「いまひとつ味が決まらない」「そもそも料理が面倒」「レパートリーが少ない」など、料理にこうした苦手意識を持っている人はいませんか? そんな人におすすめしたいのが、料理研究家・石原洋子さんの新刊『一生もの献立』(ワン・パブリッシング)です。料理教室歴50年以上、80冊以上の著書を持つ長年の料理人生から導き出した「一生ものの料理術」の数々が詰め込まれています。その一部を少しだけ、ご本人に教えてもらいました。
石原 洋子(いしはら ひろこ)
料理研究家。幼い頃から母親と共に台所に立ち、「昼食は自分たちの手で」という食教育の自由学園に学ぶ。卒業後は家庭料理、フランス料理、中国料理など、各分野の第一人者に学び、アシスタントを務めたのちに独立。明るく飾らない人柄と確かな根拠に基づく指導に定評があり、自宅で開く料理教室は50年以上になる。
基本の「一汁三菜」を、もっと自由に、もっとバランス良く

長年、料理に携わってきて思うのは、もっともっとたくさんの人に「料理って楽しい!」と感じてほしいということ。たとえば、毎日の献立に悩んでいる人って、とっても多いですよね。献立を考えるのが億劫で、料理自体が嫌になってしまった……なんて声も聞きます。そんな悩みを少しでも解消したいと常々考えていました。
―確かに、毎日献立を考えるのは私も苦痛です(苦笑)。どんな献立を考えたら、家族もおいしく食べてくれるでしょうか。
これまでにいろいろなレシピを考案してきましたが、やっぱり戻ってくるのはオーソドックスな「一汁三菜」なんですよね。なおかつ、毎日飽きずに、おいしく食べられるもの。
たとえば、同じ日の献立の中で「味が重ならない」ことは、とても大切です。出来上がってみたら酸味が強いものばかりだったとか、味付けが似てしまったということはよくあります。昔は「五味」と言われましたが、それはなかなか大変ですので、私が意識しているのは“こってり”と“さっぱり”を一品ずつ盛り込むこと。こうすることで、最後まで飽きずにおいしくいただけます。
ほかにも、「さまざまな食材を取り入れる」ことは、食卓を彩り良く華やかにしてくれるだけでなく、栄養面でも効果的です。「食感のある料理」を一品入れると、アクセントになって献立にリズムがつきます。「主菜と副菜のボリュームバランス」も、意識したい点ですね。
―先日発売になった『一生もの献立』には、から揚げ、ハンバーグ、ぶりの照り焼きに親子丼と、みんなが大好きな鉄板献立が並びます。
基本の一汁三菜をベースに、現代の暮らしに合わせたアレンジを加えました。献立の数は、全部で30。味つけやボリューム、栄養面にはもちろんこだわっていますが、主菜が少し手の込んだもののときは、副菜を手間なく作れるものにするといった工夫もしています。お料理は毎日のことだから、疲れるようなことになってはいけませんので。
とにかく、本の通りそのまま作ってもらえれば、手軽に一か月間毎日違った献立を楽しめますし、主菜から決めたり、組み合わせを変えてもらったりしてももちろんOK。紹介している基本の献立を作ることができれば、一生料理には困りませんよ。
誰でも手際よく作れる!「ダンドリ」が料理の時間を180度変える
―献立を考えるのともうひとつ、私がよくぶつかるのは、料理の手順の壁です。思いつくまま作っていると、最後にまた温め直したり、揚げ物がしなしなになったり……食べごろで料理を提供するのって、すごく難しいです。
同じような悩みをよく聞きますよ。調理で意識したいのは「ダンドリ」です。私のレシピでは、温かいものは温かく、冷たいものは冷たく召し上がっていただけるように、どの順番で食材を切って、どのタイミングで仕上げにかかるのか、調理の順序や火の通し方までを細かく記載するようにしています。

―なるほど! 先を見越して取り掛かる順番を考える。マルチタスク処理能力や、タイムマネジメントスキルにもつながりそうです。
そうかもしれませんね。意外に見落とされがちなのは、「同じ調理器具を使わないようにする」こと。ガス、電子レンジ、オーブントースターなどをうまく使い分ければ、効率は格段に上がります。一つの鍋が空くのを待つ間に別の調理を進められるので、時間がない時でも手際よく、複数の料理が作れますよ。
小さな工夫が成功のカギ。「失敗しない」調理のコツ
―そのほかに、石原先生ならではの調理のコツやこだわりはありますか?
そうですね、たとえば、私が作るハンバーグはちょっと小さめです。ハンバーグって、いざ食べようと思ったら、中がまだ赤かったりするじゃないですか。サイズを小さくすれば、焼き時間も短くて生焼けの心配もありません。

盛りつけ方で言うと、本の中では、ハンバーグに合わせる副菜として、レンジで作れるポテトサラダを提案していますが、あえて別のお皿に乗せています。プラス、ブロッコリーの副菜とみそ汁。一つひとつを別で盛り付けることで、味が混ざらないという利点もありますし、献立にボリュームが出るので、見た目にも満足感があります。
それぞれほんの少しの工夫ですが、「誰でも失敗なくおいしく作れる」ことを一番に考えているので、ぜひ試していただきたいですね。
石原流「一生ものの調味料」の黄金比と、料理を「遊ぶ」マインドセット

―先ほどから、お料理の話をしている石原先生のお顔がとても楽しそうです。
本当にね、料理って楽しいの。難しく考える人もいるけど、じつはとっても簡単でロジカルなんですよ。私は昔から、化学調味料をできるだけ使わず、食材本来の味を最大限引き出すことにこだわっています。
そんな中でたどりついた「一生もの」の味付けは、「酒:みりん:醤油=1:1:1」という黄金比です。そこに、料理や好みに応じて、砂糖を付け足す。このシンプルな割合さえ覚えておけば、どんな料理にも応用できます。煮物だって怖くないですよ。
―確かに、本の中のレシピを見ると、基本はこの黄金比になっています!
あともうひとつ、「醤油と塩の置き換え」をして、いつも料理を楽しんでいます。醤油大さじ1と、塩小さじ1/2は、ほぼ同じ塩分量なんですよ。いつものお料理でも、醤油のかわりに塩を入れてみると、なんだか上品な味に仕上がったりする。初めての組み合わせに挑戦するなど、ゼロから考えていくのが好きなんです。いろいろ試してみると、すごくおもしろいですよ。
料理は家族みんなの「心の栄養」
―最後に、この本をどんな方に届けたいかお聞かせいただけますか。
料理って、みんなができるといいじゃないですか。お子さんがいるご家庭だったら、親子一緒に作ることで、嫌いなものを克服できるきっかけになったりもします。食育にもつながりますよね。一人暮らしをされている方なら、普段は忙しくて外食が多くても、お休みの日はちょっとお料理に挑戦してみる。
家族みんなが料理に参加することで、食卓はもっと豊かになると思います。老若男女問わず、お料理を通して笑顔になれる。この本がそんなきっかけになれたらうれしいです。
