初めて目にする絶景に心を揺さぶられたり、新しい味覚やカルチャー、そして価値観と出会ったり……。旅は、私たちにたくさんの刺激と活力を与えてくれます。そんな日常を離れた極上の旅体験を重ねていくと、やがて「暮らすように旅をする」という旅スタイルに憧れを抱くようになる方も多いのではないでしょうか。長期滞在したり、ホテルではなくコンドミニアムなどに宿泊して自炊したりすることはひとつの方法ですが、もっと手軽に「暮らすように旅をする」方法があります。
それが、旅した先でランを楽しむこと。ローカルな風景を間近に見ることで、現地の生活者の一員になったような気分を味わうことができます。とりわけ、地元の人たちの生活スポットである街なかを走る“街ラン”には、ガイドブックには載っていない意外な発見や楽しみがいっぱい。街ランをきっかけに、地元の人のみぞ知る穴場スポットや名店を知ることは難しいことではありません。
街ランや、旅先での街ラン=“旅ラン”の魅力を探るべく、ランニングを軸にさまざまな活動を行う「RunGirl」のメンバー、入江由起さんに話を聞きました。
旅先でランするメリットとは?
旅行や帰省には必ずランニングシューズを持っていき、滞在先でもランニングを楽しむという入江さん。メインの写真と下の写真は、入江さんが2016年に訪れたバリ島はウブドのホテルの敷地内をランしているときの様子です。
旅先でのランニングはトレーニングと違って、あくまで楽しく体を動かす感覚で行うのがベターだと話す入江さん。
「それほど速いスピードではなく、時間を決めて、次の予定までの空いた時間に楽しむのがいいと思います。おすすめは、起きてから朝食までの時間。海外旅行の場合は、太陽の光を浴びることで体内時計が正常になり、時差ボケを治す効果もあります。また、単純にランニングするとおなかがすくので、食事がおいしくなります。さらに、朝早くから活動をスタートできるので、その後の時間を有効に使えるという大きなメリットもあるんです」(入江さん)
“旅ラン”するなら朝!
旅先で街ランする場合も、入江さんは朝の時間がおすすめだと言います。
「人びとが活動し始める朝の時間帯は、街全体がとてもエネルギッシュ。1日をスタートする地元の方たちの暮らしが垣間見えるので、楽しく走れます。私はよく、朝食をとるカフェを決めてそこまでランします。以前ハワイへ行ったときには、ハウツリーラナイというお店のエッグベネティクトがおいしいということで、旅仲間と、そこで朝食を食べようという話になったんです。ただ、お店はホテルから少し離れているうえに早朝なので交通機関もない。そこでランニングが移動手段となり、みんなで楽しく走りながら目的地まで行けたのはうれしかったですね」(入江さん)
ほかにも、ファーマーズマーケットまでランして、そこでフレッシュなジュースや焼きたてのスコーンを調達したり、国内旅行であれば港の朝市までランして、新鮮なお魚を食べたり……。入江さんの旅ランエピソードは、聞いているだけでワクワクするものばかりです。
「海外でも朝走る人は多く、そんなローカルランナーたちに混じって走ることもあります。どこの街にもランナーが数多く集まる場所があるんです。例えばニューヨークならセントラルパーク、シカゴならミシガン湖の湖畔など。地元のランナーたちは、走ると気持ちのいい場所を知っているので、彼らが向かって行く場所を目がけて走ると、まちがいないですね」(入江さん)
地元のランナーとは、「どこから来たの?」という会話が生まれたり、彼らがおすすめのお店を教えてくれたりすることもあるそう。
「ランニングを楽しんでいるという共通点があるだけでお互いに親近感が生まれますし、ランナーにはヘルシー志向の方が多いので、食べ物の好みが似通っているなど、心地よいと思える場所が重なるんです。彼らが教えてくれたローカルなおすすめスポットへ行き、その場所で出会ったまた別の地元の方から新たな情報を得て、『次はそこへ行ってみよう』と、滞在先での行動範囲がどんどん広がっていく経験は、一度や二度ではありません」(入江さん)
旅が豊かになる、現地での“街ラン”
入江さんに旅先での街ラン、つまり旅ランの魅力を尋ねたところ、開口一番に「旅が豊かになることです」という答えが返ってきました。
「普段は音楽を聴きながら走ることが多いのですが、旅先での街ランでは、イヤホンを外します。現地の風の音、街の音、人の声に耳を傾け、景色を楽しみながら走りたいからです。走りながら目に留まったショップを覚えておいて、『ランチはここにしよう』『明日はこの雑貨屋さんに行ってみよう』と計画することもあります。車では見逃してしまうような場所にたどり着くことができるのは、街ランの大きな魅力。それが、旅が豊かになるゆえんだと感じています」(入江さん)
気分の上がるランニングウエアで走る
旅先で楽しくランニングするために欠かせないのが、ランニングウエア。入江さんは、機能的でシンプルなウエアに、アクセントでカラーを入れるコーディネートが気に入っているのだとか。
「普段のファッションはベーシックな色味が多いのですが、ランニングシューズは別。走っていて元気が出るような明るいカラーを足もとに持ってきて、そのほかのアイテムはシックな色味のものを選ぶというスタイルをよくします。ファッションも走るモチベーションになるので、好みのスタイルを見つけて楽しむといいですね。私は海外ランナーのインスタを見て流行りをチェックしています。また、ブランドだとビクトリアズシークレットのスポーツラインに注目しています」(入江さん)
旅というほど遠出しなくても、ちょっと足を伸ばすだけで街ランを味わうことはできます。ぴったりの街とは……。