ことわざというものは、世界各国に存在する。日本のことわざに「情けは人のためならず」というものがあるが、英語でも「One good turn deserves another.」ということわざがある。このように、同じような意味のものもあれば、日本ではあまり聞いたことがないものもある。
ポルトガル語のことわざも日本と同じものがある
『ポルトガル語ことわざ辞典』(ポルトガル語ことわざ研究会・著/東洋出版・刊)には、約1500のことわざ、故事などが収められている。これを読んでみると、日本のことわざに近いものも多く見受けられる。
例えば、「甲の不幸は乙の福」ということわざは、日本で言えば「人の不幸は蜜の味」だ。
「嵐の前の静けさ」なんていう、日本とまったく同じ言い回しのことわざも存在する。
ことわざというものは、世界的にだいたい同じようなものがあるのだろう。先人の考えというのは、国が違えど同じなのかもしれない。
日本ではなじみのないことわざもある
しかし、本書を読んでいると想像がつかないことわざもある。
「ありくいの抱擁」
これはどんな意味なのだろうか。
解説によると「偽りの友が示す友情表現の意。裏切り行為」ということだ。
”ありくいは貧歯類の動物。この動物は餌食となる動物を待ち伏せる時は、後ろ足で人間と同じような格好をして立つ癖がある。そして動物を捕まえると前足で相手を抱きこみ、爪を相手の背中に突き刺して殺してしまう。このようにあたかも友情の抱擁と見せかけて相手を殺してしまうことから、この表現が生まれた。”
(『ポルトガル語ことわざ辞典』より引用)
日本では、ありくいという動物自体があまりメジャーではないから、このようなことわざは生まれないだろう。日本で言えば「飼い犬に手を噛まれる」に近いかもしれないが、ちょっと違う気もする。日本のことわざで、これにドンピシャで当てはまるものが思いつかない。
同じ意味でも表現が異なる
ポルトガルのことわざで「枕と相談する」というものがある。これは「寝てゆっくり考える」という意味。本書には日本語の同義のことわざとして「枕と談合」と掲載されているが、あまり聞いたことがない。
「商店を閉めるほどの女」ということわざは、日本語ならば「水もしたたるいい女」に相当する。店を閉めて従業員が見惚れてしまう美女を形容している。
同じ意味のことわざでも、表現が違うのはおもしろい。国民性みたいなものが垣間見えるだろう。
このポルトガル語のことわざに相当する日本のことわざは?
それでは最後に問題を。
以下のポルトガル語のことわざを日本のことわざで言うとどうなるだろうか。
「美しさは食卓に置かれない」
「訂正は十四行詩より大きかった」
「まだ生まれた時のおしめの臭いがする」
想像力をふくらませると、なんとなく意味がわかるかもしれない。ぜひ、日本語でしっくりくることわざを見つけてほしい。
答えはそれぞれ下記のとおりだ。
「美しさは食卓に置かれない」→花より団子
「訂正は十四行詩より大きかった」→箸にも棒にもかからない
「まだ生まれた時のおしめの臭いがする」→尻が青い
(文:三浦一紀)
【参考文献】
出版社:東洋出版ポルトガル語のことわざをわかりやすく解説している1冊