一見するとシンプルながら、その実、使い勝手がよく、機能性に優れた製品を「機能美あふれる」と形容します。これは文房具や家具などに使われることが多い表現ですが、ベビーグッズの分野においても、この言葉が見事に当てはまるものがありました。それはピジョンの母乳実感哺乳びんです。
そこで今回は、同社の哺乳びんに隠された機能性とデザインを掘り下げるため、つくばみらい市にあるピジョン中央研究所を訪問。同社の開発本部でフェローを務める斉藤 哲さんにインタビューを行いました。育児休暇を取得したパパや子煩悩な父親だけでなく、モノづくりやデザイン全般に興味がある方にとっても興味をそそられるお話です。
全部同じではない。様々な種類がある哺乳びん
赤ちゃんが誕生すると、多くの家庭が用意する哺乳びん。ドラッグストアやベビー用品店には多くの種類が並んでいますが、違いがわからず、「どれも同じでしょう?」と考えている方も多いのではないでしょうか。8年前に長女が誕生した筆者もその1人でしたが、 実は哺乳びんは赤ちゃんの月齢やメーカーによって大きく違うのです。例えば、ピジョンの哺乳びん「母乳実感」では、月齢に合わせてSS、S、M、L、LLと5つのサイズの乳首が用意されています。
「SSは0か月の赤ちゃんが使う新生児用です。このころの赤ちゃんは吸う力が弱くて、まだ上手に飲めません。なので、シリコーンはできる限り柔らかく、弱い力でも吸えるように作っています。その逆に、9か月以上の子が使うLLサイズでは、歯で噛んでも破れないように弾力性の強いシリコーンを採用しています。この5つの乳首はそれぞれ月齢に合わせて、最適な乳首になるように材料の配合から変えているのです」と斉藤さんは言います。
さらに、近年変わってきているのがボトルです。ボトルは素材としてガラスとプラスチックを用意。これも、月齢や使い勝手に合わせて様々なサイズのボトルが選べます。 例えば最近人気なのが、コロンとしたフォルムで可愛らしい「母乳実感 哺乳びん my Precious(マイプレシャス)」(写真下・左)。0か月からの赤ちゃんに合わせて80mlサイズから用意されており、クマやハリネズミなどのボトルのかわいいイラストも評判です。
また、プラスチックの哺乳びんにはポリフェニルサルホン(PPSU)という耐熱性の高い、特殊なプラスチックを採用。プラスチックの哺乳びんは軽さで優れ、また割れにくいのがメリットですが、衛生面ではガラスのほうが優れていると思われています。しかし、母乳実感のプラスチック製哺乳びんはガラスと同等の方法で煮沸消毒できるなど、使い勝手も向上。このように、哺乳びんは機能的な進化とトレンドの変化が常に起きているのです。
その昔、哺乳びんの乳首は先端にミルクの穴があいているだけでよいと思われていたこともあったそう。しかし、ママと赤ちゃんのためにより良いものを作りたいと考えたピジョンでは、哺乳で大事なことは何かを徹底して分析しました。
そこで発⾒したのが「吸着」、「吸啜(きゅうてつ)」、「嚥下(えんげ)」の3つの法則。「吸着」はおっぱいをくわえるということ。「吸啜(きゅうてつ)」は⾆を動かして乳首を上顎に押しつけて⺟乳をしぼり出すような運動。そして、「嚥下(えんげ)」が飲み込むという運動です。どれか1つが欠けても、赤ちゃんは母乳を飲むことができません。これは現在では「哺乳三原則」として一般的になった考え方ですが、これを提唱したのも実はピジョン。そして哺乳のための3つの運動それぞれを極めるべく、開発されたのが母乳実感の乳首なのです。