anicallでは首輪型の小型ペット用ウェアラブルセンサー「しらせるアム」を展示。加速度センサーと気圧センサーにより動物の姿勢、動きを分解。動きの背景にある感情や心理状態を結びつけて判断することができます。

 

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↑多くの人に囲まれながらも「ルンルン気分」を表示している。遊びたい盛りの小型犬

 

データはスマートフォンアプリから監視でき、1日の活動レベルをグラフィカルに表示。データからは食事状態なども監視できるため、食欲や体調の変化などもデータからわかるとしています。「しらせるアム」2016年夏に9800円で一部をテスト販売しており、現在は一般販売に向け改良中とのこと。

 

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↑大型犬が装着したバイタルスーツ。心拍や集中度、現在位置などを常にモニタリングしている

 

「Anicall バイタルスーツ」は心拍・行動センサーに加え、GPSと通信端末を装備したジャケット型ペットウェア。トレーニングでの集中度や反応確認、散歩、トレーニングでのカロリー消費解析、モニタリングが可能。犬のトレーニングや災害救助犬のコンディション確認など、広く活用できそうなウェアラブルペットウェアです。

 

ペットの本当の気持ちや体調を知るのは難しいので、こういったウェアラブルテクノロジーを利用したコンディション、気持ちの視覚化はお互いの関係を取り持つ良いツールとなることでしょう。

 

メガネメーカーが提案する両眼視スマートグラス「b.g」でPepper目線を体験

メガネスーパーのブースでは、メガネ型のウェアラブル「b.g」のプロトタイプを利用したデモを体験することができました。非透過のディスプレイを搭載した両眼視タイプのグラスで、ベースとなるフレームと、ディスプレイ部が取り付けられた外型のフレームに分かれています。ベースフレームにレンズを入れれば、視力矯正が必要なユーザーでも利用構造です。

 

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↑二重構造になっていて内フレームには度入りのレンズを付けられる

 

デモンストレーションでは、パートナー企業のサービスを利用したデモンストレーションが展示されていました。望遠機能を持った外部デバイスと連携することで、視力4.0を体感できたり、ARを活用した製造・設備メンテナンス指導、の環境データを視野内に表示することで、効率的な営農指導や技術伝承を測る農業面におけるアプローチなど、活用例は実にさまざま。

 

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↑「b.g」の装着イメージ。遠隔操作する人の声をPepperから出力することも可能

 

デモンストレーションのひとつ、Pepperの視線で操作し、ジェスチャーをコントロールできるいう「VRcon for Pepper」システムを体験しました。視野の下半分にPepperのカメラの映像が表示されます。ディスプレイ部は有機ELの1024×768(60P)。入力はHDMIとなり、バッテリーを含んだ重量は約191g。やや重めですが、両眼視タイプは映像の鮮明さが高く、目への負担も少なくなるとのこと。このあたりの設計はやはりメガネメーカーならではのこだわりを感じさせられます。

 

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↑視野の下半分にはPepperの額にあるカメラからの映像が表示される

 

このほかにもさまざまなメーカーが業務用・個人用スマートグラスを展示。スカウター型、両眼視型、そのどちらも快適な視野の確保、装着性の向上、軽量化など年々進化が見られます。それぞれのメーカーが、それぞれのアプローチを繰り広げている激戦区といえるでしょう。

 

ハイレゾ対応骨伝導Bluetoothヘッドホン「earsopen」

BoCoブースでは2017年発売予定の骨伝導式ヘッドホン「earsopen」シリーズを試聴することができました。通常のイヤホンと違い、耳を塞がないため周囲の音を聴きながら安全に音楽や通話を利用することができるとしています。

 

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↑耳たぶに挟むようにして装着する

 

実際に試してみたところ、一般的なヘッドホンと比べて耳への圧迫感がなく、装着しながらでも会話が可能。周囲の音も問題なく聞き取ることができました。再生音域は4Hz〜40kHzとハイレゾ対応ですが、前述のとおり会場内のざわめきなどもしっかりと聞こえてくるため、密閉型のような臨場感は得られることはできませんでした。聴取に適した空間で聞くとまた印象は変わるのかもしれません。

 

なお、直接骨から音の信号を伝えるため、健聴者だけでなく、難聴者でも音楽や会話を楽しめます。騒音の中でもクリアに音が聞こえることなどから、音楽聴取用だけでなく、聴覚補助用、コールセンターやインカム用としてのバリエーションも予定されています。価格は有線タイプで1万円前後、Bluetoothタイプで3万円ほどになる予定。

 

ここで紹介したものやプロダクトのほかにも、実にさまざまなウェアラブル機器やテクノロジーが展示されていました。一般ユーザーにとってすぐに手に取れる製品は少ないものの、ウェアラブルEXPOの会場は可能性が生み出す熱気に囲まれています。

 

2017年、センサーはついに繊維レベルにまで小型化されました。スマートグラスもさらに小さく、軽く、ストレスのないものへ。しかし、こういったウェアラブルの進化は、それ単体の技術だけではなく、バッテリー技術や通信技術、その他さまざまな技術の進化とセットとなります。それゆえ開発側もより良いパートナーを求め、こういったB2Bの場が熱気に囲まれるわけです。

 

この時に結ばれた手と手のちからにより、来年開催されるであろう第4回ウェアラブルEXPOはさらに意欲的かつ熱量の高いプロダクトが登場することでしょう。そしてそれらの一部はやがてコンシューマへ。我々の生活はこういったウェアラブルとさらに密接になっていくことが予見されます。衣服やアクセサリと同じ感覚でウェアラブルを装着するような時代は、そう遠くはないのかもしれません。