長澤まさみ出演の「ありかも、BYD!」CMをはじめ、店舗数の増加に伴い、中国の自動車メーカー「BYD(比亜迪・ビーワイディー)」が着実に知名度を上げています。そのBYDが4月15日、新たなBEV(Battery Electric Vehicle)として新型クロスオーバーSUV「SEALION 7(シーライオン 7)」の販売を開始。それを前に報道関係者向けにプロトタイプの試乗会が実施されました。今回はその試乗レポートをお届けします。
◾️今回紹介するクルマ
BYD/シーライオン 7
495万円、572万円(税込)
※試乗グレード:RWD、AWD
後輪駆動なら500万円を下回る! “お買い得”な理由は?
BYDは小型SUV「ATTO 3」を2023年1月に日本市場に投入して以来、コンパクト・ハッチバックの「ドルフィン」、4ドアセダンの「シール」を立て続けに発売。そしてSEALION 7は、2025年4月15日にその第4弾として発売されたモデルで、シールをベースにSUVならではの実用性を高めたモデルとして登場しました。
そのラインナップはすべてバッテリーEVで、駆動方式にRWD(後輪駆動)とAWD(4輪駆動)があるものの、グレードはシンプルに1種類だけ。基本的な装備はRWD/4AWDともに同じで、駆動用バッテリーも共にリン酸鉄のブレードバッテリーで容量は82.56kWhとなっています。ただ、一充電走行距離はRWDが590kmとなっているのに対し、AWDは少し短く540kmとなります。これは4輪駆動としたことで、走行時の負荷が増えることが影響しているからです。

また、タイヤサイズもRWDがフロントが235/50R19とリア255/45R19を組み合わせますが、AWDは前後共に245/45/R20を採用しました。両タイプはホイール径が違うため、見た目にはホイール径が大きいAWDの方が格好良く見えると思います。それと最低地上高もRWDが150mmですが、AWDは160mmと少し高くなり、これはサスペンションの取り付け位置の違いに要因があるようでした。

興味深いのはその価格です。ベースとしたシールは、日本で展開されているBYDのラインナップでは最上位に位置するモデル。それにも関わらずSEALION 7は、AWDが572万円、RWDが495万円とかなりお安い。装備面でシールと比べてもそれほど見劣る印象はないのに、です。
実は、BYDは4月1日に、既発売車種の値下げを実行しています。ATTO 3では32万円の値下げを実施し、コンパクト・ハッチバックのドルフィンでは新たに299.2万円の新グレードを追加するなどして、お買い得感なラインナップとしていたのです。
背景にはCEV補助金の大幅な減額がありました。BYDはこれまでこの補助金額が最大85万円でしたが、24年度は35万円にとどまり、これによるユーザー負担の軽減を図ろうと価格引き下げを実施しました。シーライオン 7はそうした状況を鑑み、シールに比べてもお買い得感のある設定となったようです。
車内も広々! BEVならではのロングホイールベース
ボディサイズは全長4830×全幅1925×全高1620mmで、ホイールベースは2930mm。気になるのは2m近い横幅かもしれませんが、これが運転席に座るとSUVらしくやや高めであるのと、スランとしたボンネットの見切りが良いためにそれほどサイズ感は感じないで済みます。シートポジションも合わせやすく、自然なポジショニングが可能でした。
シートはたっぷりとしたサイズで、運転席はもちろん電動パワーシートが備わります。シートヒーターとベンチレーションが組み込まれ、シートヒーターはリアシートにも装備されます。これなら冬でも夏でもながら快適に過ごすことができそうです。また、後席の広さは十分で、つま先が前席シート下に入れられることもあって自然なスタイルで座ることができるのは良いと思いました。


SUVだけにカーゴスペースの広さが確保されており、バックシートは6:4で分割して倒せるほか、すべて倒せば広大な面積のカーゴスペースが誕生します。加えてボンネットを開けばボストンバッグが楽に入るほどのスペースも用意されています。まさにBEVならではの装備といえるでしょう。

