あんこが好きだ。ヤマザキの高級つぶあんぱん(栗入り)や、こしあんが載っている串だんごも好きだ。うちのばあちゃんが手作りしてくれる「おはぎ」も大好きだ。そういえば、あんこってどうやって作るのだろうか?
あんこの作りかた
あんこは、小豆(あずき)から作る。お赤飯にも欠かせない赤色の豆だ。小豆の表皮ごとつぶしたものを「つぶあん」という。表皮をとりのぞいた部分だけでつくれば「こしあん」になる。
小豆の中身、つまり表皮の内側を「呉」という。ホクホクしている部分だ。ゆでた小豆の「呉」に砂糖を加えることによって、甘くておいしい「あんこ」になる。
あんこを作るときにいちばん気をつかうべきは「渋抜き」だ。小豆には、渋味のもとであるタンニンやサポニンが多量に含まれているので、この渋抜きをおろそかにするとあんこにの味が台無しになってしまう。
ただし、いっさいの渋みがなくなるまで「渋抜き」をしてはいけない。小豆は「渋み=うまみ」であり、渋みをどれだけ残すかによって、あんこの味わいに個性を与えることができるという。
ちなみに、アンパンマンの中身は「つぶあん」だ。(参考:アンパンマンQ&A)
あんこ好きのための永久保存版ガイドブック
『あんこ読本』(PHP研究所/刊)は、あんこ大百科と和菓子の名店ガイドブックを兼ねそなえた一冊だ。きんつば、串団子・どら焼き・羊羹・もなか・大福・ぜんざい・饅頭などをおもに扱っている東西27の有名あんこ和菓子店に取材して、職人たちからあんこに対するこだわりを聞き出している。
驚くべきことに「企業秘密」なんて野暮なことを言う職人さんはひとりも見当たらない。渋抜きする回数から小豆や砂糖の種類や塩の量まで、ほとんど包み隠さずといった感じでインタビューに答えている。
たとえば、大福餅で有名な東京白銀高輪の「松島屋」の三代目主人は、松島屋の大福にふさわしいあんこを作るための制作工程やこだわりを4ページにわたって語り尽くしている。ほかの店主たちのインタビュー記事も同様かそれ以上の情熱を帯びており、読みごたえは十分だ。
ご当地のあんこ菓子を買ってきた
あんこあんこあんこと書いていたら、ムショーにあんこが食べたくなった。
私が住んでいる町には、昭和の名残を感じさせる木造家屋の和菓子屋が珍しくない。近所の商店街には、手づくりのおいしい和菓子を売っている店がいくつもある。
と、いうことで。さっそく買ってきた。
「圓八(えんぱち)」のあんころ餅。北陸新幹線が停車する金沢駅からわずか2駅、松任(まっとう)駅のそばに本店を構える創業270年の和菓子店が手がける逸品だ。
全部あんこ。あんこ座布団。CDアルバムくらいの大きさ(12センチ四方)だ。「囲」という字の空白を埋めるようにして、9個の白いモチが埋まっている。付属のつまようじで、あんこ畑を突っつけば、かならずモチを引き当てられる。
食べだしたら止まらないあんこの魅力
当日つきたてのモチにからみつくあんこを口にはこぶ。うまい。ふむふむ……なるほど……これが圓八のあんこの渋みか。甘さひかえめ。あんこの舌触りはしっとりしているから、お茶がなくても喉に詰まることがない。口の中があんこまみれだ。1文字ちがったら大変なことになる。あんこまみれ。
圓八のあんころ餅は、あんこ好きでものけぞるような外見をしている。量も多い。はじめ、2回に分けて食べようと思っていたけれど、食べだしたら止まらなくなった。
2個目……3個目……まるでイモ掘りのような、あんこ畑を掘り起こしていくこの感じ、わるくない。昼食を食べたばかりで満腹のはずなのに、気がついたら全部なくなっていた。1包370円。満足度は高い。本店まで足を運ばなくても、金沢駅や市内のデパートや小松空港などで買える。
(文:忌川タツヤ)
【文献紹介】
あんこ読本
著者:和菓子好き委員会あんこ部(著)
出版社:PHP研究所
どうしてあんこに引き寄せられるのだろう? あんこ好きにはたまらない東西のあんこの名店を訪ねながら、あんこにまつわる奥深い話を探っていくと、その答えが見えてきます。職人はあんこをおいしくつくるために、そこまでこだわるかというほどの思いで日々あんこづくりに勤しんでいます。さらには主役のあんこを食べるための加工、それが大福であったり、もなかであったり、たい焼きであったり、きんつばであったり……、その姿かたちにもおいしくつくるためのこだわりがあります。あんこの食べ方はさまざまあれど、あんこ好きはあんこなしでは生きられないのです。本書はあんこの歴史、基本知識、東西27の名店のあんこ職人の心意気、自分でつくるおいしいあんこのつくり方までを徹底網羅した、あんこ好きも唸るあんこのすべてを知る一冊です。