ダッシュボードの中央には15.6インチの大型モニターが備わり、これはシールやATTO 3と共通のサイズでタテ表示にも切り替えられます。ここでは様々な車両設定が行え、その動作もサクサクとして気持ちよさを感じさせるものです。カーナビゲーションはゼンリン製地図データを導入しており、このモニター上でフル表示してルート案内を行うこともあって見やすさは抜群です。また、BYD共通の対応として、輸入車ながらウインカー位置を日本車と同じ右側にしているのはありがたいですね。




思わず笑ってしまいそうになったのがカラオケ機能の搭載です。中国ではこの機能が人気だそうで、BYDの車両にはベーシックなドルフィンにも装備されているほど。きっと中国では、車内で口パクしながらドライブしている光景が多く見られるんでしょうね。


2tを超えるボディで、時速100キロまでわずか4.5秒!
さて、その走りではシール譲りのスポーツカー並みの加速感を味わえます。それもそのはず、出力はRWDでも230kW/380Nm、AWDでは前後モーター合計で390kW/690Nmという圧倒的パワーを備えているからです。それだけに0→100km/hのタイムはRWDで6.7秒、AWDにおいてはわずか4.5秒! SUVとなったことによる重量増による影響でシールの3.8秒には及びませんが、実際に体験するとその加速感には圧倒されてしまいます。AWDを体験しなければ、RWDでも充分なパワーを感じるでしょう。
それと素晴らしいと感じたのは、AWDに採用されている「iTAC」による制御です。これはシールにも搭載されている制御機能で、相応状況に応じて前後のモーターを制御し、最適なトルク配分を自動的に調整するというもの。そのため、グリップ力が高く、コーナリングにおいて安心感のある走りが楽しめるのです。ハンドリングも素直で、太いトルクによる立ち上がりの加速力とも相まって、峠道などのコーナーではより楽しい走りが楽しめるはずです。
一方のRWDはAWDのような安定感で及ばないにしても、フロントが軽い分、軽快さがあって応答性も素直。2tを超える車重の効果もあってRWDとは思えない踏ん張り感を示してくれたのは確かです。一般的な走りの範囲内なら、これでも十分なパフォーマンスを実感できると思います。
乗り心地では、シールよりも路面からの応答がマイルドになっており、路面の段差もかなり快適になって進化した印象を受けました。荒れた路面でもフラット感があり、特に重量のあるAWDではその印象を強く持ちました。遮音性が高いサイドガラスを使ったことで、少なくとも運転席での静粛性は抜群。これらを総合すると、かなり快適なSUVに仕上がっていることを実感しました。

この日は確認はできませんでしたが、通信によるアップデートができるOTA(Over the Air)にも対応したことで、購入後も最新バージョンに進化させることも可能となっています。BYDでは車両内の機能操作には音声で対応できていましたが、カーナビゲーションでの目的地設定ができないことが課題となっていました。しかし、それもOTAでのアップデートで対応可能となったそうです。これは今まさに注目されている先進テクノロジー「SDV(Software Defined Vehicle)」の一環。この対応により今後の進化がますます楽しみになってきました。
SPEC【シーライオン 7】●全長×全幅×全高:4830×1925×1620mm●車両重量:2230kg●パワーユニット:永久磁石同期モーター(リア)●最高出力:312PS[システム総合312PS]●最大トルク:380Nm[システム総合380Nm]●WLTCモード燃費:590km
SPEC【シーライオン 7 AWD】●全長×全幅×全高:4830×1925×1620mm●車両重量:2340kg●パワーユニット:かご形三相誘導モーター(フロント)+永久磁石同期モーター(リア)●最高出力:フロント217PS・リア312PS[システム総合529PS]●最大トルク:フロント310Nm・リア380Nm[システム総合690Nm]●WLTCモード燃費:540km
【フォトギャラリー(画像をタップすると閲覧することができます)】
撮影/宮越孝政